13.いつかまた

 

 

 

 アルカパの町へ戻ってすぐ。
 蔵馬と父親は出発することになった。

 父の病はうつったと思われていたのだが、単なる食あたりですぐに治ったらしい。
 更に此処から東にある王宮より手紙が届いたとかで、長居は出来ないとのこと。

 梅流は悲しんだが、仕方のないことだった。

 

 

「じゃあ、梅流」

 町の門の外。
 梅流は母親と2人、見送りにやってきてくれた。

 

 ……捕まえてきたのが、獣ではなく、ドラキーだったことに、医者は少々焦ったが、蔵馬の父からコウモリ性の毒だろうと太鼓判を押されたため、すぐさま血清を作った。

 少年はまだベッドの中だが、それでも峠は越えたらしく、腕の色は随分よくなっていた。
 おそらく切断はせずにすむだろう。

 

 

 

「元気で…ね……」

 泣くわけにはいかない。
 だって、蔵馬は笑顔だから。

 自分が泣いたら、駄目だ。

 梅流は必死に堪えていた。

 

 

 

「ま、また……」

 会えるかな?
 そう聞きたかった。

 聞いてはいけない。
 昨晩のことでも、よく分かった。

 蔵馬が普段、どれほど危険な世界で生きているのかを。

 どんなモンスターが現れても、顔色一つ変えなかった蔵馬。
 俊敏に動き、そして倒し、梅流を護ってくれた。

 そうならねば、生きていけない世界だから

 

 そんな世界へ戻ってゆく蔵馬に。
 また、会えるかどうかの確約など……。

 

 

 だが、

 

 

「また会えるよ」

 

 

 

 聞こえた言葉に、顔を上げた。
 蔵馬はにこっと笑って、また言った。

 

「きっとまた会えるから」

「本…当……?」

 どうしてそんなことが言えるのか。
 どうしてそんなことを言ってくれるのか。

 

 

 

「ほら。この子ともまた会いたいでしょ?」

 少しはぐらかすように、足元に座っている小さな獣を見下ろした。
 懐いているわけではないが、それでももう蔵馬と梅流にだけは、警戒心を抱いていないらしい。
 つり上がっていた瞳が、少し丸くなっている。

 

「うん……あ、そうだ」

 ふと思いたち、梅流は髪に結んでいたリボンの片方を解いた。
 小さい頃からずっと使っていたもので、とても気に入っているリボン。
 だが、この子になら……蔵馬と一緒にいるこの子なら、と。

 リオの前にかがみ、そっと首にかけてやる。
 一瞬、びくっとした獣だったが、じっとそのまま動かなかった。

 小柄な獣には少し大きめのそれを、梅流は2巻ほどして、首の後ろでリボン結びに留めた。

 

「どうかな?」
「……うん、いいんじゃないかな」

 これなら野生だとは思われない。
 一人歩きしていても、急に何かされるようなことはないだろう。

 本人はよく分かっていないらしく、きょとんっとしているその子を、梅流はそっと抱き上げた。
 蔵馬に手渡し、重なった手を離さず、言う。

 

「約束……だよ」

 ぎゅっと蔵馬の手を握りしめる。

「また…ね……」
「ああ。約束」

 

 

 

 

 

 ……そう言って、蔵馬はアルカパの町を去っていった。

 

 

 また会える。

 それが『もう会えないかも知れない』からの約束なのだと、この時の梅流は知らなかった。
 同時に、初めてであった時、『またあそぼうね』と告げたことへの、一種のジンクス。

 そして、遂げられない約であったとしても、梅流の心の中にいたいのだという蔵馬の願いなのだと……。

 

 

 

 ……蔵馬の父が、とある大国で謀反を起こし、サンタローズが滅ぼされたと知らされたのは、この一ヶ月後のことだった。

 

 

 

 

 

 <第一章 終わり>

 

 

 

 

 

 *後書*

 第一章、幼少期のお二人の物語はこれでお終いです。
 オリジナルだらけで、すいませんでした。
 二章からは更にオリジナル要素がふくれあがる予定で、ゲームとは違い、梅流さんのビアンカ方面が中心になるかと。

 

 

 

 

 

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