第六章 運命
<1 浮いた城>
「おおおおおぉーーーーっ!! すげーすげー!! 城が浮いた! 元に戻ったーっ!!!」
蔵馬が、過去から持ち帰ったゴールドオーブ。 確かに、浮いた。
……が。
「…………」 1人はしゃぐ桑原の横で、碧たち親子3人は、微妙な顔を隠さずに黙っていた。
そもそも、天空城を訪れた目的といえば。 本来、行きたかったのは、『光の教団』アジトである『大神殿』で。 ……そして、やってきたのだ。
魔界へ通ずる門の手がかり&大神殿に行く手段となることを期待して。
……それがふたを開けてみれば、 「桑原のおっちゃん」 「この城……これ以上飛ばないのか?」 「「「…………」」」 今度こそ、絶句。
無理もない。 せいぜいが、あの天空への塔すれすれといった高さで。
とてもではないが、あの高さから大神殿には登れない。 揃って、はあ〜っと深い溜息をついた。
「桑原くん。適当に城の中、見せてもらっていいかな? 水没していたところも、今なら見られるだろうし」 脱力しつつも、天空界の情報もバカに出来ないだろうと、とりあえず城内部を見て回ることになった。
「じゃあ、俺は書庫を見てくるから」 一緒に行動していても、時間の無駄なので、三手に別れる。
「ふ〜ん……何処にいたんだか、随分賑やかになったな」 碧がてくてくと歩いていると、先ほどまでは感じなかった気配があった。 といっても、邪気はない。 普通の人間のような……でも少し違うような。
そっと柱の影から覗いてみて、分かった。 沈んだ城の何処にいたのか、気配の主はどうやら天空人たち。
城が沈んでいた間、何処に隠れていたのかと不思議になるほど、たくさんいる。 いちおうはこちらが不法侵入のはずなのに、敵対心は感ぜられない。
しかし、単純に天空人といえば、羽が生えているだけなのかと思えば、どうやらそうでもないらしい。 中には碧とよく似た容姿の人もいる。
一瞬、白狐か銀狐かと思ったけれど、羽が生えていて。 むしろ、何か近いものを深く感じられた。
「……そういえば、『伝説の勇者』って、天から舞い降りたって伝説だったっけ」 真実か虚像か。
『勇者』の子孫が何処にいるのか分からないのも、彼が元は天空人で、なおかつ『狐』の外見を兼ね備えた男だったのなら。 長い年月の間に、地上で生活する上で必要のない羽が退化、『白狐』という少数民族となったのだとしたら。
この耳や尾は、父方の祖母である銀狐の血だと思っていたが、この仮説が正しければ、これは母方の血なのだろう。 おそらく、梅流の知らぬ両親のどちらか、あるいは更に先祖の誰かに白狐がいたのだ。
しかし、同じような外見を持つ『銀狐』もおそらく、『勇者』と無関係ではあるまい。 魔界との門を守っていた種族なのだから、『勇者』と共に、人間界へ降りたった天空人の子孫なのかも。 髪の色や瞳の色が、それぞれで統一されたのは、長年の交配の過程での遺伝子の作用と考えられる。
「……ま、関係ないっか」 今更、『伝説の勇者』の生い立ちやら、『狐』の歴史を考えたところで、何もならない。 大事なのは、今。
「あれ?」 適当に各部屋を見て回っていた碧は、とある部屋の暖炉の奥に隠し部屋のようなものを見つけた。 訝しみにながらも入ってみると、中にいたのは1人の老人。
「おお……そなたが『伝説の勇者』じゃな」 「よくぞ…よくぞ、天空城を空へ返してくださったな」 実際、ほとんど父・蔵馬の手柄である。 しかし、老人は碧の話を聞いているのかいないのか。
「天空界には、かつてマスタードラゴンという神がおられた。だが、その能力はあまりにも強大。いずれは人間界へ進出してくるであろう魔界の住人に目を付けられ、やむなくその力をボブルの塔に封印したのじゃ」 ドラゴン。 御伽噺か、モンスターの一種だと思っていたが、神として、実在したらしい。
(まあ、別にどうでもいいことだけど……あ) ふと碧は思いついた。
「そのドラゴンってさ。ドラゴンなんだから、飛べるんだよな?」 (ってことは、『大神殿』の高さくらい、余裕で飛べるんだ!)
突破口が開かれた。
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