<復讐大作戦!?> 2
「しっかしな〜。身長を伸ばす薬の方がよくないか? 年とったところで、お前の身長が伸びるとはかぎらな……うわっ!!」
キランッとコエンマの首筋に光るモノがあてられた。
一歩でも…いや、一センチでも一ミリでも動けば、おそらく光るモノは彼の喉を掻っ斬るであろう……。
「何か言ったか……」
「い、いや! 何も!! 何も言ってないぞ!!」
冷や汗を流し、真っ青になりながらも、必死に叫ぶコエンマ。
飛影はまだ納得していないようだったが、剣を腰におさめた。
ホッと安堵の息をつきながらも、コエンマはその場に留まることはなかった。
この場にこれ以上飛影をいさせるのは、はっきり言って面白いが危険である。
とりあえず適当に追い返して、使い羽に偵察させるのが、一番だろう。
ひっくり返った棚を起こし、何やら探っているコエンマ。
飛影は怪訝そうに見ていたが、やがて振り返ったコエンマに何やら渡され、視線はそちらに移った。
茶色の小さな瓶。
中の液体はおそらく一口分くらいしかないだろう。
しかし、ラベルも何も貼られていない……しかも中身はゴボゴボと音を立てるほど、不気味なモノだった。
「……何だ、これは」
「薬だ」
「…何の薬だと聞いている」
「身長を伸ばす薬だ」
キラ〜ン…
再び飛影の腰から、剣が消える。
切っ先は見事にコエンマの額に当てられ、このまま脳天を貫通しても不思議はないほどだった。
当然だが、コエンマの焦ること焦ること……。
しかし、口はしっかりと動き、彼の生命線を繋ぐが如く、働いていた。
「お、落ち着け飛影!! 落ち着くんだ!! ほ、ほら、年を増やしても、身長は伸びないかもしれ……いや、確実に伸びるだろうが!! だがな! 年を取れば、お前の顔がかわっているかもしれんだろう!? 他にも髪型とか気配とか!! 年齢で多少変わってくるだろう!? そしたら、蔵馬にお前だとわからんかもしれん!!」
「……」
納得のいかない言葉もいくつかあったが……だがしかし、いちおう一理あるだろう。
蔵馬は目だけでなく、鼻でも相手をかぎ分けている。
だから年をとるだけでいいと思っていたが、他のものが変わらないとも限らない。
とくれば、身長を伸ばす薬の方が得策かもしれない。
身長だけなら、匂いや気配が変わる心配はないのだから……。
そこまで考えて、ようやく飛影は剣を下ろした。
疲れ切った表情で見送るコエンマ。
仕事もハードだったが、今の数分間の方がもっと疲れた……。
襟元をあけて、パタパタとあおぎ、嫌な汗を吹き飛ばす。
と、思いだしたように、顔をあげ、
「ただし、それは未完成品でな。伸びるのは一時的だ。飲むのは、目的の数分前にしろ。後、どんな副作用があるか知れ……って、飛影?」
キョロキョロと見回したが、飛影の姿が何処にも見えない。
開かれたドアの向こうに、少しだけホコリが落ちている。
ということは……。
「全く、気の早いヤツだ……ま、上手くやれよ…」
「……」
手にした瓶を見つめながら、深夜の住宅街を駆け抜ける飛影。
いつものルートである屋根の上を渡りながら、向かうはもちろん蔵馬の自宅。
昼間は「ガッコウ」とやらに行っていることもあるが、多分夜なら家にいるだろう。
時々訪ねるが、0時を回ってから訪れるのは、久しぶりである。
彼のことだから多分起きているだろう……と、思ったのだが。
意外にも、蔵馬は寝ていた。
「ぱじゃま」とかいう、このラフなスタイルを見るのは、久しぶりである。
余ほど疲れているのだろうか?
窓を開けて不法侵入しても、寝たままである。
もちろんこれから起こすつもりだが……。
「……」
布団の上に広がる赤毛に手をかけようとして、飛影は少し考えていた。
起こしてから薬を飲むよりも、薬を飲んでから起こした方が、いいかもしれない。
元々そういう予定だったのを、蔵馬の部屋が暗いので、いないのかと不思議に思って、飲む前に入ったのだから。
「……飲むか」
蔵馬から数歩離れて、小瓶の蓋を開ける飛影。
ゴボッと中の液体が気化して、少し漏れた。
なくなってはマズイと、慌てて飲み干す飛影。
……死ぬほど、不味かった。
吐きそうになった。
まるで、毒のようだった。
喉が焼けるような痛み、そして全身が引き裂かれるような痛みが走る。
しかも、何だか身体が窮屈な空間に閉じこめられたような、妙な感覚も……。
だが、声をあげるわけにはいかない。
ここで蔵馬が起きてしまっては、復讐する前に心配されてしまう。
そうなっては元の木阿弥というヤツだ……。
「……はあ…はあ……」
しばらく痛みに耐えていたが、何とか堪えきれた。
激痛と呼ぶに相応しいものだったが、邪眼の移植に比べれば、それほどのことはなかったのだし。
痛みがひいてきたところで、荒い息をしながらも、全身を見回した。
確かに……伸びた。
もちろん、何処かが集中的に伸びたためにおかしいというわけではない。
ちゃんと伸びている。
身長が高くなっている。
胴に準じて、足は更に伸び、手もかなり長く…掌もちゃんと大きくなっていた。
顔の大きさはまあ大して変化はないが、これは普通だろう。
しかし……理想ではもう少し高い目を目指していたのだが。
蔵馬よりは高いが、桑原ほどはない。
170代後半といったところか……しかし、今までと比べれば20センチ以上高いから、まあよしとしよう。
服が大分きつくなってしまったが、これは仕方ないだろう。
胸部や腹部の太さは一回りくらい増えただけなので、シャツがビリビリに…というようなことはなかった。
まあ多少破けたが。
ズボンがきついのは、どうしようもなかったが、幸い裾が破れた程度ですんだ。