第二章

 

その1 大幅カット

 

 

 

「……ふあ〜。退屈だな…」
「……」
「おい、飛影。お前も何か言えよ。暇なんだ」

「……『なんか』」
「古いぞ、そのギャグ…」

物語が始まって早々、ぼへ〜っとしている約二名。
甲板の手すりに寄りかかり、海のど真ん中であるためか、何も見えない水平線をとにかくぼ〜っと眺めていた。

 

 

……ドラゴンクエストXをプレイしたことのある御仁ならば、お分かりいただけるだろう。
第一章があのような終わり方をしたというのに、今の状況は明らかにおかしいと。

そう、第二章は作者の勝手な都合により、大幅にイベントをカットした先に始まるのだ。

 

「……マジで無茶苦茶カットしてあるよな」
「……いきなり、大人になったからな」

いや、それは別に普通ですよ?
幼少期があの形で終わった直後、暗転していきなり青年になるのは、このゲームでは当たり前のことです。
カットしてあるイベントは全て青年期になってからのものですから。

 

……では、いちおうゲームをされたことのない方のため、ついでに作者の頭の中を整理するため、現状報告お願いしまーす。

 

 

 

「えっと〜。まず、俺と飛影が奴隷になってて、変な神殿建設するところ、すっとばしてるだろ? んでもって、そこで螢子と会ったのもすっとばしただろ?」

ちなみに螢子ちゃんは、同じく奴隷のマリアという女性役でした。
実は鞭で叩かれるという暴行を受けていたため、幽助くん激怒し、戦闘シーン1人で終わらせてしまったりしたのですが……。
レベルの差と装備のなさというものは、彼にとっては無意味に近いものでありました。

 

 

「でもって、牢屋に入れられて、けど螢子のにーちゃんっつーのに出されて、樽で脱出して……」
「フン。酔いまくっていたな、貴様」
「るせー!!」

いや、あれは誰でも酔いますよ、きっと……。
つーか現実世界では、あれでの脱出は自殺行為に近いです、はい。
自殺というより、変死で扱われるでしょうが。

 

 

「んで、海を漂ってた樽が修道院に流れついて、そこで一回螢子とは別れて、変な派手な街について、変な爺に会って……あ、そうだ。飛影がモンスター仲間にする方法っつーの会得したんだっけ?」
「……別に必要もないものだ、うっとうしい」

でもそれ教わらないと話が進まないんですよ。

 

 

「んで、一回飛影が前行ったことあるっつー村に行ったら、コエンマのっぽい手紙と剣があって、飛影のお袋さんは魔王に捕まってるとかで、助け出せるのは『伝説の勇者』しかいねえとか何とか。置いてあった剣も、その伝説の勇者の剣で……誰も使えなかったが、いちおう、それ持って…と、隣の村に行って」

流石に『女の子の蔵馬』がかつて居た村とは言いにくい模様。
つっても、幽助くん、あの時まだいなかったですよね〜?

 

「飛影が全然喋らねえんだから、しょうがねえだろ!!」

はいはい分かりましたから、さくさく行って下さい。

 

 

「……でもって、俺がいた国に行って、弟の王だっつーのと会って、それから一回螢子のいる修道院に戻って、神の塔とかいうのに行って、鏡みたいなの手に入れて……」

っていうか、それ、前回のゲームでも手に入れたことありますよ?
忘れました??

 

「そこまでストーリー進んでねえだろ!! てめえがとろいせいだろうが!」

そうでした、すみません。

 

 

「で、国に戻って、偽太后とかとバトルして勝って、王から『皿保名(サラボナ)』っつー伝説の勇者縁の場所があって、そこには伝説の勇者に不可欠な盾≠ェあるって教えてもらって、其処行くために、港から船に乗って」
「今現在に至るんだろうが」

はい、ご説明お疲れ様でした。
では、いよいよ本編へ移りたいと思います。

 

 

 

「ぢょっとまで〜…」

何処からか蚊の泣くようなか細い…というか、機嫌悪そうな声。

 

「あんだよ。ようやく始まるってのに」
「おれざまのぜづめいが、まだだろうが〜…」

どうやら船酔いしている模様です。
けど、ここ結構穏やかな海ですよ?
幽助くんが使った樽ならばともかく、何でこんなところで酔ってるんですか?

 

「おれは、こんなもんに乗ってんだぞ〜」

なるほど、それは酔いそうですね。
ただでさえ船の上だというのに、そんなものに乗っていれば、結構酔いそうです。

 

 

「てめえの鍛え方が足りねえんだろ」
「フン。くだらん」

「でめえらなー!!」

酔いながらも怒ることは忘れません。
その根性、他の誰でもありません。

 

お待たせしました。
ようやくこのお話にも登場しました。

根性の勝負では誰にも負けたことのない不屈の精神。

我らが桑原くん、やっとのことでお目見えです。

 

 

 

……それはそうと、彼が船酔いしている原因ですが。

言った通り、波はとても穏やかです。
船もとても安定して順調に進んでいます。
現に幽助くんと飛影くんは全然平気です。

なのに、何故このような事態が発生しているのかといえば、彼の状態にありました。

 

はっきり言います、きっぱり言います。
まわりくどく言っても仕方がないので、簡単に言います。

彼は今、人間ではありません。
幽白レギュラー戦闘人の中で、最後の最後まで人間だった彼ですが、ここでは人間ではありません。

 

簡単に言いますとモンスターです。

「マジで簡単だな」

だってそうなんですから…。
何のモンスターなのかといえば、変な鉄仮面に鎧を纏って、剣と盾持って、奇妙なぷにぷにとする物体に乗っている、変なモンスターです。

「ぞう何度も、変って連呼すんな〜…」

一般常識的に見て、現実世界にはあり得ない姿ですから、やっぱり変ですよ…。

「けど、東京の一部地域とか、そこそこでっかいイベントとか行けば、ああいう格好してるやつ、珍しくもないだろ?」

ま、それはそうですけど……。

 

 

 

「つーか、さっさと名前言ってやれよ。説明だけじゃ、分かんねえだろ」

はいはい、私の説明では無理でしょうね…。

「フン。分かっているのか」

……とりあえず、モンスターの名前ですけれど、桑原くんは今、『素羅威夢騎士(スライムナイト)』というモンスターになっています。
ちなみに船酔いの原因といえば、彼がず〜っと跨っている素羅威夢がぷにぷにふらふら動くので、ただでさえ船上というのに、更に安定せずに三半規管がぐらぐらになっているせいでした。

「なんだっで、もんすたあなんかに…」

だってこのゲーム、ずっと同行するには、人間にあてはめるよりも、モンスターの方が簡単なんですよ。

 

「んな理由で〜」
「文句言うなよ、桑原。俺だって似たようなもんなんだぜ?」

そう言う幽助くんも、今はどっかの国のワガママ王子ではありません。
彼は偽太后ぶっ倒した時点で、仲間から外れています。
幽助くん自身はそういうことしそうにありませんが、ゲームの流れ…ということで。

で、今の幽助くんが誰なのかといえば、桑原くん同様、人間ではないのです。
モンスターです。

金色の身体に、金と青の翼、びしっと長いしっぽ。
名前は『龍子(ドラゴンキッズ)』といいまして、見たまんまですが、龍の子供のようなモンスターなのでした。

 

 

……ちなみに、彼らがいつ飛影くんと出会ったのかといえば、前記した変な街で変な爺さんから、モンスターを仲間にする方法を教えてもらって、ついでに馬車なんか手に入れた直後のことです。
いつものように、モンスターとの戦闘かと思ったら、見覚えのある顔だったもんで、それはそれはびっくりしました。

 

「「何で、俺が!?」」

ハモってしまったのも、無理ありません。

王子の幽助くんにしてみれば、モンスターが自分の顔だったことに驚きますし、モンスターの幽助くんにしてみれば、わけの分からないままゲームが始まって十年、ず〜っとモンスターとして生活してきたのです。
この格好も慣れてきたところで、いきなり人間の格好した自分が現れれば、びっくりもします。

 

しかし、飛影くんにしてみれば、蔵馬さんが女装と子猫の二役だった前科があるため、大した驚きもありません。
結構あっさり納得したもので、淡々と事を運び、以後モンスターの幽助くんも同行することになったのでした。

その後、再びの戦闘で今度はモンスターの桑原くんとも出会い、当たり前のように同行。
陸の上ではぷにぷにに乗っていても、大した揺れではなかったため、戦闘にもちゃんと出してもらえてました。

 

でもって言った通り、王子の幽助くんとはその後別れたのですが、その間に彼はモンスターの自分に、ここでの体験全部語ったので、ご都合主義ではありますが、モンスターの幽助くんは王子の幽助くんの体験、全部ご存じである次第です。
だから、かつて蔵馬さんが女装していた村のことも知っていたのであります。

「つっても、あいつあそこにいなかったけどな」

さてさて、何処へ行かれたのでしょうね〜。

 

 

 

とりあえず、ここでようやく状況説明が全て終了した形になると思われます。
次回より、本格的に冒険の旅をしていただきたいと思いますので、出たがり管理人は、ここで1つ引っ込みたいと思います。

 

「ようやく始まんのかよ、ああ長かった〜」
「ばやぐ陸にづげろ〜」
「フン、くだらん」