その8 <金の冠>

 

 

「だあああ!!」

ズバアッ!!

幽助の一撃が蝙蝠男を切り裂き、地面にその残骸を散らばらせた。
ここまで綺麗に一刀両断させてしまうとは、なかなかいい太刀筋と言えるだろうが、相手が弱すぎるのが一番の理由だろう。
何せこの深派ー丹の塔、到達レベルがたったの13。
一度レベルが1まで落ちた蔵馬が、現在レベル10と大体丁度いいくらいである(もちろんこれは一度レベルが1まで下がった人の場合に限るが)。

他3人はレベル16以上、周囲のモンスターたちのレベルは平均8〜9。
勝てない方がおかしいと言えるだろう。
しかし、蔵馬以外はそんなことには微塵も気づかず、自分たちが強くなったのだと、勝手に勘違いし、かなり浮かれまくっていたが……。

「この調子だと、人攫いの親玉もあっさり倒せそうだな」
「そうだな〜。けど、何で今まで気づかなかったんだよ。火座亜武からすぐ西に、こんな塔があるなんてよ。間抜けだよな〜」
「てめえだって気づかなかったじゃねえか」
「うるせえ!!」

 

「……蔵馬。貴様、気づいていただろう」
「何故そう思います?」
「火座亜武周辺の探索で、こっちの方へ来ようとしなかっただろうが」
「めざといですね、貴方も」

幽助と桑原が喧嘩している間に、周囲を調べつつ話している蔵馬と飛影。
もちろん、この会話は他2名には聞かれぬよう、本当に小さな声で行っている。
まあそうでなくとも、あの2人は今それどころではないのだから、多分普通に喋っていても、聞こえないだろうが。

「何故、黙っていた?」
「もしかしたら関係あるかも…とは思ったんだけどね。ないことを祈りたかったからかな」
「どういう意味だ」
「ほら、呂魔理亜でコエンマが課題だしてきたでしょ。あれの答えがここなんだ。だから来たくなかったんだけど……幽助たちには黙っててくださいね。進むのがまた遅れるから」
「……」

ひいては、女装を終わらせるのが遅れるから…という意味だということくらい、飛影にも分かっていたが、あえてつっこまなかった。

「さてと、この先は……ああ、また階段か。幽助、桑原くん。行くよ」
「へ?あ、待てよ!!」

割合大きな赤い扉を開けた奥、4体の像が建ち並んでいるだけの部屋だったが、その奥には、また上へと上がる階段があった。

「上がってばっかだな。次でもう5階だろ?」
「一度も下りてねえな。返って不気味だぜ。スムーズ過ぎると」
「そのうちドッシーン!っと、落ちるかもな!」

冗談めかして言った桑原の一言。
まさかこの数分後に、実現するとは誰が思っただろうか……。

 

 

5階……つまり、さっきの階段を上がった先だが、そこは今までとは大きく違っていた。
広くひかれた赤い絨毯に、古びた机が2つ、そして対になるように椅子が4脚置かれていた。
その椅子のうち2つに、誰かが座っていたのである。
階段を上がってきた音が聞こえていたのだろうか?
幽助たちが声をかけるよりも早く、男たちは、

「おい!変な奴らが来たぞ!」
「よし!お頭に知らせに行こう!!」

と、言って、奥にあった階段を駆け上がっていったのだ。

「……今の連中、俺見たことねえけど」
「俺は何か見覚えある気がするんだけどな〜。どっかで会ったような…」

幽助は全く知らないようだが、桑原は見覚えがなくもない気がしていた。
が、首を捻ってうなりながら考えてみても、どうしても思い出せない。
まあそれも無理もないだろう。
何せ、彼らは雑魚中の雑魚……覚えている人も少ないであろう、牙王に威魔神だったのだから。
ちなみに幽助はずっと寝ていたので、彼らと面識はなく、知らなくて当然なのだった。

「ダメだ〜!ここまで出かかってんのに!!蔵馬、飛影。お前らは知らねえのか?」
「俺も会ったことはあるけど、名前までは知らない。それより追おう。あいつらが渓亞を攫った悪党の仲間のはずだ。丁度都合よく、お頭のところにも案内してくれそうだしね」
「あ、そうだな」

牙王たちが上がっていった階段へと向かう4人。
上がりきった先は、6階かと思いきや、屋上になっていた。
そしてそこには先程の名前すら忘れられた…という以前に、名前すらきちんっと紹介されなかった2人と、もう1人いた。
多分彼が『お頭』なのだろうが……。

「なあ。本当にこのゲーム、勇者の知り合いが出てんのか?俺、こいつも知らねえぞ。こいつ誰だ?」
「……世の中には知らない方がいいこともあるんだよ、幽助」

げっそり疲れたような面持ちの蔵馬。
それも当然。
二度と会いたくなかった悪党ベスト5には余裕で入る最低愚劣鎌鼬。
『お頭』という存在には、程遠そうなこいつが、何故ここにいるのだろうか……怒りを通り越して、呆れが先立つ蔵馬であった。

 

一方、鎌鼬の呂屠の方は、幽助たちが上がってきているのを見ると、ニヤニヤとした憎たらしい嘲笑を浮かべ、

「よくここまで来られたな。誉めてやるぜ!だが、オレ様を捕まえることは誰にもできん。さらばだ!わははは!」

嗤いながら、すぐ横の壁を押す呂屠。
と、壁の一部が凹み、そして次の瞬間!

「ん?」
「え?」
「あっ…」
「げっ…」

「なああああぁぁ!!」

ドッシーン!

……まさか数行前に桑原が言った通りになるとは。
突然足下に空いた穴から、冗談抜きで、ドッシーン!と落ちた勇者一行。

しかしまあ、落ちた先は5階の絨毯の上。
怪我もなく、すぐに起きあがりはしたが、そんなことより……、

「あんにゃろ〜。大して強そうでもねえくせに、コケにしやがって〜!!一発殴る!!いくぜ!!」
「おお!!」

雑魚敵である鎌鼬に舐められたことにより、全員が怒りに燃えていたためだろう。
珍しく蔵馬までもが、怒っていることには誰も気づいていなかった。
いや、ここに来てからは怒ることが多かったので、珍しくというよりは久しぶりにといった方が、正しいかもしれないが。

 

全力疾走で屋上へUターン。
が、そこには誰もいなかった。

「に、逃げやがったな……」
「階段はこれしかない、ということは……あ、いた」
「何!?」
「あそこ」

階段とは丁度反対側にあった手すりのない部分。
蔵馬は斜め下辺りを指さしながら、呆れ顔で見下ろしていた。
すぐさま3人が駆けつけ、彼の隣に立って、見下ろす。
と、そこには……。

「何やってんだ、あいつら?あんなところで重なり合ってやがる」
「下りるのに失敗したってところだろ。行こうぜ、すぐ追いつく」

バッとその場から飛び降りる幽助。
蔵馬がため息をつきながら続き、飛影も無言で後を追う。

「お、おい!待てよ!!」

慌てて桑原も飛び降りた。
どちらかというと落下に近かったが……。

 

屋上から飛び降りた先は、4階の開けた場所。
たった2階分の距離なのだから、今にも逃げだそうとしている呂屠たちに追いつくのは造作もなかった。
だが、大人しく倒されるつもりはないらしい。

「しつこいやつめ!やっつけてやるぜ!」
「うおおお!!」
「だあああ!!」

雄叫びを上げながら向かってくる悪党ども。
勢いだけはよかったのだが……それが実力に繁栄されるとも限らないのが、現実においてもゲームにおいても、無情な世界である。

数秒の後、あっさりと勝利したのは、言うまでもなく幽助たちの方である。
それもほとんど蔵馬しか攻撃していない。
他3名は蔵馬の冷ややかな怒りに押されて、なかなか攻撃出来なかったのだ……。

「……あいつ、蔵馬となんかあったヤツなのか?」
「卑怯な手使ってきたからな。無理もねえよ」

こそこそ話している幽助たちを尻目に、蔵馬は冷酷な表情で、ぶっ倒れた呂屠たちを見下ろしていた。
ぞくっとするような視線に、悪党共は最後の力を振り絞るように起きあがり、

「悪かった!金の冠返すから、ゆるしてくれ!ありがてえ!あんたのことは忘れないよ!じゃあな!」

まだ許すも許さないも言っていないのだが……。
連中は目にも留まらぬ速さで、走り去ってしまったのだった。
後には金色に光る冠が転がっていた。

 

「結局何だったんだ、あいつらは……」
「なあ、蔵馬。引っ捕らえねえでよかったのか?つーか、ぶっ殺さねえでよ」
「とりあえずアジトに戻ってくれないと困るからね。トドメはアジトでやればいい」
「そ、そうか……んじゃ、これからどうすんだ?」
「アジトに直行」

冠を拾い上げ、袋の中に入れる蔵馬。
本当ならばこれは、呂魔理亜の王に返すべきものなのだが……。
行けば100%、幽助(と桑原)とコエンマが喧嘩になる。
そうなると、かな〜りの時間を食うことになるだろう。

「(幽助も桑原くんも忘れているようだからな。このまま進めなくなるまで持っていくか)」

 

 

〜作者の戯れ言 中間編 その10〜

カンダタ、あいつにしてみました。
レベル上げまくってから行ったので、楽勝も楽勝だったので。
強い敵じゃ困るな〜と(ついでにある程度性格悪いヤツじゃないと)

ちなみにあの金の冠ですが、実は返さなくても先進めるんです(笑)
現に管理人はず〜っと袋に入れっぱなしで旅してました。
(返すのを忘れていたとも言いますが…)