その2 <酒場>

 

イライラしながら、城を出てから数分後。
幽助はとある酒場の前に辿り着いていた。

大陸を治める一国とはいえ、所詮ゲームである。
街自体の面積も、かなり小さいようだ。

「ここが留衣々田の酒場か。よっと」

トンッと軽く押しただけで扉は簡単に開いた。
しかし、ムードをつけるための細工だろうか……音だけはギギッと古びた印象を与えていた。

「音だけしても意味ねえっつーんだよ、コエンマのやつ……さてと〜」
「幽助、遅いよ」
「け、螢子!?何で、螢子がここに…」

ぎょっとし、たった今閉まった扉にへばり付く幽助。
が、その拍子で…音以外は軽い扉はあっさりと開き、幽助はあっさりと外へUターンしてしまった……。

「いてて…」

ぶつけた頭をさすりながら、再び入ってくる幽助。
しかし…さっきのは見間違いではなかったようだ。
カウンターで自分を睨み付けてきているのは……間違いなく、螢子だったのだ。

「あたし、ここで酒場を経営してることになってるの。銀行もかねてるから、預けていいわよ。1000G単位ね」
「…そんなにねーよ。それより、仲間の名簿見せてくれ」
「そんなの見せる必要ないでしょ?連れていく人なんて、決まってるじゃない」
「おい……」
「もう呼んであるよ」

そう言いながら、階段の方を指差す螢子。
幽助はダルそうに、そちらの方を向いた……のだが!!

 

 

 

「よお……浦飯遅かったな……」
「全くだ」
「本当に……待ちくたびれたよ」
「く、わ…原……く、蔵馬……ひ…えい……」

凝視したまま、硬直すること5秒。
堪えながら、名を呼ぶのに要した時間13秒。
そして、更に5秒後……。

 

「ギャハハハハハハハハッハハハハ!!!!」

「笑うな!!!」(×3)

遠慮なく、酒場どころか町中に響き渡るような声で笑い転げる幽助。
対する三人は、耳まで真っ赤にして、それを制そうとしたが、どうにもこうにも、不可能のようである。
笑いのツボを完全についてしまったのだから……。
しかしそれも無理のないことかもしれない。
何せ、階段に腰掛けた彼らの格好といったら……。

「あははーはは!!」
「しつこいぞ!!」
「いつまで笑ってる!!」
「もう30分は軽く…(怒)」
「だって、だって、あはは!!おめーら!何だよ、そのカッコ!!」

そう……幽助のしている服装も、変といえば変だが、まだ外を歩ける範囲ではあるだろう。
しかし、蔵馬たちのしている格好は……。

 

「桑原、それ遊び人か!?派手だなー!!」
「悪かったな!!しかも、性格が『ラッキーマン』だぞ!!こんなことってありかよ!」
「で、で、蔵馬と飛影は本業ってわけか!!」
「……盗賊だからね」
「なるほどな〜…ぷっ、あはは!!やっぱりこらえられねー!!」
「幽助!!!」

滅多に見せない蔵馬の貴重な激怒シーン……桑原と飛影は、少々身の危険を感じたのか、後ずさりしているくらいである。
まあ、幽助自身にも怒っているのだろうが……。
おそらくは、このゲーム自体に怒りを覚えている、といった方が正しいだろう。

「飛影はともかく、何だよ蔵馬、その服!!まるっきり女物じゃねーか!!」
「設定が女性になってるようでね……このゲーム、いいかげんにもほどがある!」

肩を震わすほど、怒りを込めて怒鳴る蔵馬。
相当、ショックであったのだろう……。
外と設定が違うというのは、こういうことだったのだろうか。
しかし本人には悪いが、似合っているのもまた事実……。

 

 

 

「で〜、まずは何したらいいんだ〜?」

頭に作られた巨大なたんこぶをさすりながら歩く幽助。
あまりに笑いの度がすぎたために、蔵馬の怒りを完全に買い、近くにあったテーブルで思いっきり殴られたのだ。
思えば幽助が蔵馬に殴られたのは、これが初めてで、しかも連載始まって以来彼が初めてかもしれない。
素手ではないにしろ、蔵馬の技は全て殴るという行為ではなかったのだから。

蔵馬はといえば、やっといつもの落ち着きを取り戻していた。
最も、まだ完全に機嫌が直ったわけではないのだが……。
さっさと現実に戻るためには……しいては女装を終わらせるためには(←おそらく後者が主だろう)、ゲームを終わらせるしかないと、いちおう指揮をとっていた。

「最初にやるとしたら、まず家捜し(やさがし)だな」
「はあ?」
「箱や壺の中には、貴重なアイテムが隠されている場合が多い。それを全部集めるのも、旅の目的だからね」
「おい……」
「じゃあ、ここから行くとしますか」

と、いきなり手近にあった樽をひっくり返し、中身を物色し出した。

「これはゴミだし……これは遣えそうだな。じゃあ、次はっと」
「お、おい蔵馬!!勝手にいいのかよ!?」
「見れるところには見てみるが鉄則。どうせゲームなんだし」

それはそうだが……しかしゲームとはいえ、かなり現実味があり、何かする度に周囲の人間がこちらを見てくる。
その焦点のあっているようなあっていないような視線は、かなり痛く怖いものがあるのだが……。

が、多少の罪悪感というものも、彼にはないらしい。
いや「彼」というよりは、飛影も含めた「彼ら」といった方が正しいかも知れないが。
堂々と、幽助の家に上がり込み、樽や箱を開けると必要なものだけ取り出し、さっさとその場を後にした。
最も、温子はぼ〜っとテレビを見ていたので気付かなかったが……。

唖然呆然としている幽助と桑原の前で、蔵馬と飛影は次々に宝を回収していった。
家だけでなく、城のものまで。
しかも鍵のかかっていた部屋に来たときなど……。

「ここ鍵かかってるな」
「壊す」
「やめた方がいい。こういうのは、冒険が進んでいって初めて開けられるものである可能性が高い。多分、途中で鍵が手に入る仕組みなんだよ、それまでほおっておこう」

と、完全に盗る気満々……。
思いっきり、城の貴重品がありますよ、状態の部屋なのに……既に「自分たちのもの」と認識してしまっているのだろう。
やっぱり2人は盗賊だった……。

 

 

 

「そういえば〜。さっき桑原、性格がどうとか言ってたよな?」

蔵馬と飛影の盗賊行為(←そのまんま…)に、そろそろ慣れだした幽助は、ふと一緒に呆けていた桑原に話をふった。

「ああ。このゲーム、性格によって能力に差が出来るんだってさ」
「ふーん。ラッキーマンってどんな能力が上がるんだ?」
「……運のよさ」
「思いっきり、そのまんまじゃねえか……蔵馬と飛影は?」

盗ったものを整理している蔵馬と、いつの間にか木の上に行ってしまっている飛影に向かって尋ねる幽助。
当然飛影には無視されたが、蔵馬がかわりに答えてくれた。
彼はほぼ飛影の保護者兼通訳と化しているのだろう……。

「おれは『きれもの』。上がりやすいのは、かしこさ。飛影は『いっぴきおおかみ』、体力とすばやさが上がりやすいとか…」
「おめーらもそのまんまなんだな……いい加減なのか、的を得てるのかわかんねえな、このゲーム…」
「そういう幽助は?」
「わからねーよ。性格ってもの自体、今知ったのにさ」
「ゲームカウントに書いてあるはずだから……えっと、幽助は…」

ピッピッと、カウントを押す蔵馬。
さっき手にしたばかりだというのに、もう使いこなしている彼は、やはりすごいのだろう……。

 

「……『ねっけつかん』。どっちかっていうと、桑原くんに合いそうだな」
「どういう意味だ、それ!!」(×2)
「そのまんま。言葉の通りだろ」

「じゃあ何か!?おれと桑原は同レベルだってのかよ!!冗談じゃねえぜ!!」
「て、てめー!!おれこそゴメンだ!!何で、てめーなんかと同じにされなきゃなんねーんだ!!」
「何だとーー!?」
「やるかー!?」
「きやがれ!!」

ドカッ!!バキッ!!ボコッ!!ドカーーンッ!!

いつものように、喧嘩を始める幽助&桑原。
蔵馬は呆れてみていたがさっさと被害の及ばない場所へ避難し、盗品整理を再開した……。
飛影に至っては、本当に爆睡に入ってしまったらしい…。

 

彼ら4人…一体何のためにゲームをやっているのか……。
魔王のことを半ば忘れているような雰囲気ではあるが……おそらく完全に忘れているのだろう。

彼らの旅は……まだまだどころか、まだ始まってすらいない……。

 

〜作者の戯れ言、中間編〜

蔵馬さん、女装させちゃってごめんなさい!!
全員男性っていうのは、装飾品とかが勿体ないんです〜!(←おいっ!)