その3 <無駄>
「……何をしているんだ、幽助。桑原くんも…」
「え?何って…決まってんだろ!稼せいでんじゃん」
「ほお…ギャンブルで…」
「安心しろよ!ちょっとは負けたけど、倍にして……って、蔵馬あぁ!?」
ズザザザッと後ずさる…というよりは、腰を抜かして転がっていく幽助たち。
まあ、無理もない。
何せ今まで誰もいなかったはずの背後に、蔵馬が黒い陰を背負って突っ立っていたのだから……。
ちなみにその後ろには飛影もいるのだが、あまりに蔵馬が印象的過ぎて、2人とも全く気付いていなかった。
「く、蔵馬…いつからいたんだ?」
「たった今から。それで、いくら儲けた?」
「へ?」
「だからいくら稼いだのかって、聞いてるんだよ」
蔵馬の意外な質問に、きょとんっとする幽助たち。
てっきり「ギャンブルなんかやって!」と、どやされるだろうと思っていたのに、彼は呆れているだけで、怒ってはいないようである。
「(そっか。蔵馬も盗賊だもんな。ギャンブルのこと、差ほどわりーとは思っちゃいねーのか)」
ホッと胸をなで下ろす幽助と桑原。
彼ら、魔王よりも蔵馬の方が怖いのだろうか……。
最後の試合は結局決着が付かずに、料金返済ということで終わった。
少々不満も残ったが、いったん外で金の換算をしようと、闘技場を出、店の外で財布を開けたのだが……。
「……何だ、これは」
「え、いやその……」
「確か言ったな?稼いでるって……」
「だ、だからそれは……」
焦りまくる幽助たち。
しかし、別に言い訳をしようというのではない。
彼ら自身、何故こうなっているのかさっぱり分からないのだ。
財布の中身……別段、すっからかんだったわけではない。
そうであれば、とっくに蔵馬の堪忍袋の尾が切れているところである。
そして、約2名は二目と見れない顔にされ、約1名はとばっちりを食わないように逃げているだろう。
では、何故冷ややかな空気が流れているかというと……。
所持金が元あった半分程度になってしまったのだ。
あれだけモンスターと戦い、稼いできた所持金が、一気に半分に……。
まあ蔵馬の怒りも分からないでもないが……(ほとんど蔵馬が殺ったわけだし)。
しかし、幽助たちはただ怯えるだけでなく、この不思議な現象に戸惑ってもいた。
確かに何度か負けはした。
が、実際は負けた回数よりも勝った回数の方が圧倒的に多かった。
ほとんど当てずっぽうで、かろうじてといった感じではあったのだが……それでも勝ってはいた。
なのに何故……。
「えっと蔵馬…あのさ……俺たち、その…」
「フン。負けまくったんだろ」
冷めた飛影の視線と声。
怖くはないが、かなりムカつくものがある。
瞬時に幽助は蔵馬への恐怖も忘れ、飛影に掴みかかっていった。
「違う!!それは断言出来る!!負けたのは数回だ!!勝った方が多い!!」
「じゃあ、何故減る?」
「わ、わかんねえよ……」
「……どのモンスターに賭けたか覚えてる?」
「え?」
ふいに蔵馬に視線を戻すと、彼は一枚の紙切れを見つめていた。
終わった試合を記録した結果表で、無料配布していたのを持ってきていたのだろう。
「大体は……えっと、最初は蝎蜂だったぜ。次は化分留素羅威夢(バブルスライム)に賭けて、それも勝って、次は……」
と、賭けたモンスターを思い出しながら挙げていく幽助。
それを聞き取りながら、蔵馬の顔色は段々と呆れに満たされていった。
「幽助……」
全ての結果を聞き終えた時、蔵馬は肩を落としてガックリしていた。
もう怒る気にもなれないと言った表情である。
何がそんなにおかしかったのか、呆れるようなことだったのかと、幽助は首をかしげた。
「何か変なところでもあったのか?まさかあの売店の親父、賭け金誤魔化してたのか!?」
「違うよ……幽助、桑原くんも…君たちお金の賭け方って知らないのか?」
「は?(×2)」
いきなり何を言い出すのかと、声をハモらせながら、蔵馬を見る幽助たち。
蔵馬はしばらくジト〜っと2人を見ていたが、
「いい?賭けっていうのは、賭けるモンスターの倍率が重要なんだ」
「倍率…ってなんだ?」
「そ、そこから……倍率って言うのは、比のこと…ああ、比も分からないか。まあ単語の意味は後回しにして」
と、パンッと床に結果表にはらうように置くと、
「ほらここ。数字が書いてあるだろう」
「ああ、2.5とか1.9とかのことか?」
「そう。これを考えずに賭けてたんじゃないのか?」
「見てもなかった」
「……まあもういいけど、いちおう覚えといて。これによって貰える金額は変わってくるんだ。2.5なら、賭けてた金額×2.5。1.9なら、賭けてた金額×1.9というような感じでね」
「あ、そっか!だから毎回金額が違ったのか!!」
今更何を……というような感じの幽助たち。
そんなことも知らずに金を賭けるなど、無謀としか言いようがない。
蔵馬はため息を付ながら、続きを説明した。
「で、本題だけどね。君達、ほんと〜〜に適当に賭けてただろう?」
「ん?ああ」
「最初の一試合以外、全部1.0に賭けてたんだよ……」
「するとどうなるんだ??」
どうやら、幽助はまだ分かっていないらしい……。
が、桑原はようやく理解出来たようで、かなり青ざめながら、
「よ、ようするに1倍ってことだよな?」
「それくらい分かるよね。小学生の問題だから」
「おい、どうなるんだよ?」
中学は中退した幽助だが、小学校はちゃんと卒業していたはずなのだが……。
多分、温子が直談判したのだろう。
前に生き返った時の復学もそうだが、つくづく幽助が通った学校の校長が気の毒である……。
「1倍ってことは、つまり最初と変わらないって事。賭けた分のお金しか返ってこないんだよ」
「何ーーっ!!?」
いきなり、絶叫する幽助。
何事かと周囲の人々は振り返り凝視したが、彼が気にするはずもない。
「それじゃ、賭けにならねえじゃん!!あの闘技場インチキじゃねえか!!」
「倍率も知らなかった人の台詞とは思えないね……」
軽く突っ込んでみたが、全く聞いていない幽助。
そのまま闘技場へ乗り込んでいってしまった……。
これはゲームだというのに、すっかり忘れているようである。
ところで走り出していった人物以外の、他3名といえば……。
約1名は補欠とはいえ付属の高校に受かった身なのに、小学生でも分かるような事実に気づけなかったということで、それなりに落ち込んでいた。
約1名は、もうどうでもいいというように、残った金を数えている。
物色しまくってきた品物を売っても、まだ足り無そうである。
折角新しい街へ着たのだから、装備を買い換えたいと思っていたのに……。
そして最後の1名は、とっくに木の上で爆睡していたのだった……。
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