第二章 〜呂魔理亜国家〜

 

その1 <逆ギレ>

 

現時点での勇者一行の状態

幽助 LV.4 熱血漢で力ばかりグングン上がっている。
が、運がないため、すぐに攻撃を喰らってしまう…。
桑原 LV.6 お調子者で運の良さは天下一品。
しかし遊び人ゆえに、すぐ寝てしまい、あっさりとやられる…。
飛影 LV.6 一匹狼ならではの素早い動きで、先手を取りやすい。
だが、攻撃力自体はいまいち…。
蔵馬 LV.6 きれものの賢さ炸裂、MPは留まるところを知らぬ勢い。
ただし、まだ呪文は拾得していない…。

 

……上記表示の通り、勇者一行こと浦飯幽助たちは、この上な〜く、調子の悪い旅のスタートを切っていた。

亜利亜半大陸から次の大陸への基本到達レベルは10。
低いレベルでいけたといえば、聞こえはいいが……。
とどのつまり、効率が悪すぎるため、レベルアップが出来ずに、ただひたすら進むしかない状態なのだ。

この具合では、次の大陸へ渡るのはほぼ自殺行為だろう。
大概のゲームでは、世界が変わるごとにモンスターの種類も大きく変化する。
今までいたところでは考えられないような強力なモンスターも当たり前のように存在するのだ。

いくら幽助たちが大分ゲームに慣れてきたとはいっても、彼らが相手をしてきたモンスターのレベルといえば、せいぜい6が限度。
これから先には、余裕で7.8などのモンスターが現れるのだろうから……。

 

行って早々に、亜利亜半に帰宅ということも、充分考えられるのだが……いちおう天は彼らに味方したらしい。
次の大陸へ移った直後、目の前に街が見えたのだ!
ほんの数q、幸運にもモンスターには出くわさずにすんだ。
これほどラッキーなことも滅多にないだろう。

最も、蔵馬以外はまだ、あの小さな泉が、別の大陸へ繋がっていたことになど気付いておらず、まだ亜利亜半の何処か片隅にでもいるのだろうと思っていたのだが……。
そのことを知ったのは、街の奥にあった城で懐かしい人物に出会った時であった。

 

 

 

「よお、幽助。久しぶり」

ドッターンンッ!!

「な、な、な」
「どうした?そんなにわしに会えて感激しとるのか?」
「誰がするか!!何で、てめーがここにいるんだよ!!!」

幽助が驚くのも無理はない。
そこには、ゲームを創った張本人であり、騒ぎの元凶であるコエンマがふんぞり返っていたのだから……。
傍らにはぼたんもおり、彼女も呆れたような顔で幽助たちを見つめている。
しかし幽助はぼたんの視線など気にも止めず、コエンマに掴みかかり、

「ここ亜利亜半の城なのか!!?改装でもしたのか!!?せっかく別の街へ来たんだと思ってたのに……まさか俺をはめるために、わざとやったんじゃねえだろうな!?」
「落ち着け幽助。ここは亜利亜半ではない」
「亜利亜半じゃ…ない?」

コエンマの落ち着き払った声と、その内容に、幽助の動きは一瞬ピタッと止まった。
その隙にコエンマはこそこそと脱出。
玉座に戻ると咳払いし、

「ここは呂魔理亜(ロマリア)。亜利亜半から北西へ何百qも行った先にあるかなり大きな国だ
「そ、そっか。亜利亜半に舞い戻ってきたわけじゃねえのか……って、どういうことだよ。何でおめーがそんな別大陸に…」
「兼用だろ?わしとぼたんは大抵の国の長をやることになっとるらしい。やはりわしには王があっているようだな!」
「そうやるようにインプットしといたんじゃねえの〜?」

怪訝そうな顔で見遣る幽助に、再び怒鳴りつけるコエンマ。

 

「んなわけないだろ!!……っと、本題に移らんとな」
「本題?」
「他の国でも出されるかもしれんが、王からの課題だ」
「か、課題??」

いきなり学校の教師のようなことを言われ、呆気にとられる幽助&桑原。
飛影は意味が分からずに、蔵馬に「課題」の意味を聞いているが、蔵馬はといえば、全く動せず「課題」について説明している。
最も、その意味が分かったところで、コエンマの言おうとしていることまでは分からなかったが……。

「課題をクリアしたら、次のステージに進めるようになっておる。で、呂魔理亜からは『環駄太(カンダタ)という盗賊から、金の冠を取り返すこと』だ。そしたらここで勇者と認められるからな。割と簡単な方だと思うが、早めに……ん?どうした?」

ふと、幽助たちが俯き、黙り込んでいるのを見て、コエンマは話しを中断した。
いや、黙り込んでいるというのは、正しくないだろう。
何やら、下を向いたまま、ブツブツと呟いているようだった。

「おい、どうした?」
「コエンマ……耳貸せ」
「は?」

何とか聞き取れた僅かな幽助の発言。
何事かと、玉座から下り、耳を傾けると、次の瞬間!!

 

 

 

「ふざけんなー!!!」

 

ビリビリッ…

いちおう念のために書いておくが、上の効果音は、コエンマの鼓膜が振動しまくっただけであり、決してまだ破れてはいない。
最も、それも遠い日のことではなさそうだが……。
しかし幽助の怒りは、ぶっ倒れたコエンマを見ても、おさまるどころか、むしろ増していった。

「てめー、おれたちがどんだけ苦労してここまで来たか、分かってんのか!!?なのにこれ以上仕事しろだと!!?」
「そうだぜ!!魔王倒すのが俺たちの役目だろうが!!それ以上押しつけんな!!」

桑原まで言い争いに参加……。

「勇者として認めるだ!?ふざけんな!!俺たちは認められるためにやってるんじゃねえ!!」
「何だと!!こういうゲームでは、イベントがあって当然だろうが!!」

今度はコエンマが逆ギレ……。
しかしそれで引き下がる幽助たちであるはずがない!

「別に勇者だって認めてもらわなくたっていいぜ!!もういい加減頭きた!!俺たちは別の方法で進めてく!!行こうぜ!」
「ああ、こんな所に用はねえ!!」
「……(×2)」

激憤状態のまま、床が抜けるくらい足音でデカくたてながら(実際、一部抜けた…)、階段の方へ歩いていく幽助。
前にも似たようなことがあったような気がするが……。
もちろん、桑原も同じようにして去っていった。

蔵馬は流石によくRPGをしているだけあって、イベントなどには詳しく、これくらいのことは予想がついていたのであろう…1人冷静だった。
飛影に至っては、未だにコエンマから告げられたことの意味が分からないらしい。
しかし、これ以上蔵馬に聞くのも釈だと思ったのか、ブツブツを考え込んでいた……。

 

 

 

「コエンマさま〜。もうちょっと言い方なかったんですか?」

幽助たちが去った後、コエンマをなだめながら、尋ねてみるぼたん。
しかし、

「五月蠅い!あいつらもう許さん!!気が変わって王冠持ってきても認めてやらん!!」
「(……完全に子供の喧嘩じゃないのさ。こんなんで本当に元の世界に戻れるのかね〜)」

ふうっと深く深くため息をつきながら思うぼたん。
しかしコエンマは今、幽助たちへの、かなり理不尽な怒りを燃やすことに夢中で、ぼたんが自分の背後で呆れた顔をしていることになど気付いておらず、またそんな余裕もなかったのだった……。