その4 正さぬ誤解
「おめえ……こんなところで何やってんだ?」
あまりに間抜けな質問だが、せずにはいられないのだろう。
ぽか〜んっとしたまま、幽助は問いかけた。
蔵馬は幽助がぼ〜ぜんとしていることなど、もちろんお見通しであるが、しかし特につっこまずに、質問に答えた。
「見ての通り、待ってたんだけど? 魔物退治に来るであろう君たちを。近くの弱小そうな村を、適当にほどぼどに荒らしておいたから。旅人の噂に上るか、もしくは村人が頼むかすると思って」
あっさりきっぱりさっぱりと。
現状報告、僅か数言で終了。
「……」
「……」
「……」
二の句が継げないらしい3人。
10年ちょっとぶりの再会。
あまりに突然で、あまりに想像の範疇外で。
幽助も桑原も、飛影と王子の幽助から、詳細は聞いていた。
共にモンスターに襲われ、意識をなくすほど痛めつけられ、その後行方知れず、と。
彼も一緒に攫われなかった原因は、2人とも気絶していたので全く分からなかったという。
人間でなかったから…というのが、一番妥当だろうと思っていたし、実際今の蔵馬を見れば、それが当たっているのだろうと思うし、本人たちは知らないが、現実にもそれだった。
第一章末に記載してあるが、本当にモンスターであったがために、ほっとかれたのである。
しかし、最悪の事態も……考えていなかったわけではない。
いくらゲームであろうと、コエンマという前科があるのだ。
彼は消えたのだ。
一度あったこと、二番煎じがあっても不思議ではない。
こちらの大陸へ渡る直前、例の遺跡にも足を運んだが、彼はいなくて。
それが、ますます嫌な予想を駆り立てた。
可能性として……なくはない、と。
……それが、いきなりの登場。
そして、唖然とするくらい、元気な姿。
呆然とした後やってくるのは、安堵したことによる……理不尽だが、怒りだった。
「きっさまー!!」
いきなり剣掲げて斬りかかってくる飛影。
予想していたのか、蔵馬は特に驚いた様子もみせず、あっさりと受け止めた。
ぱしっと綺麗に剣を受ける爪は、猛獣のものらしく、随分鋭くて長かった。
「何故遺跡にいなかった!? 探すこっちの身にもなれ!!」
「へえ、探してくれてたの?」
「……」
実際はそんなに大仰に探してはいない。
もちろん、探さなかったわけではないけれど……執拗に探してはいなかった。
でも、それも……。
「まあ、随分動いたのは悪かったけど、それも仕方なくてね」
剣をじりじりと動かしながら、間合いを計りつつも、蔵馬は弁解する。
「しばらくはあそこにいたんだけど、近くにあった国がやけに荒れてきて、遺跡荒らしが増えて。いづらくなったから、出てきたんだよ」
「ああ、あれか? 皇太后が偽物だったつーやつ」
ぽんっと手を打つ幽助。
「へえ、偽物だったんだ。モンスター?」
「おう。変なヤツだったぜ」
「道理でやり方が荒っぽいと思ったよ。人間の指図ではないなとは思っていたけれどね」
他人事のように言うが、実際はそんな楽なことではなかったろう。
何せ飛べもしないモンスターである彼が、わざわざ大陸を渡るほどのことだったのだから。
しかし、それでは移動したもの無理はない。
「……」
心中はまだ穏やかではなかったものの、飛影は剣を下ろした。
「そういえば、王子の幽助は?」
「ああ、国に帰ってるぜ」
「他は誰かに会った?」
「螢子だけだな、今のところ。あいつも無事だぜ」
「そうでなかったら、こんなところに君がいるわけないものね。それにしても、幽助まで二役とは。桑原くんは?」
「俺は今のところ、俺だけだぜ」
暢気に会話しつつ、先へ進む一行。
約1名台詞がないが、それは単に彼が飛影だからというわけだけではなく、未だ不機嫌なままだからである。
まあ、元々無口だから、というのもあるにはあるわけだが。
……洞窟からの脱出は、蔵馬の案内でいとも簡単に終わってしまった。
ここに住み着いたのは、せいぜいが数年程度らしいが、彼のことである。
いくら入り組んだ洞窟とはいえ、一度か二度歩けば、問題なく覚えられるだろう。
入魔洞窟に置いたアカル草の目印も、おそらく彼1人行って帰ってくるだけならば、置く必要もなかったはず。
自分が戻れなかった場合に、幽助たちに必要だから…と思っていたに違いないから。
話を戻すが、洞窟からの脱出後、いちおう例のモンスター退治を頼まれた村にも立ち寄りはした。
結局、モンスターの正体が蔵馬で、倒す倒さない以前の問題だったことから、蔵馬は村の外で待っていたのだが。
何処からどう漏れたのか、飛影たちはモンスターとグルだったという噂が流れており、かなり邪険にされたものだった。
「あんたなんかに頼んだのが、間違いだった」
「金目当てに……最低だな」
露骨というか、あからさまな言い分に、カチンとは来たが、仲間であるということは否定出来ない。
それに、村へ到達する前に蔵馬から「村に入ったら、酷く言われるかもよ?」とは言われていたので、むかつきはしたがショックはなかった。
賞金は投げやり程度だったが、いちおうもらえたので、今後のタシにはなったが、それよりかは……、
「一発殴りたかったな……」
「殴っても別に問題はなかったんじゃねえか?」
という心境だったりする。
まあ長居しても仕方がないと、訂正もせずに、一同はそのまま出立。
馬車の中で待っていた蔵馬は、何も言わなかった。
が、多少は気にしていたらしく、
「しばらく御者の役引き受けるよ。皆は休んでていいから」
と言い、次の村へ到達するまで、ずっと1人で手綱を持ち続けていたのだった。