その11 <鞭>
「メダル、欠けてねえみたいだな。よかった…」
ホッと安堵の息をつく幽助。
しかしふと顔を上げると蔵馬はメダルも幽助も見ておらず、真っ直ぐ一点を見つめていた。
「蔵馬?どうしたん……え゛!?」
「うぞっ!?」
蔵馬の視線の方を向いた途端、幽助は驚愕の声をあげた。
後に続いてきた桑原も……。
最も、飛影は別段驚きもせず、蔵馬と同じようにその先にあったものを見つめていたが。
しかし普通ならば、驚きの声くらい上げても良いものである。
そこは間違いなく、井戸の底だというのに……家があったのだ。
外の民家よりも大きく、庭まで付いたなかなか豪華な家……が、しかし問題はそこではなく、どうしてこんなところに家があるのかということだ。
「……何で、家が…」
「コエンマの趣味でしょ。行くよ」
あっさり言うと、蔵馬は飛影共々家の玄関へ歩いていってしまった。
「げ、玄関から入るのか?裏口とか窓とかからは…」
「この家は城よりも厄介みたいだからね。何となく気で分かる。正当法で行った方がよさそうだ」
城よりも厄介な家…とはいえ、城があれなのだから、別段あれよりも厄介であっても不思議ではない。
が、それは返って「厄介」の度合いがこれ以上になく幅広いことを意味している。
もしかすると、入った途端にモンスターのお出迎えがあるかもしれないのだ。
しかし蔵馬と飛影は入る気満々で、武器の準備などは一切していない。
ここで自分たちだけ剣を構えていたりするのは、不自然というものである。
とりあえずここは、蔵馬と飛影の盗賊の感に任せることにし、彼らの後からゆっくりと家へ入っていった……。
が、しかし……。
そこにいた住人らしい人物には、コケずには…というよりは引かずにはいられなかった……。
「遅かったな」
「げ、げ、げん、幻海ばーさん!!?」
幽助&桑原、一瞬にして家の外へ猛ダッシュ…しようとしたが、飛影が差し出した足に引っかかり、すっ転んだ。
「何故逃げる」
「いや、何となく……」
別段逃げなければならない理由もなかったのだが……思いっきり何となくその場を脱したくなったのだ。
予想外の自体に対し、人間というものはこういう行動に出たがるのだろう(最も幽助は魔族だが…)。
幻海はその様子にため息をつきながら、全く動じていない蔵馬に話を振った。
「待ちくたびれたぞ」
「すいません。それでここで何してるんです?」
「メダルの交換だ。持ってきたか?」
「…これのことですか?」
すっと袋の中からメダルを取り出す蔵馬。
幻海はふむと頷き、
「あるだけ出しな」
「はい。幽助、桑原くん。さっきのを」
「え?あ、ああ…」
幽助が落とした1枚と、桑原が使っていた1枚、そして袋の中には3枚が残っていた。
「5枚だな。ほれ、これやる。棘の鞭だ」
「えっ…棘の鞭?」
「何だ、知らんのか?ここはメダルとアイテムの交換所だ。ここでしか手に入らんものが多いだろうから、大事にするんじゃぞ」
「いえ、そうじゃなくて……」
確かに、集めてきたメダルが景品と交換されるという事実は、全く知らなかった。
しかし蔵馬が驚いたのはそういう意味ではなく……。
普段自分が愛用している武器が、いきなり手に入ったという信じがたくも嬉しい…ということだったのだ。
「受け取れ。用がすんだらさっさと行きな。あたしもとっととこっから出たいからな」
「はい……ありがとうございます」
「へえ。蔵馬にぴったりじゃん!」
井戸を抜け出し、街の外へ出てからも、一行の話題は鞭のことで持ちきりだった。
攻撃力も高く、増してたくさんの敵を一度に倒せるとなれば、本当に蔵馬の薔薇の鞭そのものである。
誰も何の文句もなく、その鞭は蔵馬のものとなり、今もしっかり装備している。
ちなみに今までの武器であるヒノキの棒は売ったのだが、たった3Gにしかならなかった……まあ宿代の足しにくらいはなっただろう。
(何故飛影に渡さなかったのかというと……実はとある場所でヒノキの棒をゲットしており、必要なかったのだ)
「使い心地いいか?」
「まだ使ってないのに、どうやって判断するのさ……っと!」
話ながら進んでいくと、前方から黒い一団が……素羅威夢4匹に大烏が2羽。
なかなかの獲物である。
「おしっ!じゃあ、まず大烏からやるか!!」
とりあえず攻撃力の高いモンスターから倒すのは常識である。
素羅威夢の方が僅か1だが攻撃力も守備力も低いのだ。
その分経験値も少ないのだが……。
と、意気込んで走り出そうとした幽助の肩を、彼よりも若干小さな手が強く握った。
「?。何だよ、蔵馬」
「幽助…素羅威夢、俺に任せて貰えないか?」
「はあ?何言ってんだ!いくら武器がいいのになったからって無茶だぜ!今まで1人じゃ1匹も倒せなかったんだぜ!いきなりなんてそんな…」
「やらせてくれ、幽助。試してみたいんだ…」
真っ直ぐな蔵馬の瞳。
絶対に負けないと心に誓った瞳である。
「……分かった。けど、無理はするなよ」
「ああ」
そう言うと、蔵馬は棘の鞭を構え、一人素羅威夢に向かった。
「お、おい!浦飯!いいのか!?」
「大丈夫だ。あいつは絶対に……って、桑原!てめーまた寝る気か!?」
怒鳴りつけたものの、桑原は全然聞いていなかった。
幽助に叫んだ直後、睡魔が彼を襲ったらしく、高いびきを上げてしっかりと眠りこけている…。
「このやろ〜(怒)」
「フン。いくぞ」
「ああ…」
飛影共々、大烏へ斬りかかっていく幽助。
しかし、たかがカラス、されどカラスである。
幽助の一撃をさっと交わし、飛影の攻撃も一発では歯が立たなかった。
彼は未だにヒノキの棒なのだから、無理もないが……。
「ちくしょ〜。もう一回行くぜ!!……えっ!?」
大烏に斬りかかろうとした幽助の横を……何かが通り過ぎていった。
エバーグリーンに薄い黄色の棘が編み込まれた、しなやかな長い武器……。
それは一瞬にして、大烏の胴体を切り裂き、草原に紅い染みを残していった……。
「く、蔵馬……?」
少し驚愕しながら、ゆっくりと振り返ると、そこでは蔵馬がいつものように鞭を構えて立つ姿があった……。
「やっぱり馴染みのあるものだと使い勝手がいいな」
ヒュッと一振りした後、鞭をまとめて腰にくくりつける蔵馬。
と、その時、
タタタンタタターーン!!
と、いつものあの音が聞こえてきた。
「だ、誰だ!?誰が上がったんだ!?」
「桑原くん」
ズルッ…
「な、な、何でまた寝てたこいつなんだよ〜!!」
「経験値はパーティに公平に振り分けられるからね。死んでいない限りは」
「ちくしょ〜……」
出番がなかった上に、また自分1人レベルアップが遅れていることに、苛立つ幽助。
しかし、実はほんの少しだけ、蔵馬の棘の鞭の威力に妬いてもいたのだが……。
〜作者の戯れ言、中間編 その2〜
なかなか進みませんね〜。
まだ最初の大陸から出てさえいないです…(本当に遅い!)
メダルの館でアイテムとメダルを交換してくれるのは、実際は「メダルのおじさん」ですが……。
深くは突っ込まないでください(いい加減、誰か出したかったんです〜)
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