その9 <満場一致>

 

 

「★〇◎■☆▽◯◆☆▲!!?」

 

え〜、これが一体何を意味するかというと……。
二階から転がるように落ちてきた、それに対する飛影の率直な感想……というよりは、悲鳴にならない悲鳴というやつであろう。
無理もない。
まさかこんな所で、あいつと再会するなど、誰も思っていなかったのだから……。

 

「おお、誰かは知らんが、助けてくれ!!エルフたちに夢見るルビーを渡さなければ、村にかけられた呪いが解けないのじゃ!!」

言っていることは、ゲームのイベントではアリガチの内容のようだが……。
しかしこれは人選ミス以外の何ものでもないだろう……。

何故、そんなイベントを申し出る重要人物に、かの有名な……幽☆遊☆白書至上最低最悪最嫌キャラランキングベスト5に入るであろう、垂金権造が選択されたのか……。
しかも、あの時のように私欲に溺れているわけではなく、村を一途に思うためか、顔がぐしゃぐしゃ(って元々だが)になるまで泣き散らしているので、余計に恐ろしい……(恐ろしい……恐ろしすぎるぞ、垂金!!)

 

 

「ちょっと皆、何を放心してるんだ!」

垂金が追ってきたことに、蔵馬の焦りは深まるばかりだが、幽助と桑原はあまりの急展開に、意識がほとんどないようで、天井を見上げてぼ〜っとしている。
飛影さえも、彼らしくなく、意識が朦朧としているらしい……。

「ああ、もう!」

バシッ!!ビシッ!!バシンッ!!

「あ?蔵馬……?」

ショック療法というやつだろうか?
蔵馬の往復ビンタにより、3人は何とか意識を取り戻した。
しかしまだ、はっきりはしていないらしい。
口をきけるようになった辺り、さっきよりはマシのようだが…。

「速く出るんだ!ここを!」
「あ、ああ……」

 

バンッ!!

全員が外に出たことを確認してから、勢いよく扉を閉める蔵馬。
再び地面にへたり込んだ幽助たちは、激しくなる鼓動を押さえながら、また途絶えそうになっている思考回路を必死になって動かしていた。

「……何で…あいつが……いるんだよ……」
「……いくら会ったことあるキャラだからって、悪趣味すぎるぜ……第一あいつに俺が会ったのって、酎たちよりも前なのに……」

 

「のんびりしている場合じゃないだろ!!」

「く、蔵馬……」

滅多にない蔵馬の大きな声に、全員が完全に正気に戻った。
一昨日も怒鳴られたが、内容が違うため、また別の新鮮さのようなものがあるそれは、彼らを元に戻すには十分だった。
彼の場合、殴るよりも怒鳴る方が効率がいいのだろうか……。

「幽助、そこら辺の木全部、切り倒して!桑原くん、木を全部扉の前に!窓にも運んで!飛影、ロープを早く!木を固定させるの手伝って!」
「あ、ああ…(×3)」

珍しく、怒鳴りながら指示しまくる蔵馬。
しかしそれに異論を唱える者が全くいなかったことの方が、珍しいかも知れない……。

団結した一同のチームワークは素晴らしく、あっという間に、家の周囲は切り倒された木で覆われ、更にはロープで固定されて、窓もドアも全く開かない状態になってしまった。
ついでに煙突にも……これで中にいる人物が外に出ることは、100%不可能となった。

 

 

 

「ぜいぜい…」
「はあはあ……」
「つ、つかれた……」
「……」

作業が終了した途端、その場に座り込む4人。
と、開かなくなった扉の向こうから、何やら叫び声が聞こえて来る。
最も、誰も聞く気になど、到底なれなかったが……。
嫌でも勝手に耳には入ってくるのだから、いちおう聞こえてはいた。

「エルフの隠れ里は西の洞窟の側にあるそうじゃ!!」

彼らが行ってくれるものだと思っての、台詞なのだろうか……。
まあ、彼らが普通の勇者ならば行っているのだろうし、そうでなくても、頼んだ人物がこの勇者たちにとって親しく、加勢してやりたくなる人物だったならば、状況は幾分変わっているかも知れないが……。

 

 

「……どうする」
「俺は皆が思っている通りで」
「同感……」
「フン、珍しく意見があったな……」

まだ結論を言っていないにも関わらず、互いの意見が分かっているらしい。
しかしこれは、昨日今日の付き合いではないからではなく、アイコンタクト以上の信頼関係であるからでもなく、彼らの意見が普段から合っているわけでもない(←まずこれではない)。

極々ふつ〜に考えた場合、出されるであろう結論が、たった一つしかないからであろう……。

 

 

 

「……帰るか」
「……帰られますか」
「……帰るとしましょ」
「……さっさとな」

珍しい……というか、本当に久しぶりの満場一致。
台詞も同じだし、おそらく首くくり島からの帰還以来だろう。

しかし……。
あの時は皆が皆、やっと終わったという解放感に満たされていたが、今回は、暗く重い影を背負って、ドッと疲れが出たような表情でいたことは、言うまでもない……。