13.いつかまた
アルカパの町へ戻ってすぐ。 父の病はうつったと思われていたのだが、単なる食あたりですぐに治ったらしい。 梅流は悲しんだが、仕方のないことだった。
「じゃあ、梅流」 町の門の外。
……捕まえてきたのが、獣ではなく、ドラキーだったことに、医者は少々焦ったが、蔵馬の父からコウモリ性の毒だろうと太鼓判を押されたため、すぐさま血清を作った。 少年はまだベッドの中だが、それでも峠は越えたらしく、腕の色は随分よくなっていた。
「元気で…ね……」 泣くわけにはいかない。 自分が泣いたら、駄目だ。 梅流は必死に堪えていた。
「ま、また……」 会えるかな? 聞いてはいけない。 蔵馬が普段、どれほど危険な世界で生きているのかを。 どんなモンスターが現れても、顔色一つ変えなかった蔵馬。 そうならねば、生きていけない世界だから
そんな世界へ戻ってゆく蔵馬に。
だが、
「また会えるよ」
聞こえた言葉に、顔を上げた。
「きっとまた会えるから」 「本…当……?」 どうしてそんなことが言えるのか。
「ほら。この子ともまた会いたいでしょ?」 少しはぐらかすように、足元に座っている小さな獣を見下ろした。
「うん……あ、そうだ」 ふと思いたち、梅流は髪に結んでいたリボンの片方を解いた。 リオの前にかがみ、そっと首にかけてやる。 小柄な獣には少し大きめのそれを、梅流は2巻ほどして、首の後ろでリボン結びに留めた。
「どうかな?」 これなら野生だとは思われない。 本人はよく分かっていないらしく、きょとんっとしているその子を、梅流はそっと抱き上げた。
「約束……だよ」 ぎゅっと蔵馬の手を握りしめる。 「また…ね……」
……そう言って、蔵馬はアルカパの町を去っていった。
また会える。 それが『もう会えないかも知れない』からの約束なのだと、この時の梅流は知らなかった。 そして、遂げられない約であったとしても、梅流の心の中にいたいのだという蔵馬の願いなのだと……。
……蔵馬の父が、とある大国で謀反を起こし、サンタローズが滅ぼされたと知らされたのは、この一ヶ月後のことだった。
<第一章 終わり>
*後書* 第一章、幼少期のお二人の物語はこれでお終いです。
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