その5 <蘇生>

 

 

「……で、これからどうすんだよ」
「幽助。その台詞、ここに来てから何回目?」
「うるせー!ったく、死んでるのに暢気だな」

死んでいる蔵馬に向かって怒鳴る幽助。
まあ、本当に死んでいるわけじゃないと分かったので、その声はかなり落ち着いてはいた。
彼だけでなく桑原も…そして一番取り乱していた飛影も、やっと一息つけた。

突拍子もなさすぎたため、返って幽助が死んだ時のように力が変化したりすることがなかったのは、よかったのか悪かったのか……。
しかし、自分のパワーアップよりも、仲間の「生」の方が何千倍も何万倍もいい。
それは、個性が強く協調性を欠く彼らに、唯一共通していることなのだ。
最も、烏相手に逃げ出したことについては、おのおのおさまりきらない怒りを抱いてはいたが……。

「ところで今も見えませんか?」
「ああ、全然見えねえよ。どっちの方向にいるんだ」
「棺の上に乗ってるよ」
「じゃあ、今俺とは面と向かってんだろ?けど、影も見えねえよ。まあいるならいいけどさ」

話している蔵馬は、街に入っても何をしても全く見えなかった。
声が遠ざかったりしないので、多分すぐ側にはいるのだろう。
しかし、見えない相手に話すのは、どちらを向けばいいのかよく分からないので、とりあえず死んだ蔵馬の入った棺(何故か突然現れた)を見ながら話すことにしたのだ。
端から見れば、ものすご〜〜く変な奴だろうが……。

 

「なあ、まさか蔵馬ずっと死んだままってことねえよな?」
「さあ?主人公じゃないから、問題はないだろうけど」
「お、おい!」

焦る幽助。
そんなことされたら、これから先苦労することは目に見えている。
いくら側にいるといっても、言葉だけしか届かないということは、つまり全く戦力にならないということである。

いや、それよりもまず、蔵馬抜きのこの三人だけで戦うと言うことは、まず不可能にも近い。
彼が仲裁役となり、喧嘩ばかりしている三人をなだめ、まとめている。
幽助もいちおうカリスマ性はあるが、何分本人自身が喧嘩っぱやいため、蔵馬のように冷静な判断を下してのまとめは出来ないのだ。

 

 

「なあ、生き返る方法考えろよ!」
「……」

あまり自分を心配して言っているわけではないということを、蔵馬は何となく感じ取っていた。
いちおう死んではいるが、ここにいて話しているのだから当然かと、ため息を付き、

「じゃあ、教会行こうか」
「教会〜?」
「おい、葬式に出して転生でもすんのか?けど、火葬なんかしたら、マジで死ぬかもしれねえぜ」
「教会で火葬をやるか、馬鹿め。キリスト教は土葬だろうが」
「う、うるせー!ちょっと間違えただけだろ!!」

いつもの冷めた飛影と熱くなった桑原の、ほぼ下らないと言えるであろう喧嘩が始まった。
この程度であれば仲裁をする必要もないし、特に急いでいるわけでもないので、ほおっておけばいいのだが……。

「……で、教会行ってどうすんだ?」

喧嘩中の桑原&飛影を無視し、蔵馬と話を進める幽助。

「言っときますけど、葬式には出さないでくださいよ」
「誰が出すか!ほら、早く言えよ!」
「はいはい。じゃあ、順を追って話すけど」
「手短にな」
「……ゲームでいう教会っていうのは、セーブポイントだったり、回復や休憩の場所であることが多い。だから死人の蘇生も教会でやってくれる可能性が高いわけで…」

「なるほど!!よし、行こうぜ!!」
「って、幽助。話はまだ途中……まあ、いいか」

蔵馬の棺を引きずって、元気よく前進する幽助。
上に見えない蔵馬が乗っかっているのだが、見えないだけでなく彼には体重もないらしい。
多分、「霊力があっても見えない霊体」みたいな存在になっているのだろう。

 

 

 

「あれ?浦飯〜、蔵馬〜。何処行った?」
「……」

喧嘩をしていて、二人がいなくなっていたことに気付かなかったらしい桑原たち…。
ほおっていかれたということには、すぐに気付いたが、それに対する怒りがこみ上げてくるより先に、

「何ーーーー!!!?」

と、遠くから幽助の絶叫が鼓膜を振動させた。

「な、何だ?今の浦飯だよな?」
「あれが蔵馬の声に聞こえるのか、貴様は…」
「んなわけねえだろ。とにかく行こうぜ」

幸い、幽助が棺を引きずっていった際の後が道に残されていたため、彼らの行った先にはすぐに辿り着けた。
十字のマークのついた施設。
RPGをしたことがない者でも、何となくは分かるであろう建物だった。

「教会か」
「おい、浦飯!」

扉を蹴飛ばすように開け、中へ飛び込む桑原。
が、扉を開けたのは桑原のはずなのに、先に中へ入ったのは飛影だった。

「こいつ、俺に開けさせやがったな〜」

再び喧嘩をふっかけたいところだが……。

 

「ふざけてんじゃねえぞ、てめー!」

と、さっきよりは小さいものの、耳をつんざくガナリ声で叫んでいる幽助を見、駈け寄っていった。

「おい、どうしたんだよ。浦飯」

「うるせー!取り込み中だ!!」

「お、おい…」

どうやら、彼は掴みあげた神父に怒鳴りつけるので精一杯で、自分に話しかけてきたのが桑原だと気付いていないらしい……。

 

「蔵馬。何があった」
「飛影……それが…まあ予想はしてたんだけど」
「何をだ」
「このゲーム、生き返らすのには教会で正解なんだが……金取るんですよ」

「な、何だとーー!!?」

蔵馬の言葉に、ぶち切れる桑原。
幽助に続いて神父に掴みかかっていった。

「てめー!!!無償で人を救うのが教会ってもんだろーが!それなのに金をとるだー!?ふざけんじゃねー!!」

「だ、だから…教会に入るわけじゃなく、貧しい者たちへの寄付として…」

「寄付だ〜!!所持金の大半なくなるじゃねえか!!」

実際は大した金額ではない。
ただ、冒険序盤の幽助たちとしては大金だったのだ。
それをいきなり登場した神父が分かっているはずがない。
本当に彼には悪気は全くないのに……。
少々気の毒だが、その男が皿屋敷中学の理科教師とあっては、同情心も失せるというものである。

 

 

「幽助。とにかくここは金払って」
「蔵馬!!おめーなー!」
「仕方ないだろ。文句を言うなら、ゲームを創ったコエンマに言うべきですよ。こういう設定にしたのは、彼なんだから」
「うっ……」

まあ確かにそうである。
ここで神父に文句を言ったところで、何も変わらない。
時間の無駄というものだろう。

「……ちぇ!おい、金払うからさっさと生き返らせろ」

ドンッと台座に神父を突き飛ばしながら言う幽助。
これでは、勇者どころか完全に悪人である……。
神父はとっとと帰って欲しいという気持ちでいっぱいなのだろう。

「おお、全知全能なる神よ!神の僕、蔵馬を今ここによびもどしたまえ!」

チャンチャララ〜ン

「何だ?今の音……あっ!」

ギギッと音を立てながら、彼らの目の前に置かれた棺が開いた。

「蔵馬!」
「蔵馬〜!!」
「生き返ったんだな!!」
「みたいだな」

トンッと軽い足取りで棺から出てくる蔵馬。
途端、棺は影も形もなくなってしまった。

「変な棺だな。蔵馬が死んでからしばらくして出てきて、蔵馬が生き返ったら消えやがった」
「多分、皆でも死ねば同じようになるでしょうね」
「縁起でもねえこと言うなよ……とにかく行こうぜ。こんなところに長居は無用だ!」