5.さいしょのたび
翌日。
先頭を歩くのは、筋骨隆々たくましい蔵馬の父。 今回の旅は、蔵馬と父親の2人きりの時とは、わけが違う。
「あ、あれなんだろう?」 「昨日、サンタローズへ向かう道のりでも見かけたから。野兎は人を怖がるから、滅多に見かけないものだけど。2日も連続で見るなんて、多い証拠だよ」 言っている傍から、警戒心の強い野兎は、茂みへと消えていった。
「行っちゃった。可愛かったのに」 「? 嫌いじゃないって、好きだってことじゃないの??」 言葉を濁す蔵馬。
というのも、蔵馬は何故か、人よりも動物に懐かれやすい傾向にあった。 それが小動物などであればまだしも、巨漢と言うに相応しい動物たちにも同じことが言えるため、時に厄介な事態を招いたこともあったのだ。 例えば、巨大な牛にじゃれてこられて、踏みつぶされかけたり。 かといって、むやみやたらに嫌ったりもしない。
その後も一行は、順調に歩き続けていた。 モンスターの気配のない巨木の下で一晩過ごし、翌日も朝から歩き続け。 が、しかし。
「蔵馬。ここから見える範囲で、モンスターはいるか?」 父からの問いかけに、蔵馬は真剣に周囲を見渡す。 父がこうして問いかける時、それは7割方、近場に敵がいる時。
「……ここから南西に行った岩陰に。スライム…かな。数は3匹」 やや含みを込めて、父が言った。 といっても、いくら子供とはいえ、蔵馬も立派な戦力になる。
「やるよ」 簡潔に答えると、蔵馬はすっと横を向いた。 「梅流」 状況がまだよく分かっていない梅流が、首をかしげながら蔵馬を見上げた。
「俺、これからモンスターと戦闘するから。父さんと下がってて」 不安げに見上げる梅流。 滅多にアルカパの村から出ないといっても、モンスターがどういう生き物なのか、知らないわけではない。 それでも馬車の外から聞こえてくる悲鳴や叫び声は、今でも忘れられない。 戦いがどれほど危険なことなのか……まさに、一目瞭然だった。
「大丈夫だとは言わないよ」 「だから、梅流は下がってて」 そう言って、蔵馬はずっと繋いでいた梅流の手を離した。
「梅流?」 離れなかった。 銅の剣へやろうとした手を見やると、先ほどよりもずっときつく、小さな梅流の手が握られていた。
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