8.ふたりのひみつ
辛かったんじゃない?
ほっとした?
梅流からの言葉としては、予想外すぎて、蔵馬はぽかんっとしていた。
「蔵馬の力……なのかな?」 モンスターと戦ったことはない梅流だけれど、先日の商人を襲ったモンスターの気配は覚えていた。 獰猛で恐ろしく凶暴な気配。 梅流が心から恐怖を感じたのは、初めてだったかもしれない。 今日出逢ったスライムは、彼らほどの殺意はなかったけれど、それでも人間に対する感情は同じだった。
なのに……何故だろうか?
蔵馬が斬りつけた瞬間、それが一瞬で消えたのだ。 消滅したからではない。 まだ『生きて』いたはずなのに。
あのスライムは……少なくとも最期、綺麗に消えていったのだ。
なくなった肉体だけではなく。
「その…だ、だからね……辛く、なかったの。綺麗になれたから……その…」 どう説明すればいいのか分からない。 だから、蔵馬に……。
「ありがとう。梅流」
言われ、梅流はきょとんっとした。 もしかして……、
「あ、あのね! 本当だよ! 嘘じゃないからっ!」 見れば分かるよ、と蔵馬は苦笑する。
「『ありがとう』っていうのは、俺はそれが分からなかったからだよ。それこそ、梅流の力なんじゃないか?」 今度は梅流がぽかんっとする番だった。 梅流はあくまでも感じ取っただけだ。 何かを出来るわけもないのに。
「俺が特別なんじゃなくて、皆やってることかもしれないよ。むしろ……」 少し考えてから、蔵馬は言った。
「梅流がそれに気がつけるのかも、って」 以前、兄たちが町の外へ出た時、モンスターに出くわした話を聞いたことがある。 風呂に入っても落ちない……血とも肉とも違う、負の『気』の感覚。
それが、蔵馬にはない。 だから、迷わず、蔵馬が特別だと思ったのだ。
「でも、その気配。他の人には分かっていた?」 言われ、はたと気づいた。 そういえば、どうだったのだろう?
だが、考えてみれば、彼らは梅流に言われるまで、そのことには触れていなかった。 だったら何故早急に教会へ行かなかったのか?
梅流にしか見えない……梅流が『人には見えないものが見える』のだと、悟らせないために、あえて黙っていてくれたのだろうか?
「じゃあ、2人とも『特別』なのかもね」 「『特別』同士というのも、いいんじゃないか?」 だから、皆には内緒にしよう。
分かっている。 『特別』なことが、良いことばかりとは限らないことを。 蔵馬も躊躇した。
けれど。 それは何だか……それは良くないことじゃなくって。
「じゃあ、2人の秘密だね!」
何が……とは言わない。
けれど、それは確かに梅流に伝わっていた。
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