6.いっしょにたたかう

 

 

 

 

 

「私も、戦う」

 

 

 言った。

 真っ直ぐと瞳を見つめて。
 他の、何の意味にもとれぬよう、はっきりと。

 その言の葉に、蔵馬の瞳が静かに見開かれた。

 

「……梅流。今なんて……」
「戦う。私も一緒に」
「…………」

 大きな緑色の瞳が、ゆっくりと細められてゆく。
 年の割に冷静な彼。
 梅流の突飛な発言にも、驚愕したのはほんの一瞬のことだった。

 

 

 

「…………」

 梅流は視線を逸らさずに、彼を見上げる。

 無駄かもしれない。
 聞き入れてもらえないかもしれない。

 蔵馬はきっと強い。
 彼の父親があえて「やってみるか」と問いかけたくらいだ。
 きっと一人でも戦えるのだろう。

 

 けれど、でも。
 どこかでそう思いつつも、止められなかった。

 彼一人に戦いを任せ、見ているだけなんて、嫌だった。

 

 

 危険なことだからということもある。
 あの怪我をした男たちのように、彼がなってしまうのではないかと……万が一であっても、それは嫌だ。

 だが、それはほんの少しの心配だ。
 「大丈夫だとは言わない」と言っていても、彼の父が許可を出したくらいだから、大怪我をするようなことは、おそらくない。

 

 

 だから、本当に不安なのは……モンスターを倒した後のこと。

 モンスターのことは、よく知らない梅流。
 けれど、生きている生き物であることくらいは、分かる。

 敵だから、危険だから、闘わなければこちらが危ないからと思っていても。
 生きているものに変わりはない。

 

 それと戦い、傷つけ……場合によっては、命を奪う。

 

 蔵馬がそのことをどう思って、今まで戦ってきたのかは分からない。
 少なくとも、これが初めてでないということと、不慣れでない様子から、かなりの場数を踏んでいるということくらいしか。

 辛いのか、苦しいのか、痛いのか……あるいはもっと別の感情なのか。
 旅をする以上は、不可欠なことと、割り切っているかもしれないし、そうでないかもしれない。

 サンタローズまで乗せてくれた商人たちは、恐怖心が先立っていて、それらは何もなかったようだった。
 実際、彼らには倒せる相手でなく、からがら逃げ出したという方が正しいが。

 

 

 蔵馬は違う。
 真っ正面から戦う心づもりでいる。

 決して逃げようとは思っていないから。
 顔には出さなくても、心の内に何かを秘めている。
 ソレが何かは分からなくても、ソレが在ることだけは分かった。

 

 ただ、それがどんな想いであっても。

 彼一人に背負わせたくはなかった。

 

 

 

 

 

「……何が出来る?」
「え?」
「剣技じゃないよね?」

 剣術使いにしては、手が綺麗すぎるから、と蔵馬は褒め言葉なのかそうでないのか分からないような発言をした。
 何を聞かれているのか分からず、「???」状態ながら、梅流は正直に答える。

「あ、うん……剣は使ったこと、ないよ」
「だろうね。……体術でもないか。身体のライン細いし」

 梅流の頭から足先まで、視線を一往復させた後、蔵馬は少し考え、言った。

 

「ということは、魔法使い?」

「!」

 

 ここまできて、ようやく分かった。
 蔵馬は梅流の戦法を……戦う力を確認していたのだ。

 それはつまり。

 

「い、いいの!? 一緒に戦っていいの!?」

 握りしめた手に込める力が、自然強くなる。
 蔵馬は特に痛がりもせず、首をかしげてみせた。

「一緒に戦ってくれるんだろう?」
「う、うん!」

 

 嬉しかった。

 戦えることがではない。
 戦いは……誰かを傷つけることは、辛いことだから。
 なるべくならば、したくない。

 けれど、今、それはただの『逃げ』だ。
 今は逃げたくない。

 

 だから今は。
 否定されなかったことを、拒絶されなかったことを、素直に喜びたい。

 

 

 

 

 

 

 ……その後の2人の動きは速かった。

 

「マヌーサ!!」

 梅流の幻覚魔法により、こちらへ突進しようとしていたスライムたちは、完全に出鼻をくじかれた形になった。
 子供だと甘く見ていたのか、オロオロしている様がはっきりと伺える。
 その隙を見逃す蔵馬ではなかった。

 

「はあっ!」

 蔵馬の振り下ろした刀が、スライムの1匹を霧散させる。
 後には何も残らなかった。
 仲間の消滅に動揺したのか、幻にやられたのか、残りの2匹はあたふたと逃走する。

 

 

 

「逃げられたな」
「すみません、父さん」

 刀を鞘に収めながら、蔵馬は父を振り返った。
 しかし、彼の父は怒りも悲しみも笑いもせず、

「いや。久方ぶりにしては上出来だ。もっと精進しなさい」
「はい」

 はきはきと答えてから、蔵馬は梅流へと視線を移す。

 

 

「ありがとう、梅流」
「ううん。私こそ、ありがとう。蔵馬」

 そこには一緒に戦えただけではない、ある思いがこめられていた……。