12.おーぶ
「ルカナン!!」 梅流の守備力低下魔法が、巨大なゴーストにまとわりつく。
「よし……いける!」 蔵馬はブーメランを構え、投げた。 だが、まだだ。
「ちっ」 放たれたメラを紙一重で避ける。 飛び道具はどうしても武器が戻ってくるまで、無防備になってしまう。
「蔵馬! 大丈夫!?」 梅流が現在使える魔法は、メラ・マヌーサ・ルカナンのみ。 けれども、彼女が初めて戦ったのは、今日の昼間。
蔵馬が意識して前へ前へ出ているため、モンスターの攻撃はほぼ彼に向かっており、そのためほとんど怪我はなかったが。 無論、蔵馬はそんなことを彼女に告げはしない。
(ゴメンね、蔵馬……)
前に出れば、それだけ蔵馬への危険が増す。 そして、彼が気づかせないようにしてくれていることを言えば……彼も傷つく。
言えない。
(絶対に。護るから)
足手まといにならないように。 それだけが全てだった。
「はあっ!!」 ドスッと鈍い音がして、ゴーストの頭が割れた。 急所を的確に突かれたゴーストは、断末魔を上げながら霧散していく。 何となくだが、気づいていた梅流。
「やった…の…?」 親玉のゴーストが消滅した時だった。
「な、何あれ?」 梅流は泪を拭った。
『ありがとう……』
その声は確かに聞こえていた。
……光を追って、城壁を上った時には、もう夜は明けていた。 見晴らしの良い塔の上には、ゴーストのことを教えてくれた王と、その妻たる王妃の姿。 笑顔でお礼を言う彼らは、もうかなり薄くなっていた。
『これを……』 ふわり。 すっぽりと蔵馬の手の中におさまったソレは、小さな丸い石だった。
「綺麗……」 ほろりと梅流が呟くのも無理はなかった。 「何だろう、オーブみたいだけれど。梅流いる?」 何となくだが、そうあるべきだと思った梅流。
「それはそうと」 やっと城が、皆の魂が解放されたのに、蔵馬の顔色は晴れない。 「どうしたの?」 「あ」 ゴースト退治に勤しみすぎた。
「いなかったね、お城の何処にも」 やはり駄目だったのだろうか?
ぐぐっとせり上がってくるものを堪える梅流。 と、その時だった。
「あ」 塔を降りきった階段の一番下。 「ど、どうして?」 驚きながらも、よく見てみると、獣は何かを咥えている。
「ドラキー…かな。そうか、毒の原因はこれか」 「おかしいと思ってたけどね。獣で爪に毒があるなんて、あまり聞いたことがないから」 苦笑気味に言って、蔵馬は残りの階段を降りてゆく。
「つまり、この獣はドラキーに攻撃したかされたかで、爪に体液がついていたんだよ。その爪で引っかかれたから、あの子は毒に犯されたんだ」 どうやら人語を理解していたらしい。
「じゃあ、帰ろうか」 獣からドラキーを受け取り、噛み付かないように口を縛った上で、麻袋の中にしまい込む。 「うん! あ、あなたどうする?」 梅流が声をかけたのは、立ち去ろうとしていたオレンジの獣。 かといって、町へ戻れば、どんな目に遭うかも分からないけれど……。
「俺が連れて行こうか」 何となく出た言葉だった。
『……』 獣は少し逡巡したようだったが、歩き始めた蔵馬の後ろを着いてきたのだった。
「ね、ね。名前どうしよ?」 それは、大好きな絵本に出てきた不思議な生き物の名前だった。 「うん。いいんじゃないかな」 振り返った先で、獣のしっぽが小さく揺れた。
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