<復讐大作戦!?> 3

 

 

 

「……おい、蔵馬」

 

部屋の電気をつけ(スイッチは前に蔵馬に聞いたことがあった)、ちゃんと伸びたことを確認してから、蔵馬の髪の毛を引っ張る飛影。
蔵馬のことだから、これくらいでも起きるだろうと思ったが……。

何故か蔵馬は目を覚まさない。
具合でも悪いのかと思ったが、胸はちゃんと上下しているし、寝顔も至って普通。

ただ起きないのだ。

 

引っ張る力が弱いのかと思って、かなり強く引っ張ってみたが、効果なし。
髪の毛ではダメなのかと、肩に手をかけて揺さぶってみたが、それでも起きない。
毛布の上から胴体を軽く叩いてみても、無理だった。
顔を殴ってみようかとも思ったが、流石に幽助たちとは違ってそれは出来ず、軽く叩くだけに留めたが、それでも寝たままだった。

段々イライラしてきて、無理矢理上半身を起こし、肩を強く揺さぶってみたが、それでも眠り続けている。

 

「……こんなに寝起きの悪いヤツだったのか……」

肩を持ったまま、ため息をつく飛影。
思えば、蔵馬を起こしたことなど、今まで一度もなかった。
起こされたことなら、何度かあったが……。

 

 

「おい!! 起きろ!!」

ついにイライラは頂点に。
ベッドに土足で上がり、今までにないほど、強く大きく肩を揺すった。

が、イライラしていたせいか焦っていたせいか……思わず、途中で手を離してしまったのだ。

 

ガンッ…ドサッ…

 

 

哀れ、蔵馬は後頭部をベッドの欄干で強打。
そのままベッドから落ちてしまった。

「……あ…」

流石にマズイと思った飛影だが、蔵馬がこれくらいで死ぬわけないし、怪我もするわけないだろう。
別の意味で後が怖い気もするが……。

 

しかし、ある意味丁度よかったかもしれない。
こうまでされれば、相当寝起きの悪い人でも、当たり前だが目覚めるだろう。

そして、蔵馬もしっかりとユメの世界から、意識を取り戻したのだ……。

 

 

 

 

「……いたた…」

激打した後頭部をさすりながら、ゆっくりと身体を起こす蔵馬。
目覚めたばかりで、まだ意識がぼんやりしているのだろう。
半開きになった目で、辺りを何気なく見回している。

「……あれ? 何で俺、ベッドから落ちて……」

起きた時の景色がいつもと違うことに、きょとんっとしている蔵馬。
ふいに誰かの気配を感じ、ベッドの方へ顔を向けた。

 

 

「……飛影??」

一瞬、誰か分からなかったらしい。
だが、その目つきの悪さや、頭のとんがり具合は彼でしかないと思ったのだろう。
半分自信がなさそうに、尋ねるように名前を呼んだ。

 

「……ああ」

怪訝な態度が気にはなったが、まあいきなり身長が伸びたのだから当然かと、とりあえず返事をする飛影。
その口元には少しばかり優越感の色が伺える。
お互いに座ったままの状態で、蔵馬は床の上にいるから、視線が下になるのは、今は当然。
立ち上がらねば、よく分からない状況になっているのは、少し嬉しかった。

蔵馬がはっきり自分を自分と分かった時、横で立ってやろうと、わくわくしていた……。

 

 

 

 

が!!

 

 

「どうしたんです、その身体……」

 

そこまでは普通の意見だった。

しかし、次の言葉に飛影は驚愕した。

 

 

 

 

「何でそんな……小さく……」

 

「……えっ」

 

 

一瞬、蔵馬が何を言っているのか分からなかった。
「大きく」とか「高く」ならば、分かる。
それが妥当な言葉だろう。

だが……蔵馬はその正反対を言ったのだ。

呆然とし、蔵馬を見つめるだけの飛影。
もちろん驚いているのは、飛影だけではなく、蔵馬もである。

すっと手を伸ばし、飛影の脇に掌を入れ、持ち上げる蔵馬。
当然飛影はぎょっとしたが、蔵馬は軽々と手の先の力だけで彼を持っている。
立ち上がって目線の高さまで抱き上げられた時、飛影は全く足がつかなかった。
いや、それより大分前から……。

 

嫌な予感がし、おそるおそる自分の身体を見る飛影。

「……!!!?」

予感的中。
飛影の身体はまるで赤ん坊のように、小さくなってしまったのだ。

頭が蔵馬の目線の位置にあると、足先は蔵馬の脇ほどまでしかない。
ズボンは当たり前だが、ベルトのサイズがあわずに脱げてしまい、腕の包帯もほどけてしまっている。
だが、上着の破れかけたシャツだけでも充分だった。
それすらも足元を覆い隠すほどの長さになってしまうほど、小さな子供とかしているのだから……。

 

「……飛影、君……可愛いね♪」
「……」

トドメだった。

飛影は半分涙目になりながら(むろん、蔵馬に見られまいと必死に隠しながら)、蔵馬の腕から必死に抜け出し、ベッドの上のズボンや剣や包帯をかき集め、窓から飛び出した。

 

「あっ、飛影…」

何が何だか分からないまま、窓の前に立って見送る蔵馬。
写真を撮っておけばよかったと、少し残念がりながらも、桑原の勉強につきあって二週間徹夜したことによる睡魔が押し寄せたため、またベッドへ戻った。

「……でも本当…可愛かった…な……」

ぼんやりとそんなことを考えていたが、ふあっと小さく欠伸をして、再び深い眠りへと落ちていった……。

 

 

 

 

翌朝。

『ただいま、電話に出ることができません。発信音の後に、お名前とご用件をお話しください』

ピーッ

『ぼたんです。コエンマさまー、もう十二時ですよ! いい加減に、仕事にきてください! これで何度目だと…』

ピーッ…カタカタ…

 

留守電のテープがなくなるほどの部下からの電話が入りながらも、その部屋の主は電話に出ることも、仕事に行くこともなかった。

何故なら、彼は……。

 

 

 

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

リクエストは、「もし、飛影が(今までの)復讐を蔵馬にしたら・・・」。

え〜、これのどこら辺が復讐でしょうか??
全然復讐になってない……またしても、飛影くんが可哀想な運命を辿って終わってしまいました(爆)

いちおう最初のうちは、『身長差をからかわれた飛影くんが、長身になって蔵馬さんを見下ろす』という復讐法だったはずなんですが……。
最後縮んで終わってしまいました(笑)
一瞬くらい飛影くんの長身を蔵馬さんに見せつけてあげればよかったかな…。

って、最後少し怖いですね……もちろんコエンマさま、昇天されたわけじゃないですよ!
多分まだ飛影くんから逃げ回ってるんだと……(真相はご自由にお考えください!)