7.あるぱかのまち
スライムとの戦闘後は、モンスターに出会うこともなく、蔵馬たちはアルカパの町へと辿り着いた。
「やあ、久しいな。相変わらずのようで、何よりだ」 床に伏してはいたが、それでも自力で起き上がれるし、食事もちゃんと取っているようである梅流の父に、蔵馬の父もほっとした様子だった。
「そっちの子は、お前の息子か。名前は……蔵馬だったかい?」 尋ねたところを見ると、彼とは初対面であるらしい。
「家内や梅流から話は聞いていたよ。いや本当に、利口そうな子だ」 苦笑気味に謙遜する蔵馬。
何か妙な視線を感じた。 視線を巡らそうとしたが、他人の家をジロジロと見回すのはあまりよくない。
最も、子供ならばよくやることだが。
「蔵馬! おまたせ!」 父に帰ってきた旨伝えた後、着替えて来いと言われ、私室へ向かった梅流が戻ってきた。 「? どうしたの?」 照れながらも、嫌ではない……むしろ嬉しさに、頬の筋肉が緩む。
「……梅流」 「君……お兄ちゃんいる?」 皆すっごく優しいんだよ! とニコニコ言う梅流。
「……シスコンって、まあ悪いことじゃないけど……」 「何でもない。外案内してもらえないか? 梅流の町が見てみたい」
アルカパの町は、『町』というだけあって、サンタローズの村よりもずっと大きな所だった。 武器屋や防具屋、道具屋も充実していて、品揃えもいい。
「梅流はすごいね。あんなに大きな宿屋で働いているんだから」 「でも、それがすごいと思うよ」 旅先では色々な人に出会う。 ……そういう人たちの話を聞く時、何故か父は少し寂しそうな顔をするのだが。 ワケを聞いたことは、ない。
「将来はお兄さんが継ぐのか?」 年が離れているらしい梅流の姉たちには、そんな話も来ているのだろう。 とはいえ、梅流の声からは悲観の色合いは全く感ぜられない。
梅流は。 梅流自身はどうなのだろうか? まだ早すぎることは分かっているけれど。
「梅流も……」 「梅流も結婚したい?」 深い意味を込めたわけではない。 いくら忘れたこともない相手といっても、まだまだ2人とも子供だ。
「うん……そうだね。そう思える人に出会えたら」 少なくとも、結婚したくない意思がないことに、蔵馬は自分でも不思議なくらい、ほっとしていた。
その後、蔵馬は道具屋で薬草などを揃え、防具屋で防備を調節した。 ここへ来るまでにかなり貯まっている。
「自分で全部お買い物するんだね」 子供にはお金を持たせない親が多いのは、旅中立ち寄った村や町で見てきたこと。 けれど、同じように親の庇護下にあっても、やはり蔵馬はそこら辺の子供とは違うのだ。 だが、それは決して嫌なことではなかった。
「そろそろ戻ろうか」 「武器屋は? いいの?」 梅流の言葉に、蔵馬は少し驚いた。
「……梅流は? 行ってもいいの?」 気づかないわけにはいかなかった。 あの後も気丈に振る舞っていたけれど、何かもやもやしたものを抱えていたのは、気づいている。
それでも、一緒に戦った蔵馬を責めたりはしなかった。
「あ、うん。大丈夫だよ。それに……」 「何だろう。どう言って良いのかわからないんだけど……」 少し悩んだ末、梅流は蔵馬を真っ正面から見上げた。 蔵馬の言いたいことは分かる。
だったら、なおさら。 言わなければならない。
「辛かったんじゃないの……何だか、ほっとした感じがしたの」
意外といえば意外な言葉に、蔵馬は目を丸くした。
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