その3 十年ぶりの再会

 

 

 

「……そこそこつえーな。この辺のモンスター」
「陸が変わりゃあ、簡単にレベルアップってか。前もそうだったけど、ゲームっつーのは都合いいぜ」

突撃兵とやらをぶっ倒した飛影たち一行。
彼らは今、とある洞窟に来ている。

 

 

酒場で幽助が乱入した喧嘩だが、彼の参戦であっという間にカタはついてしまったのだった。

だが、どうやらただの喧嘩ではなく、1人を2人がかりで襲うという、所謂弱い者虐めだったわけで。
あっという間に追い払ったと思ったら、その虐められていた人物に懇願されたのだ。

「私の村を脅かす魔物を倒して欲しい」と。

 

ゲームではありがちパターンであるのは、ここまでくれば理解も出来よう。
断っても先に進まないだけだと、引き受けた幽助たち。
まあ、報酬があったからこそ、だったかもしれないが。

ということで、一度彼の村に立ち寄ってから、いざ魔物退治と、住み処だという洞窟へやってきているところなのだった。

 

 

しかし、先ほど幽助が言った通り、大陸が変われば、モンスターも変わる。
特に洞窟内のモンスターはかなり強力な連中が多かった。

王子の幽助と行動を共にしていた折、相当迷子になったせいか、彼らのレベルはそこそこ高く、負けることはなかった。
が、相性とかそういうのがさっぱりなので、結局力押しでしか戦えず、かなり時間を食っていることも否めなかった。

 

 

「せめて、これが装備できたらよかったんだけどな……」

幽助が薬草を取り出すついでに、袋から取り出してみたのは、一本の剣。
まだ王子の幽助がいた頃、飛影が幼い頃に僅かながら過ごした村にて手に入れたものだった。
コエンマの遺言らしきものが書かれてあったが、正直、霊界語だったので、あんまり読めなかった。

分かっているのは、次の3つ。
この剣は、主人公らしい飛影も、王子の幽助も、モンスターの幽助も、騎士っぽい桑原も、誰1人装備できないということ。

なのに、攻撃力は+110と、むかつくくらい無茶苦茶高いということ。
更に、腹立ち紛れに捨てようとしても、何故か捨てられないことだけだった。

 

「持つのと装備するのは違うってか。まあ薪割りくらいには使えそうだけどな」
「んな使い方して、刃こぼれでもしてみろよ。重要アイテムだったら、ま〜た蔵馬にどやされる」

やっぱり、本当に怖いらしい。
果たして彼らが、現実でここまで蔵馬を恐れていただろうか?

いいや、多分いなかった。
ここ、ゲームの中だからこそ、ここまで恐れているのだろう……。

 

 

 

「で、今洞窟のどの辺だ〜?」

洞窟へ入ってから、もうかなりの時間が経っていた。
多分、丸二日は経過しているだろう。
それだけ慎重に進んでいる、ということならばよかったのだが……。

 

「さあな」
「さあなって……おめえ、いちおうパーティのリーダーだろ!?」
「フン、知るか」

「……つまり、おめえ。道、分からず歩いてたのか?」
「……知るか」
「ようするにそういうことだろ!?」

そういうことらしい。

 

「そういう桑原は分かんのかよ?」
「う、浦飯こそどうなんだ?」

 

 

しばしの沈黙。

 

「……」「……」「……」

 

そして、ぽつりと幽助が一言。

 

「つまり俺たち……迷ったってこと、か?」

 

そういうことらしい。

 

 

 

 

「大体てめえがな!」
「おめえのせいだろうが!」
「フン、くだらん」

「あんだとー! 元を正せばてめえが!」
「知るか」

「っかー! そういう態度やめろよな! むかつくんだよ!」
「勝手に苛立っていろ」

「てめえ! いつかぎゃふんっと言わせてやる!!」
「……『ぎゃふん』」

「棒読みすんな!!」
「てめえらいい加減にしろよ!」
「んだとー!」

 

という何ともくだらない会話をしている一行だが、しかし黙っていたところで現状が直るわけがないので、彼ららしくいるのが多分一番いいのだろう。
立ち止まっていても、どうせ魔物の住み処なのだから、救助など望めない。
外に出るにしろ、魔物を退治するにしろ、どちらにせよ歩くしかないのだ。

右へ行けばいいのか、左へ行けばいいのかなど、知るよしもない。
ただ、とにかく進むのみ。
何ともまあ、いい加減な進み方だった。

 

 

「はあ…桑原のこういう時にしか役に立たねえ勘がありゃあなあ…」
「こういう時にしか役に立たねえって、どういう意味でい!」
「フン、そのままの通りだろうが」

「あんだとー!! そういうてめえこそ、こういう時にしか役に立たねえ邪眼で何とかしろよ!」
「俺の邪眼は戦闘でも役に立つ」

「外での話だろうが! ここに来てから、意味なしじゃねえか!」
「そういう貴様の霊剣とて、ここでは無意味だろうが」
「う、うるせー! 大体な……おわっ!!」

突然、桑原がぷにぷにに乗ったままジャンプした先が、ずぶりと沈み、そのまま彼の姿が消えた。
幽助が慌てて駆け寄ったが、その手は空しく宙をつかんだ。

 

「桑原!! おい、大丈夫か!?」
「ってて〜。おう、何とかな〜」

簡単に足元を見てみるが、巨大な針山も煮えたぎった油もモンスターの襲撃もない。
もろもろになった土が散る、ただの地面だった。

 

 

「……」

すっと桑原が落ちた辺りを触れてみる飛影。
大きな穴は空いているが、周辺の地面に細工がされた痕跡はない。

どうやらそこだけ地面が柔らかく、更に真下に広がる地下の天井がもろくなっていたのだろう。
つまり、あまりに体重をかけていたがために、下の階へと地面をぶち抜いてしまったのだ。

 

「フン、バカめ」
「そういう言い方ねえだろ! 確かにバカだけど!!」
「浦飯〜!! てめえの方が百倍むかつくぞー!! ……ぐぎゃ!」

 

ぐに

 

再びかの音がした。
階下はとりあえず安全と察した飛影が、でかく空いた穴から飛び降りたのだ。
そう、またしても桑原の頭の上に。

 

「てんめえ! 世紀の美男子の頭を!!」
「五月蠅い黙っていろ」

桑原の頭に乗ったまま、手にしたランプで地下を照らし出す。
その間に、幽助もふわりと降り立った。

 

 

そして、彼らは見た。

 

 

「あ」

「あ」

「あ」

 

広々とした階下の最奥。
やや王間の玉座にも見える、一段上がったその場所に。

 

よく知った彼が、いた。

 

常と色は違うまでも、長いくせっ毛。
常と衣装は違うまでも、男性にしてはスレンダーで、しかし決してなよなよはしていない身体。
常にはない、大きな獣耳と長い尾はあるけれど。

その顔は、彼のもの。

 

飛影にしてみれば、10年ぶり。
幽助たちにしてみれば、それ以上。
もう長く見ていなかったのに。

 

別れたのが、つい昨日のことのように、鮮明に思い出せる。
決して他と間違えることはない、その顔。

 

 

 

呆然とする飛影たちに、彼は目を細める。

 

「やあ、遅かったね」

 

穏やかに微笑みながら、さらりと言う姿も、10年前と何ら変わりはない。

飛影は逡巡した後、面白くなさそうに言った。

 

 

「……こんなところにいる貴様が悪い、蔵馬」