4.ばんごはん
「じゃあ、梅流はお父さんの薬を買いに?」 日が完全に落ちた部屋で、2人は並んで、ベッドに腰を下ろしていた。 きゅっと握りしめた右手。 そして懐かしい。
……ずっとずっと会いたかった。
親に言ったこともある。 だが、両親は無理だと言い切った。 この近隣を、趣味やモンスター退治などで旅をしているならばともかく、世界の何処へ行き、何処へ向かうのかも分からない。
それでも、諦めたくはなかった。 きっといつかまた会える。 だって、約束した。 そう、信じていた。
そして。
叶った。
「蔵馬は何処を旅してたの?」 「でも、世界の何処とは言えないけど。見てきたものなら、話せるよ」 梅流はキラキラと輝く瞳で、蔵馬を見上げた。 「じゃあ何から話そうか……」
それから、2人はたくさんたくさん語り合った。 蔵馬の旅の話から、梅流が暮らす町の話。 驚き、感激し、時に梅流は潤み……梅流の母が現れるまで、それはずっと続いていた。
「あんたたち、暗い中で何してるんだい?」 灯りを持って、階段を上がってきた梅流の母親は、呆れを隠さなかった。 「早く降りておいで。もう夕飯だよ」 梅流が返事をし、蔵馬も頷いて立ち上がる。
夕食は、梅流の母が一番よく喋っていたが、父や使用人の彼、それに梅流と蔵馬も、たくさん話をした。
「ところで、あんたたちはこれから何処に行く予定なんだい? また旅に出るのかい?」 これは梅流の母から、蔵馬の父へ向けての言葉だった。 内心は蔵馬も同じ気持ちだったのかもしれない。
(蔵馬……また何処かへ行っちゃうの……?) せっかく会えたのに。
けれど、親の庇護下にいる子供には、決定権などない。 荒れたこの世界では、親に見捨てられる子供も珍しくないのだ。 けど……。
「もし、時間があるんだったらさ。悪いんだけど、あたしらとアルカパまで来てくれないかい?」 「「ええっ!?」」 梅流の母が続けた言葉に、今度は蔵馬も思いきり驚いていた。 子供らの驚きは、特に気にせず、蔵馬の父は問いかける。 「護衛ということか?」
「「やったー!!!」」
……その晩、母は、娘の喜びようが、いつも通りのはずなのに、いつもよりずっと大きく見えた。 ……その晩、父は、息子の喜びようが、いつもではありえないほどだったのに、いつもよりずっと納得してしまったのだった。
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