「待ってたよ。梅流」
蔵馬は寝台に腰掛けた状態で、梅流を迎えた。 彼の部屋の入り口で驚いている梅流の格好もまた然り。
「行くんだろう? お化け城」 梅流は頷いた。
10.しゅっぱつ
獣が逃げ出してからも、蔵馬の動きは迅速だった。 ひどく動揺しながらも彼らが動き出したことを確認してから、蔵馬は宿へと戻る。
「ど、どうしたの? 蔵馬」 そうかと納得し、梅流も身を乗り出して、獣を探す。 小柄ではあったが、しっぽは大きかった。 逃げた方角さえ分かれば、あるいは……。
「……居たっ!!」 梅流が指さす方向に、蔵馬も目をこらす。
「北へ向かってる……もしかしたら、お化け城かも!」 問いかける蔵馬に、梅流は答えた。
それは、この辺りの子供らの間では有名な話だった。 だが、魔物によって全滅。 なのに、時折あきらかに人間のような泣き声が響いてくるというので、お化け城と呼ばれていた。
「何でか分からないけど、モンスターが吸い寄せられるって噂があるの。だから、もしあの子がただの獣じゃなかったら……」 証拠はないが、今は皆、藁にも縋る思いのはずだ。
しかし、 「危険すぎる。確実にそこにいると断定されたわけでないのに、向かうのはいかん」 町長がそう言って、大人たちは皆納得せざるを得なかった。
頼りの蔵馬の父は、あろうことか梅流の父の風邪をうつされ、二人仲良く寝込んでしまう始末。 挙げ句、医者の見立てで、やはり毒の元となるモノ、あるいは毒そのものがなければ、治療できないという……。 もしも、これで食い止めることが出来なければ、腕を切断するしかないとのことだった。
……そして、夜になった。
「蔵馬は……分かってたの? 私が行こうとするって」 大人たちの前では言わなかったのに、と梅流は蔵馬を見つめる。 「うん、何となくね。誘ってくれることも。だから待っていたよ」 笑って蔵馬は立ち上がった。
「じゃあ、行こうか。レーヌル城へ」 樫の杖を手に、梅流は力強く頷いた。
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