第三章 〜砂漠の国〜

 

その1 <熱い>

 

 

「あぢ〜〜」
「言うんじゃねーよ、浦飯。よけー、あちーだろ」
「本当、ここの暑さは並みじゃないからな」
「フン。くだらん」

何処かのくだらん小説で聞いたような台詞だが……。
しかし彼が今いるところは、あの時とは比べものにもならないだろう。

とにかく、「暑い」を通り越して「熱い」のだ。
別段、熱湯に浸かっているわけでもないし、火であぶられているわけでもない。
なのに、無茶苦茶熱い……。
死ぬほど「熱い」というのは、正にこのこと。
本当にここはゲームの中なのだろうかと、問いたくなるような……。

 

ところで、蔵馬たちが今何処で何をしているのかというと……。

呂魔理亜の国から火座亜武の村にかけてのモンスター退治……(という立前の元、蔵馬の指導によるレベルアップのための修行、及び戦闘における作戦の立て方等の強化訓練)を終え、次の大陸へと移ってきたのだ。
とはいえ、戦っていたのはほとんど、蔵馬・飛影・幽助3人だけで、桑原は彼らの稼いだ経験値をもらっているだけ……大概の戦闘は寝るか遊ぶかで、全く戦力になっているのだ。

当然、その度に文句は言われてきた。
遊び人の性とはいえ、皆が大ピンチに陥っているにも関わらず……まして、幽助が再び棺桶送りになっているにも関わらず、最後尾でグースカと寝ているのだから、無理もないが……。
しかし、その度が過ぎれば、いくら桑原でも逆ギレする(好きで遊び人なわけでもないし…でも服は似合っている)。

ついでにというか、自然というか、そのまま大げんかにも発展するしで(蔵馬以外と)、結局の所、単に長居していただけで、なかなかレベルアップには繋がらなかったのだが……。

 

 

ちなみに、今現在の彼らのレベルはというと……。

 

現時点での勇者一行の状態

幽助 LV.7 レベルアップ、何とか皆に追いついてきた。
ただし未だに一番遅く、呪文も「弐不羅無(ニフラム)」以外、習得ならず。
使ってみたが、効いた試しはない…(それも当然。魔法が効かないモンスターだったんだから…)
桑原 LV.8 2章と同じく……レベルUPの意味、まるでなし…。
飛影 LV.9 魔法「鷹の目」取得。
ただしずっと蔵馬が使っているため、あまり意味がない…。
蔵馬 LV.9 MPの上昇スピードUP。
ただし、今のところMPを必要としない呪文しか会得していない…。

 

 

と、蔵馬指導による地獄の特訓を受けた成果は、出たのか出なかったのか、よく分からない結果に終わってしまった。
レベルは上がるが、能力値がそれについてきていないような状況…。
特に幽助はとっくに帰還魔法「留宇羅(ルーラ)」を覚えていていいはずなのに、未だに覚えていないのだ……。
最も、MPの低さを考えると、覚えてくれても大して期待は出来ないが…。

 

だがしかし、ここで1つ、疑問が浮かぶ。
次の国(村かもしれないが)へ移る、基本到達レベルは確か14だったはず……。
何故、ゲーム中では、最大にして最弱のチームである彼らが、最高レベル9という状況で、次の場所へ向かい始めたのかと言えば……。

簡単な話なのだが、幽助たちが駄々をこねだしたのだ。
いつまでも、こんなところで特訓特訓特訓特訓……そんな生活に彼らが耐えられるはずがない!!

蔵馬も最初は抑えてきていたが、いい加減面倒にもなりはじめ、あまりの五月蠅さにもウンザリしだしたのだ。
「実践に勝る修行はない」という躯の言葉もあったので、まあいいかと特訓終了に応じたのだった。
それが正しかったか間違いであったかは、定かでないが……。

 

しかし……特訓終了に最初に後悔したのは、蔵馬ではなく、幽助(たち)であった。
まさか、次の大陸がこんなに熱いところだとは思ってもみなかった……。
モンスターが強くなったことに関しては、刺激になり嬉しかったが、それでも動けば動く分、熱くなるし喉は渇くし……疲労もストレスも、いつもの倍くらいのスピードで貯まっていった。

一時は、新たな双六場を見つけ、生気を取り戻したが、生憎以前のものより難度が数段高く、いくらやってクリアならず……。
しまいには双六券全て使い果たしてしまったのだ。
当然、苛立ちは増すが、双六券もないのに双六場にいても仕方がない……。

幾分か外よりは涼しかったので、しばらく涼んでいきたかったのだが、夜になれば凶悪モンスターが徘徊して、余計に出たくなくなるだろうと言う蔵馬の説得(というより脅迫…)には勝てず、結局出発したのだ。

これでは、前の涼しく森がたくさんあり、資源も豊富で飯や水には苦労しなかった、あっちの大陸の方でゴチャゴチャやっていた方がずっとよかった……。

しかし、駄々をこねて次へ行きたいと言ったのは自分たち……単に暑いからという理由だけで、元の大陸へ帰りたいなどと、ただでさえ暑さでイライラしている蔵馬に言えるはずがないのだ……。

 

 

 

「ところでよ〜、蔵馬〜」
「何か?」
「こっから一番近い村か国まで、後どのくらいあるんだよ」

汗を拭きつつ、暑さで人相が数段悪くなった顔を向けて尋ねる幽助。
蔵馬もいつもより疲れたような顔で、地図を広げながら、

「森を抜けたから、もうすぐだ。北の方に…」
「へ?じゃあ、双六場より近いところにあったのか!?」
「……あのですね〜。村があるって言おうとしたのに、「双六場がある」って言った途端に走り出したのは誰でしたっけ?」
「うっ……」

返す言葉がなく、黙り込む幽助。
実はそうなのだ。
双六場がある森(といっても、高山である火座亜武付近の森に比べ、かなり暑い)より手前、乾燥しきったサバンナのようなところには小さな村が存在していたのだ。

なのに、幽助は蔵馬がそれを言う前に、双六場が近くにあると言っただけで、森目掛けて一直線に……。
呼び止めて言わなかった蔵馬も人が悪いが(最も彼は妖怪だが)、それよりも人の話を聞かない幽助にも問題はあるだろう……。

 

「まあ、夜になる前にはつけそうだからいいけど……って、あれ?」
「なんだ〜?」
「1人、足りなくないか?」
「はあ〜?」

くる〜りと振り返ってみる幽助。
自分の横にいるのは蔵馬だけなのだから、普通に考えれば、そこには2人いるはず……しかし彼の後ろには1人しかいなかった。
熱さで脳みそが溶けかかったような面をした桑原だけしか……。

「あ、飛影がいねえ…」
「変だな。さっきの戦いの時にはいたのに……もしかして」

嫌な予感がしたのか、蔵馬が元来た道を走り出していった。

「お、おい、待てよ!蔵馬!」
「…は?あ、おい!俺をおいていくな〜!」

慌てて後を追う幽助。
半分魂が抜けたような顔をしていた桑原も、はっと我に返り、置いて行かれるまいと大急ぎで走り出した。