その7 <洞窟>
「へえ。随分とデカい洞窟だったんだな」
「なあ、今でどのくらい進んでんだ?」
「さあ……だが、先はまだ長そうだ」
別段、何らかの術を使ったわけでもないのに、何となく地理が分かっているらしい蔵馬。
流石、魔界にその名を轟かすだけのことはある。
ちなみに飛影は邪眼を移植して以来、それに頼っていた節があるため、よく分からないらしい……。
彼らは今、亜利亜半大陸の南西に位置する洞窟へ来ていた。
もちろん、そこまで何事もなく辿り着けたわけではない。
幾度となく死闘を繰り返し、時には誰かが昇天されながら(=いちいち街へ戻りながら)、半ば桑原の得意技である「根性」で進んできたのだった。
洞窟の中は、一見すると自然に出来たもののようにも見えるが、階段があったり、所々に炎が灯っていたりと、明らかに人の手が加えられた造りのものだった。
「こういう所には、何かしらあるよ」
という蔵馬の意見で、あまり居心地がいいとは言いにくい場所ではあるが、とりあえず彷徨いているのだが……。
「…地図ないと不便だな。何か同じ所グルグル回ってるような気もするし…」
「これ、壁のせいだよ。コエンマ、面倒くさかったみたいだな」
「どういう意味だよ?」
「よく見ると壁に継ぎ目があるだろう?土壁に似せたブロック塀。一つだけ造って、後は拡大縮小繰り返して増殖させたものだ」
「なんつー、いいかげんな…」
「はくしゅん!」
またまた何処からか、誰かさんのくしゃみが……。
しかし、さっきからコエンマの悪口を言うたびに聞こえてきているため、もう誰も気にしなかった…。
「あ!」
突如、蔵馬が一人走り出した。
ビクッと全員に緊張が走る。
「何だ!?敵か!?」
「宝箱発見♪」
ズルッ……
「く、蔵馬…おめーな〜」
「洞窟とかって宝箱多いからね♪あ、旅人の服だ。誰が着る?って、幽助と桑原くんはもう着てるんだったね。飛影、どうする?」
「……貴様が着ろ」
もう嫌になっているらしい飛影。
ゲームはまだ始まったばかりだというのに、このやる気のなさ……最も、彼の性格のせいだけでもないだろうが。
「そうですか?まあ、飛影の方が体力あるからね。じゃ、遠慮なく……あっ!!」
「何だよ。また宝箱か?」
「違うよ。ほら、階段」
「げ〜、また階段かよ。また地下に下りるのか〜?」
「ますます息苦しくなりそうだな…」
「いや……上がるみたいだな」
蔵馬の言葉に、全員がバッと顔を上げた。
確かに蔵馬が指差す先には……。
上へと続いていく階段が……しかも僅かだが光が差し込んでいる。
「まさか、外か!?」
「やった〜!!」
「行くぜ〜〜!!」
「え、ちょっとみんな!!」
蔵馬の制止も聞かず、幽助たちはもうスピードで階段を駆け上っていった。
一人置いて行かれた蔵馬だが、まあいいかという表情で後を追った。
「あの階段の段数じゃ、とても外には出られそうにないけどな〜」
……蔵馬の感は当たっていた。
そこは光こそさっきよりも眩かったが、それはやはり炎が灯っているだけで、外ではなかったのだ。
三人の落胆といったらない。
やっと、懐かしい日の光に当たれると思ったのに……。
しかし、蔵馬は外や中ということよりも、周囲の劇的な変化に着目していた。
土壁が一変し、石で造られた古城のようになっているのだ。
「これは……随分と凝った造りになってるな。ってことは、この道であっていたわけだ」
「何があってるって〜!?何処が外なんだ!!」
「誰が外に出ると言いましたか……さ、行くよ」
「もう疲れて動けねえよ!!」
まるで子供のように膨れる幽助。
ぎゃんぎゃん吠えまくる桑原。
完全無視の飛影……とこれは、いつものことだが……。
蔵馬は手のかかる小学生の面倒でもみているかのようで、呆れる半分楽しんでいた。
「ほらほら、休みたいなら、もう少し先に行ってからにすればいいだろう。宿でもあるかもしれないし」
「本当に〜?」
「なかったら、その時はその時。ま、幽助の受け売りだけどね」
「あのな〜……(怒)」
やりたくもない冒険をやらされている苛立ち、押さえきれぬ怒りを、かなり不本意ではあるが、蔵馬にぶつけようとしたのだが……。
「速くしないと…」
今までニコニコと笑っていた彼が、いきなり妖狐の……あの、世界でおそらくは一番冷淡だと思われる瞳で睨み付けてきたため、
「……はい」
と、全員一致で従うしかなかったのだった……。
しかし、幸いにもその数分後に彼らはゆ〜っくりと休むことが出来たのだ。
蔵馬は幽助たちを動かすために言ったのだろうが、幸運にも本当に宿屋があったのだ。
「助かった〜」
「こんな辺境に宿があるた〜、ありがてえな〜」
久しぶりのベッドでゴロゴロとくつろぐ幽助&桑原。
蔵馬と飛影は外のラウンジでお茶をしていた。
「どう思う?飛影」
「何がだ」
さっきと今の蔵馬の変わり様に、飛影は今さらながらにイラついていた。
初めて会った時から、彼には振り回されっぱなしなのだ。
見下しているわけではないのだが、それでも自分を下に見ている。
「年下」「幼い」と見られているのが、プライドの高い彼にとって、どれだけ屈辱なことかは容易に想像がつくだろう……。
それに気づいているのかいないのか(多分気づいているだろうが)、蔵馬はコーヒーを一口飲んでから、
「この洞窟のことさ。というか、既にこれは洞窟じゃないけど」
「古ぼけた塔らしいな…」
「ああ。それで、どう思う?ここをゲームと考えずに、個人的な意見で…」
「……普通に考えれば、宝があるだろうな。それも塔の上の方に……何者かが持っているだろうな」
「やっぱり飛影もそう思うか」
元盗賊の感というやつだろうか……蔵馬と飛影の意見は一致していた。
常人でもこういう古びた塔では、宝などがありそうだということくらい分かるには分かるだろう。
そして、それが上の方だということも……。
しかし「ここに誰かがいる」という発想は、盗賊ならでは。
普通に考えて、こんな洞窟からしかいけず、モンスターが徘徊するような塔に人がいるなど……。
まあ、宿屋がある時点でかなり変だが……
コエンマが造ったと考えれば、その辺は納得も行くというものである。
「とりあえず、明日は上へ行ってみるとしますか」
「フン。勝手にしろ」
コーヒーを一気に飲み干すと、飛影はこれ以上からかわれたくなかったのか、席を立とうとした。
が……
グオオオオオッ…
と、突然下から地の底から這い出してきたような大声が聞こえてきた。
何事かと思った二人だったが、よくよく聞いてみるとそれは、階下でゴロついていた幽助と桑原の大いびきであることが発覚した。
おそらくはほぼ桑原のものだろうが……。
「……よく寝てるみたいだね」
「……」
ガタンッと音を立てて座り直す飛影。
かなりふてくされていたが、蔵馬はそれすら面白がって眺めていた。
蔵馬にからかわれるのも面白くないが、一階下にいるにも関わらず、ここまで響き渡ってくる大いびきを直に聞かねばならぬのは、もっと嫌らしい飛影……。
だが……では何処で彼らは寝るつもりなのだろうか……。
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