その8 <悪魔>
「どうでした?」
「いや、全然…」
「起きてる奴なんか、一人もいねーぜ」
個々で村の探索をしていた幽助たちだったが、蔵馬の収集により、いったん宿へと集合した。
「村中が眠りについたという話、本当だったということだな」
「か〜、コエンマのやろー何考えてんだよ!」
「そうだぜ!宿屋の親父も寝てるから、泊まれやしねえ!!」
堂々と宿の個室一つに陣取っている者の言う台詞だろうか…。
まあ、泊まらなければ体力や魔力の回復にはつながらないのだから、休憩程度にしかならないだろうが……。
「どうするんだよ、火座亜武に戻るのか?」
「そうだな。でもこういうのって何かしらあるのが普通だから……あれ?飛影は?」
「あ?そういえば……」
きょろきょろと辺りを見回す蔵馬。
幽助や桑原もつられて振り返ったが、飛影の姿はなかった。
「あのやろ、またどっかで寝てんじゃねえのか〜」
「本当協調性のない奴だな!」
「飛影に協調性が生まれたら、それこそ世界の終わりだと思うけど」
「……同感(×2)」
「はくしょん!」
「お?どっかでくしゃみが聞こえたな〜」
「いつもの(コエンマの)とは違ったみてーだな。ってことは、飛影のか」
「しょうがない、探しに行こうか」
「え゛?俺らも?」
「……まさか俺だけに行かせて、自分たちは休みとか言いませんよね〜?」
「……行きます」
流石、魔界に名をとどろかせた盗賊妖怪。
辺りに冷気が流れるくらい冷め切った表情でいても、恐ろしいものがある……(逆にいえば、そのせいで恐ろしいのかも知れないが……)。
「おい、飛影〜」
「何処行きやがったんだよ、ったく……」
しぶしぶながら、飛影を捜す幽助と桑原。
蔵馬は民家を見て回るからと言うので、彼らは茂った藪の中を探すことになったのだ。
さっきわずかに渋ったことがアダとなるなど、皮肉なものである。
「お〜い……ん?」
「どうした、浦飯」
「あんなところに家なんかあったか?」
「何処だよ?」
幽助の視線を追って、振り返る桑原。
そこには、一件の民家がひっそりとたたずんでいた。
「ああ、知らなかったな」
「灯台元暗しってやつだな。道は入り口から続いていたのに、奥まってたせいで気がつかないなんて」
「玲辺の村ん時みたいだな〜…って、蔵馬!!」
ずざざっと後ずさる幽助&桑原。
このパターン、ゲームに入ってからだけで、今まで何回あったのだろうか……。
だが、気がつかない幽助たちも幽助たちである。
現実で、コエンマにも数回やられているのだから、そろそろ気配くらい察知してもいいのに……。
「あ〜、びっくりした……あ、飛影いたのか」
ふと蔵馬の後ろにフクれた飛影を見つけ、幽助がため息をつきながら言った。
「ええ、向こうの木で寝てて…ところで、あの中はまだ誰も入ってないのか?」
「ああ、俺はまだだぜ」
「俺もだ」
「飛影は?」
「……ない」
多分、熟睡しているところを急に起こされたのだろう、彼の機嫌はかなり悪かった。
しかし、それを気にする蔵馬ではない。
「では、入ってみるとしますか…」
「玄関から?」
「そうだな……別にどちらでもよさそうだけど。殺気は感じないし、かといって幻海師範がいた所のような威厳も感じない。ただ何となく邪気は感じるが……」
「邪気??」
殺気はないのに邪気はある……酎のようなところだろうか?
しかしそう思うと、かなり抵抗はある。
あの臭気に当てられたら、ある意味ひとたまりもない……。
「けど、入ってみようぜ。何かあるかもしれねーし」
「ああ。油断しないで」
「わーってるって!」
ガチャッ…
「何だよ、誰もいねーじゃん」
「物色するほどのものもないな。これだけか…」
いちおう用心しながら入ったのに、見渡した家の中は空っぽ。
ついでに蔵馬が見つけたのも、一冊の本と種だけだった。
あまりにあっさりしすぎていて拍子抜けしたが、しかし部屋の角に階段を見つけ、緊張は再び戻ってきた。
「上ってみようぜ」
「気をつけて……」
幽助を先頭に、桑原、蔵馬と順々に階段を上っていく四人。
飛影が最後に上がろうとした、その時!!
ドタターーッ!!
突然、上がっていったはずの幽助たちが猛スピードで階段を下って……いや、落ちて来るではないか!!
「飛影、どいてどいてー!!」
ドッシーンッ!!
小さく聞こえた蔵馬の指示通り、しっかりと退く飛影。
もし彼が蔵馬の忠告を聞かなければ、今頃幽助や桑原と共に、階段の下で、団子のように転がっていたことだろう……。
ちなみに蔵馬は、幽助と桑原を振り回す要領で二階から落とした後、彼らの上を飛び越えて、一階へと降り立った。
見事な動きだが、それでも今の彼は焦りまくっている。
「どうした、蔵馬……」
「飛影、幽助持って!桑原くんは俺が引っ張るから。早く家から出るんだ!」
「はあ?」
「いいから、奴が来る!」
訳が分からず、きょとんっとしている飛影に向かって叫ぶ蔵馬。
しかし彼がその意を理解する前に……。
奴は来てしまったのだ……。
そう……魔王よりも恐ろしい、悪魔のようなそれは……。
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