<絆> 2
「……」
段々と意識がもうろうとしてきた。
何となく分かった。
死ぬ、と。
空っぽの胃。
すっかり肉の落ちた身体。
もはや動かないが、致し方あるまい。
修羅が来た時には、必死に布で隠したが、今はそんな風に動くことも出来ない。
「……」
ふいに自分が逝った後、誰か泣いてくれるかと思った。
死を目の前にして、いきなり何故そんなことを思うのか……よく分からなかった。
確か、雷禅が死んだ時には、旧友や部下がたくさん泣いたらしいと聞いた。
もちろん浦飯から。
当の本人は泣かなかったが、彼らしいなと思った。
数年後に人間の仲間や妻が逝った時には、おいおい泣いていたが……それも彼らしかった気がする。
それはともかく。
自分には泣いてくれる奴などいるだろうか?
修羅は昔、泣き虫だった。
負けるたびに泣いていた。
自分に負けても、他の妖怪に負けても。
だが、その反動のせいか、最近は全く泣かない。
泣くことがないといえば、そうかもしれない。
トーナメントでも数回優勝経験を持っているくらい、修羅は強くなっていた。
だから、泣く機会がかなり減っている。
しかし、少し前に準決勝で負けた時も、泣かなかった。
笑顔で相手と握手していた。
でもってその後失神して、三日ほど起きなかった。
そんなところはまだまだ子供と笑ったものだが……。
果たして、泣いてくれるのだろうか?
いや、修羅以外にも誰か……。
「いるわけ…ないか……」
ふと……頭に浮かんだのは、長い銀髪。
続いて、長い赤毛。
ストレートな髪と、くせのある髪。
冷たい細い金眼に、大きな緑の眼。
融合して何年も経ち、変化するたびに人間の命を削っているのに、未だに彼は両方の姿になることが出来た。
まあ、融合して以来の人生の大半は、赤い髪の方で過ごしているせいなのだろうけど。
しかし……。
「(俺には…ほとんど、銀髪の記憶しかないな……)」
自嘲気味に笑う。
しかし、確かにそうだった。
無理矢理、魔界へ呼び寄せた時は、まだ妖力がA級妖怪程度で妖狐の姿になるにも無理があったらしく、大概赤い髪だった。
一度人間界へ戻り、再び来た時もそう……S級にはなっていたが、それでも赤い髪だった。
理由は分かっている、他に仲間が六人ほどいたから。
あれが蔵馬の気を落ち着かせていたのだろう。
微妙に釈然としないところもあったが。
第一回トーナメントでも、大半赤い髪だった。
しかし、あの時はほとんど言葉も交わさなかった。
まあ、試合が全て終わる前に、向こうが人間界へ帰ってしまったのが要因だったけれど。
そして……その後のトーナメント。
蔵馬はほとんど銀髪で出場していた。
理由は簡単。
家族に自分が妖怪として出場しているところを見られたくなかったから。
海外旅行気分で往来出来るようになる前から、蔵馬はその時のことを考えていたのだろう。
家族が亡くなった後も、そうしていたのは、多分馴染んでしまっていたからだろう、トーナメントに妖狐の姿で出場することに。
しかしそれが、黄泉が銀髪の方しかほとんど見ていないことに繋がっている。
トーナメント以外、蔵馬と黄泉は会う機会などなかった。
いや、会うといっても、すれ違う程度で、まともに言葉を交わしたことなどなかったのだけれど。
やっぱり怒っているのだろうな。
家族を人質に、利用したことを。
最後は綺麗にまとまったとはいえ、怒りが収まるわけもない。
こちらがいくら人間を断ったとしても、考えてみれば、そんなこと蔵馬には関係ない。
あれで結構身内に被害がなければ気にしない方だから。
……そんなことを考えていたが、もはや意識が朦朧どころか、ほぼなくなってきた。
死…ぬのか……
そう思った瞬間、そこで黄泉の意識は途切れた。