その4 <双六>
「あの親父ぜってー、ゆるさねえ!!今度会ったら、ただじゃおかねえからな!!」
呂魔理亜を出、凶悪モンスターが徘徊するという森まで来たというのに、幽助は未だ闘技場のことで怒りを燃やし続けていた。
当然ながら、仲間3人は呆れはて……まともに相づちを打っていたのは蔵馬だけだった。
「まだ言ってるのかい?」
「当たり前だ!!ギャンブルにならねえギャンブルやらせた上に、うるせーからって警備員にほおり出させたんだぞ!!これが勇者に対する態度かよ!!」
「……博打やる勇者っていうのも問題だと思うけどね……」
冷静に突っ込んでいる蔵馬の言葉を、怒りに燃えている幽助が聞いているはずもない。
しかし、蔵馬はちょっとだけ驚いてもいた。
意外なことに、幽助は自分が勇者だということを覚えていたのだ。
王であるコエンマの命令も完全に無視し、博打に燃えていたのだから、綺麗サッパリ忘れていそうだったのに。
最も、勇者としての「仕事」については、ちゃんと忘れているらしいが……。
本当に魔王の件はどうなったのだろうか……。
蔵馬の緻密な計算と、再度行ってきた家捜し(城荒らしを中心に)で手に入れた品々のおかげで、何とかある程度の装備を買い換えることは出来た。
といっても、幽助の防具が鎖帷子(くさりかたびら)になっただけだが。
とりあえず彼が着ていた旅人の服を飛影に渡すことで、2人の装備はある程度、補強されただろう。
その分、他2名の装備はまるで変化なしなのだが……。
「それにしても、金貯まらねえな〜」
有海羅寺(アルミラージ)と魔法使いを2匹ずつ倒した直後、桑原がため息を付ながら言った。
戦いの最中、ずっと寝ていたヤツに言われたのだから、幽助は当然ムッとしたが、本当のことだけに何も言えなかった(蔵馬は「そうですね」と言い、飛影はまるで聞いていなかった…)。
確かに、彼らの収支はかなりアンバランスなものであった。
今回4匹も倒したのに、入金はたったの36G。
これでは亜利亜半にいた頃と何ら変わらないではないか。
それもそのはず、このモンスターは亜利亜半にもいた種類……。
別の大陸に渡っても、前の大陸にいたモンスターに出くわすこともあるらしいのだ。
いきなり強靱なモンスターが出てこられても困るところだが、強ければ強いほど、Gは基本的に増していく。
ならば、多少苦労しても、ある程度の金が入った方がいい。
かなりの貧乏パーティとなってしまった浦飯Tに、鎖帷子480Gはやはり痛かったのだ。
それでも蔵馬が、幽助の防御強化に熱を入れているのは、幽助の運が限りなく低く、攻撃対象になりやすいからであることは、言うまでもない……。
「何処かに楽して金儲け出来る所ってねえのかな〜」
「そんな都合のいいところあるわけないよ」
「?。蔵馬〜。何だよ、それ」
ふと、蔵馬が手にしていたものに目をやる幽助。
彼はクスッと笑ってから、それを一度高く持ち上げ、勢いよく振り下ろした。
ボスッ!と奇妙な音がしたかと思うと、それは飛影の頭にぴったりと被さってしまっていた。
「皮の帽子。さっきモンスターが落としたものなんだけど、飛影被ってて。俺より貴方の方が防御力低いから♪」
「……」
いきなり変なものを頭に押しつけられて、かなりお怒り気味の飛影だったが、蔵馬の意味ありげな(いや、実際あるのだが)笑顔には勝てず、結局そのまま被っていた。
「モンスターを倒してアイテム入手、か〜。けど、それだって大したことねえんだろ?」
「気休め程度だね、本当に。これをアテにしてたら、行けるところにも行けな……ん?」
「どうした?」
急に話をやめ、森の奥を見つめる蔵馬。
不思議に思って皆が駈け寄って、同じ方を見たが、何も見えなかった。
「なあ、何か見えんのか?」
「見えてはいないさ。盗賊の感だけど……向こうに何かあるみたいで」
そう言いながら、蔵馬は迷わずその方向へと足を運んでいった。
「お、おい!蔵馬!」
「待てよ!」
慌てて後を追う3人。
最も、飛影は別に慌ててもおらず、ふつ〜うに歩いてついてきていたが。
数十分ほど、歩いただろうか。
途中、何度かモンスターにも遭遇したが、幸い弱小モンスターだけだったので、呂魔理亜へ帰ることもなく、進んでいくことが出来た。
「なあ、蔵馬〜。まだかよ〜」
「そろそろだと思うけど……あ、あれかも」
「どれだ……なんだ、あれ?」
「さあ」
「さあって……」
本当に何となく来たらしい蔵馬。
確かに向かっていった方には、建造物らしいものがあるにはあったが……。
しかし、今まで彼らが行ったこともないような奇妙な造りだった。
石造りで鉄の門があるだけ……本当に殺風景な造りだった。
どことなく牢獄にも見えるが、そうではなさそうである。
何故なら、その鉄門には鍵がかけられていなかったのだから……。
「そんなに悪い感じはしないな。いや、むしろお宝の匂いが……」
「お宝!!?」
「入ってみる?」
「当然!!」
お宝と聞いては黙っていられない幽助たち。
蔵馬の横を素通りし、我先にと建物の中へ入っていってしまった。
「せっかちな人たちですね〜」
「フン。貴様が冷静すぎるだけだろうが…」
「貴方も充分、冷めてると思いますけど。あ、もしかして幽助たちと一緒にされたくないから、わざとですか?」
ニヤリと笑って、嬉しそうに言う蔵馬。
飛影は図星だったのか、顔を赤らめて、俯き黙ってしまった…。
「どうしたんです?」
真っ赤になっている飛影を引っ張りつつ、中へ入ってきた蔵馬。
外見とは裏腹に、内装は今の飛影のような色の絨毯が敷かれた廊下に、やけに派手なバックミュージックという、豪華な作りだった。
しかし、その途中で幽助と桑原は足を止めていたのだ。
中身に驚いたのなら、入口付近で止まっていたはずである。
なのに何故、ある程度入ってから……。
「何か?」
「あ、蔵馬……こいつ…」
そう言いながら、幽助は何故か足下を指差した。
不思議に思いながらも、蔵馬は彼の後ろから覗いてみた。
「何で、こいつがここに?」
「だから、多分例の主役の知り合いがどうとかじゃねえの?」
「あんまり見たくない顔ですね……」
明らかにいやそ〜な顔の蔵馬。
もちろん彼だけではなく、幽助たちも同じなのだが…。
何せ、今彼らの足下でひっくり返ってるのが、かのDrイチガキだったのだから……。
「帰ったら、コエンマにこのゲームの設定変更申し出ましょうか」
「いや、開発停止の方がいいと思うぜ…」
最もである……。
「は〜、また落ちてしまったわい」
突如、イチガキが起き上がったので、蔵馬他三名全員後ずさった。
いきなり起きたからというよりは、そのあまりにヒドい顔を近くで見たくなかったからというかもしれない。
「幽助。落ちたって?」
「落ちてきたんだよ、こいつ……だから止まってたんだ」
「なるほどね」
「じゃが、わしはあきらめんぞ〜」
それだけ言うと、イチガキは何処かへ立ち去ってしまった……。
「何だったんだ、あいつは……」
「上に何かあるってことだろうね。行こうか?」
「……イチガキがいるのって何となく嫌な感じだけど……行ってみるか」
正直かなり面倒だし、胡散臭そうだが、ここまで来たからには……という気持ちが皆あるのだろう。
誰も幽助の言葉に反対せず、上への階段を探すことにした。
が、意外にもそれは呆気なく見つかった。
少し廊下を進んだ先の右手が広間になっており、そこにデデンッと分かりや〜すく存在していたのだから…。
あまりにはっきりしずぎていて、皆怪しまずにはいられなかったが、「虎穴にいらずんば…」という言葉もあるので、登ることにした。
「何だ、ここは……」
唖然呆然の一同……まあそれも当然といえば当然。
階段を登った先にあったもの、それは……。
巨大な双六!!
人1人が余裕でマス目に乗れるくらいで、しかもゴールまでの距離もかなりある。
一体、誰がこんな森の中にこんなドデカいゲームなど造ったのか……。
最もコエンマの趣味であることは、間違いないだろうが。
「どうする?」
「どうするといわれても…」
「やってもいいんじゃないか?丁度、さっきの広間で券みないなのを拾ったから。ここの券だったらしいね」
「ふ〜ん。まあいいか、息抜き程度に」
「じゃあ、幽助よろしく」
「へ?おれ!?」
「いいかって言っただろ。俺たちここで休んでるから」
「頑張れよ〜」
「……」
「あ、あのな〜!!」
完全に押しつけられた幽助……。
誰かに押しつけようにも、皆完全に無視している。
一番押しつけやすそうなのは桑原だが、爆睡……ああなっては、彼は絶対に起きない。
「あいつら〜!(怒)」
怒り半分に双六券を受け付けに叩き付け、ゲームを始める幽助。
ここで、やらずに全員のんびりしているという案が出ない辺り、彼はまだまだ甘いのであった……。
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