第五章 〜大航海〜
その1 <ボロ船>
コーンコーン ……これは決して、狐の鳴き声ではない。 では、何なのか?
まあ簡単に言えば、船を修繕している音なのだ。 「ったく、コエンマのやろう!こんなボロ船押しつけやがって!!」 汗を拭きながら、悪態付く幽助。 だがしかし、この船のボロさは半端でなく、仏やキリストや聖人君主といえど怒り出すかもしれないという、筋金入りのボロさだった。 何せ、マストは折れ、甲板は人が5人くらい一気に落ちるであろう穴が大量に開き、帆は虫食いだらけ、ロープは軽く引っ張っただけで千切れ、階段は上ることも下りることも出来ない状況、キャビンの屋根は完全になくなっているし、船倉は水浸しで入るに入れず、船首についた彫刻の天使には首がなく、舵は持つ部分が全て折れ、羅針盤は使い物にならない。 いちおう大砲らしいものも積まれていたが、荷物になると港へ置いてきたが、それは正解だった。 文句の1つや2つや3つや4つ、言いたくなっても無理はないだろう……。
「よし、終わった。桑原、飛影、そっちどうだ?」 何故かペアを組まされている桑原と飛影。 波に揺られながらの作業なのだから、当然といえば当然。
「あ〜、疲れた〜」 幽助が船尾の方へ行くと、そこでは蔵馬が裁縫をやっていた。 「なあ、今日の晩どうすんだ?」 無理だろう。 「あ〜、ちくしょ〜!コエンマめー!」
大海に乗り出してから、はや2週間。 修復作業だけに徹することが出来ればいいのだが、生憎そうはいかない。 ちなみに現在のレベルだが……。 |
現時点での勇者一行の状態 |
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幽助 | LV.17 | レベルUPスピードは、皆とほぼ同等になった。 攻撃力の高さから、トドメ差しを中心に(素早さがないだけともいう…) |
桑原 | LV.18 | レベルUPと共に余計な遊びを繰り出すようになった……。 |
飛影 | LV.18 | 刃のブーメランにて、多くの敵を攻撃する。 攻撃力は低いが、スピードが上がり、対複数戦に有利。 |
蔵馬 | LV.11 | 転職後もレベルUPは順調!呪文習得は通常よりかなり早い。 スピードもあるため、魔法による先手攻撃を主流にした。 |
と、またしても約一名を除き、三名は順調にレベルUP及び様々な能力を会得していった。 しかし……約一名、つまり遊び人である桑原はとかく戦闘の邪魔ばかりしていた。 今までは寝るだけだったからまだいい。 最近は味方まで攻撃するようになり、かと思えば、いきなり麻痺に陥ったりもする……。 いくら呪文習得ペースの早い蔵馬でも、通常習得レベル15の麻痺治療をレベル11で覚えることは無理がある。 当然、遊びのせいで桑原はヤッカミを買い、でもって逆ギレして、幽助や飛影と大げんか。 悪循環極まりないが、ともかく今は進むしかない。
「なあ、蔵馬。今どの辺なんだ?」 広げた地図で、蔵馬が指さしたのは、丁度現実でいえばガーナ辺りだった。 「げっ、2週間も経つのに、全然進んでねえじゃねえか」 ギャーギャー言いながらも、とりあえず単調な生活に幕が下ろせるらしいので、ホッとした幽助。 「おい!もうすぐ陸の方に行くってよ!」 ドッシーン!!!
「……何してるんだ。折角塞いだ穴、また開けて」 嫌な音がしたので、地図をたたみながらやってきた蔵馬。 「い、いやちょっと水泳を……」 ため息をつきながら、その場を去る蔵馬。 「た、助かった……」 桑原が落下した際、彼に支えられていたのだから、当然飛影も落ちたのだが。 「船の中で水泳とはな。バカには丁度いいか」 ……と言って、わざわざ待っている人がいるわけないと思うのだが。 が、飛影が歩き出そうとし、幽助が船倉から跳び上がろうとし、桑原が上がろうとしてひっくりかえり、蔵馬が改めて地図を広げた、次の瞬間!!
ビュオオオオオ!!! 突如、耳をつんざくような轟音が響き渡り、同時に船が前後左右上下に大きく揺れた。 「な、何だ!?」 必死にまだ壊れかけたままのマストにつかまりながら、蔵馬に向かって叫ぶ幽助。
「何なんだって……風は風だよ。あんまりいい風じゃないけど」 蔵馬が困ったように指さした方向……。 確かにモンスターではなかった。 渦を巻きながら、空へと伸びる巨大な柱。 「な、何で、竜巻がー!!」 蒼白になりながら、ギャーギャー叫ぶ幽助。 何故か蔵馬1人、のんびりと構えているが(流石に吹っ飛んだ甲板などを気にしているようなことはなかったが)、彼ら4人がどんな行動を取ろうと、全員に待っている運命は一つだけである。
ほんの数秒後。 勇者一行は、ボロ船ごと竜巻に巻き込まれ、そのまま吹き飛ばされたのであった……。
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