その3 <装備>

 

 

「ここから街の外に出るのか…何か、緊張感に欠けるな…」

カリカリと頭をかきながら、呆れた顔で街の出口を見据える幽助。
まあ、自分の家から僅か数分のところに城壁があるのでは、無理もないだろうが……。

「ここから先は街の中と一緒にしない方がいい。街以外のところでは、必ずモンスターが出現する、これがRPGの鉄則だからね」
「ふ〜ん。まあどうってことねえって!いざとなれば、剣なんか捨てて霊丸ぶっぱなせばいいんだからよ!」
「……そう上手くいけばいいんですが…」

明るい幽助たちとは逆に、不安を拭いきれない蔵馬。
ここはゲームの世界、現実とはまるで勝手が違うのだ。
それだけに、何があってもおかしくないというのに……。

「いちおう出来るだけの装備はしていった方がいいだろうな」
「そういうもんなのか?別に俺たち、装備なんかいらねえと思うけど」
「今までもろくな装備なんかしてきてねえじゃんか」
「念には念を、さ」

いつもに増して神経質になっている蔵馬に、流石の幽助たちも一瞬沈黙した。
彼は今、天沼の時と同じ表情である。
やはり敵の……そして今回は自分自身の力も立場さえよく分からないというのは、恐ろしいものなのだろうか。

 

「じ、じゃあさ。どうすんだ?」
「持ってる装備は?コエンマに貰わなかったか?」
「えっと……ヒノキの棒と旅人の服、それに棍棒が二本だぜ」
「か〜。ケチだな〜、コエンマのやろう」

「はっくしゅん!!」

「今、誰かくしゃみしたか?」
「気のせいだろ。それより早くやろうぜ」
「そうだな。えっと」

ピッピッ

「蔵馬。何でゲームカウントなんか調べてんだよ?」
「能力に偏りがあるとダメージを受けやすいからね。とりあえず今は攻撃力と防御力だけでいいけど」
「そ、そうか…」

返事はしたものの、実はよく分かっていない幽助&桑原。
彼らは格闘ゲーム専門なので、RPGにはてんで疎いのだ。
ちなみに飛影だが……彼は元から何も聞いていなかった。

 

「攻撃力が低いのは……桑原くんと俺か」
「ええーー!!?何で俺様が弱いんだよ!!」
「性格の問題でしょう…俺だって納得ってない」

ブツブツ言いながらも、今度は装備の可・不可を見てみる蔵馬。
しかしそこで一つの問題に直面した。

「……マズい」
「は?」
「俺と飛影、ようするに盗賊なんだが……棍棒の装備、不可になってる」
「……つまりどういうことだ?」
「コエンマは棍棒二つとヒノキの棒一つを、くれただろう?けど、それだと棍棒は一本余るんだ。逆にヒノキの棒が一本足りなくて…」

本当ならば、攻撃力+2とほとんど意味のないヒノキの棒よりも、もっと攻撃力の高いものが欲しいのだろうが……あいにく金がない。
流石コエンマが王というだけはあるのだろうか……。
序盤とはいえ、はした金に近い金額しか貰っていないのだ。

 

 

「とりあえず桑原くん、棍棒装備して」
「お、おう」
「このヒノキの棒は俺が装備するから…飛影の分、買いに行こうか」
「いらん」

大体予想は出来ていたが……上から機嫌の悪い声が降ってきた。
なかなか出発しないことに苛立ってもいるのだろう、かなり刺々しい声と表情で睨み付けてきた。

「俺は素手で戦える。そんなものは必要ない」
「でも飛影…」
「いらんと言ってるだろう!」

不満をぶちまけるが如く怒鳴りつけると、飛影はそのまま街を出ていってしまった。

 

「おい飛影!待てよ!」

幽助も早く外に出たかったのだろう。
飛影を追いかける振りをして、城壁をくぐり抜けていった。
桑原も続いて後を追おうとしたが、

「あ、桑原くん。ちょっと」

と、蔵馬に袖を引っ張られ、止められてしまった。
早く出ていきたい桑原は、

「な、何だよ。あいつら行っちまうぜ!?」
「分かってるさ。すぐに追いつくけど、その前に。これ装備して」

と、蔵馬が渡したのは、一着の服。
先ほど幽助が取りだした、旅人の服だった。

 

「桑原くん、体力もほとんどないから」
「そ、そうかよ……」

攻撃力も低い上に体力も低いとは……運のよさだけが高すぎるからなのだろうが、やはりショックではあるらしい。

「なあ、蔵馬」
「何か?」
「その……体力も低かったってこと、浦飯たちには黙っててくれねえか?」

ボソボソと口の中でこっそり頼む桑原。
蔵馬はふうっとため息をついて、

「ああ。とりあえずは黙っておきます」
「サンキュな…じゃ、行くか!」

るんるん気分で、街を出ていく桑原。

しかし……その後ろで、蔵馬が不敵な笑みを浮かべていることに気付かなかったのは、彼の高いはずの運が、たまたま働かなかったというしかないだろう。
最も遊び人などという、ふざけた職業になってしまった時点で、運がなかったのかもしれないが。

「桑原くん。確かに俺は、言いはしませんけどね。防御力の高い旅人の服を装備している時点で、気付かれると思いますよ♪」

 

 

……こうして、ようやく旅に出ることが出来た幽助たち。
この時点での彼らの能力値は、以下の通りである。

 

  素早さ 体力 賢さ 運の良さ
ゆうすけ 14
くわばら 24
ひえい 10 18
くらま 13 19

 

……偏りが改正されたのか、されなかったのか……。

街の外。
蔵馬以外が甘くみたそこで、彼らは一体どんな冒険をするのだろうか……。