<復讐大作戦!?> 1

 

 

「……何をやっとるんだ? お前…」

 

……冬も終わりに近づいた、ある日のこと。
コエンマは溜まりに溜まった仕事(溜まった原因は、彼がサボっていたこと一つに尽きるのだが)を終え、疲れ切った身体を早く休めたいと、ラーメンの立ち食いも饅頭の買い食いもせず、家に帰った。

家といっても、広い審判の門にある一棟が彼の自宅。
霊界の次期長ともなれば、他にも何棟か所有しているのだが、父親と喧嘩してからは、もっぱらこの一番外れにある棟を利用している。
流石に距離はあるが、彼のことだから歩いて帰るわけがない。
雲形浮遊メカが、今一番のお気に入り移動機体である。

 

しかし……父親と別れて暮らしているのだから、当然彼は一人暮らし。
つまりは、家に帰っても誰もいないはずなのだ。

だから、今彼の目の前に広がっている光景は明らかに不自然である。

何故、誰もいないはずの部屋が開け放たれ、しかも豪快に散らかり…というか荒らされまくり、それをやったと思われる人物が部屋の中央であぐらをかいているのだろうか?

 

 

「……思ったよりも、早かったな」
「まあ、今日はさっさと風呂に入って寝たかったから……って、質問の答えになったとらんだろう! 人の部屋で何をやっとるか、飛影!!」

霊界の第二権力者に怒鳴られても、その人物――飛影は焦ったりすることもなく、平然と座ったまま、睨み付けていた。

天井に向かうように立った髪は幾分乱れ、黒い服もほこりまみれ。
まあそうもなるだろう。
この部屋自体が元々ほこりまみれで、そこをこれだけ荒らせば、当の本人とて同じような運命を辿るのは自明の理というもの。

 

 

 

しばらく怒鳴ったが、飛影が全く動せず見上げてくるため、コエンマは少しだけ黙った。
自分に対して、何の非礼もないのを…いや、反省の欠片すら見えないのを、嫌悪したわけではない。

「(……おかしい。これだけ怒鳴られて、飛影が反撃せんとは……)」

変な感想だが、確かにそうである。
これだけ耳元でギャーギャー怒鳴られれば、自分が悪かろうが相手が悪かろうが、飛影は何かしらしてくるはず。
いきなり立ち去るのが一番打倒で安全だろうが、いきなり斬りつけてこないとも限らない。
彼に理屈は通用しないのだから……。

 

「……お前、何しに来たんだ? わしに何か用があったのか?」

部屋を荒らしたことはとりあえず後回しにし、それだけ尋ねてみるコエンマ。
理由なしに彼が自分の元へ来ることなど、まずあり得ない。

蔵馬ならばまだ分かるが、実質飛影が霊界に来るということは、極々マレなのだ。
霊界裁判の時をのぞけば、雪菜のビデオテープを持たせた時と、自分が誘拐された時くらいか……しかも両方ともこちらが呼び出したのである。
自分から来たのは、もしかすると初めてかも……。

 

しばらく返事を待ったが、飛影は何も言わない。
その代わり、マジマジとコエンマの姿を見ていた。
先程のように睨み付けているのとは、少し違うような……。

「あるのか? 何か……」

コエンマが再度問いかけると、飛影は重い口をゆっくりと開き、たった一言だけ言った……。

 

 

 

 

 

 

 

「年を増やす薬〜?」

飛影の発言に、コエンマは呆れかえった。
尋ねてきた理由を想像していたわけではないが、自分を訪ねてくるからには、余ほど困ったことが……と思っていただけに、拍子抜けしたのである。

しかし、また何故年をとる薬など……。

コエンマは呆れながらも、とりあえず一つ提案した。
というより、面倒だったからなのだが……。

 

「んなもの、蔵馬に創ってもらえばいいだろ。あいつなら、それくらい植物で……」
「あいつのでは、意味がないんだ!!!」

急に声を荒げて言う飛影。
それにはコエンマも一瞬驚いたが、それ以上に飛影が驚いていた。
そして焦っていた。
いきなりこんな声を出せば、薬の欲しい意味がすぐに分かってしまうだろう……。

 

案の定、コエンマは瞬時に理解し、ニマニマと笑いながら、飛影の顔を覗き込んだ。

「お前、年を増やしたい…というか、年をとりたいんじゃなくて、身長を伸ばしたいんだな? 蔵馬よりも長身になりたいんだろう?」
「う、うるさい!!」

頬を赤く染めて怒鳴る飛影。
否定しないところをみると、図星なのだろう。
まあ、他に理由らしい理由などないだろうが……。

 

 

目の前で赤面している少年を、面白そうに眺めるコエンマ。

大体何があったかは見当がつく。
また、蔵馬に身長の低さを指摘されたか、もしくは身長の低さを指摘されるようなことがあったのだろう。

今までにもよくあったから、別に驚きもしない。
飛影が高いところのモノを取ろうとしていたら、後ろから手を伸ばして取ってあげたり(飛影がジャンプしようとする一歩手前で…)、頭のてっぺんにゴミがついていると、背伸びもせずに取ってあげたり、視線をあわそうと、腰を大げさにかがめたり……。
何処までが嫌がらせで、何処までが親切なのかは誰にも分からないが……。

 

おおかた、そのイライラが頂点を極めるようなことがあったのだろう。
だから、今度こそ身長を伸ばしたいとでも思った。
そこで、普段は赤ん坊のような容姿のくせに、人間界にくれば年をとって二十歳ほどの青年になれるコエンマの元へ来た……そんなところだろう。
部屋を荒らしたのは、本人がいない間に見つけられれば、それはそれで……といったところか。

コエンマは別に薬による変化ではないのだが、そんなことを飛影が知るよしもない。