Battle Diary> 4

 

 

数日後。
ようやく全員のレベルが1000(上げすぎだろ…)に達したところで、クリアを目指すため、街を後にした一行。
ひとまず聖者の本が盗まれたというらしい神殿というところへ行ってみたが、RPGにはありがちパターンで、いきなりの来訪者にいきなり取り返してくれと言われ、帰るためには仕方ないと、いちおう引き受けた。
最も内心、「こんな偉そうにいうんじゃねえー!!」と思ってはいたのだが。

むろん飛影は実力行使で止めねば、殴りかかって行きかねなかったので、とりあえず蔵馬の百人一首逆さ読みで引き留めておいた(闇の力らしい黒の呪文は、とにかく相手が酷い目に合いやすいが、逆に言えば引き留めやすい…)。

 

 

「で。魔王の城まで後どのくらいだって〜?」

神殿でいわれた通り、魔王の城とやらのある北へ向かう蔵馬たち。
しかし、行けども行けども、草・草・草。
アフリカのサバンナにでも紛れ込んだ気分である。

「100qくらい」
「あ〜、とお〜い〜!」
「だり〜、バイクか何かねえのかよ」
「幽助、免許持ってた?」
「持ってねえ」
「……無免許はよくないよ」
「るせー」
「……」

実は無免許運転の上、二人乗りで、ヘルメットなしで載ったことがあるぼたんは、内心冷や冷やしていた。
蔵馬は元・極悪盗賊で、はっきり言って法律も規則もむしろ無関係の部類にある。
本来なら…。
しかし、人間界で20年近く生活してきた彼は、今では少なくとも幽助よりも規則やら何やらを守る傾向にある。

何より危険なことをやたらとしない方なのだ。
これが特に意味もないような規則(学校で例えれば、スカートの丈とか髪留めのゴムの色とか)ならば、特に何も言わないだろうが、無免許・二人乗り・ヘルメットなしと、これで飲酒がつけば、逮捕ものかと思われるくらいの規則破りでは、多分冷ややかな視線で怒られる。
場合が場合だったと説明出来れば、納得するだろうが、果たしてそのヒマがあるのやら……。

 

「どうかしたのか? ぼたん」
「え? う、ううん! 何でもない!!」

黙りこくっていたぼたんへの問いかけは、ごく普通のものだったが、あれこれ考えている最中だった彼女にしてみれば、見抜かれたと思い、焦ってもまあ仕方がないだろう…。

 

 

「っていうかよー。本当に何か乗り物ねえのか?」
「なさそうだね」
「ただ歩くだけって退屈だぜ」
「緊張感ねえしな〜」

実際は何もない…ということもない。
さっきからモンスターはぱかぱかと出てきているのだが、如何せんレベルが高すぎるため、幽助たちにしてみれば、象にネズミが単体で挑んでくるようなもので、全く相手にならないのだ。
普通、RPGといえば、こういう平原の何もないところで闘って、レベルを上げて、ラスボス目の前でようやく互角といったところだろうに。
まあ、実際にはレベルよりも呪文の方が問題ことはいうまでもないが。

 

 

「こういう場合、宝箱とかにあったりするんだよねー」
「宝箱?」
「何もない場所に、ぽつんっとあったりしてさ! まあ、平原だから、ないとは思うけど…」
「ああ、あった」

「ほら、やっぱりない……って、ええー!!?」
「マジ!?」

ばっと振り返った4人の視線の先。
蔵馬は進路からやや外れ、チョコチョコあった岩場の間を覗き込んでいた。
飛影たちが駆け寄るのとほぼ同時に、大きな箱の蓋が開かれた。

 

「これは……スケボー?」
「んだよ、これで行けってのか?」
「冗談きついよ、コエンマさま〜」

げんなりと肩を落とす幽助・桑原・ぼたん。
確かにこの草がボーボーの野原で、どうやってスケボーに乗れというのか……言い分も最もだが。

がっかりして、岩場を下りていく幽助たちとは対照的に、蔵馬と飛影はそのまま岩場に留まっていた。
飛影はスケボーが分からないから、とりあえず見ているだけだろうが、蔵馬は当然スケボーくらい知っている。
それでいて、なおかつ手放さずに、じっと観察しているのだ。

 

「……もしかして」
「どうした?」

答えず、立ち上がりこちらを向いた蔵馬は、やけに楽しそうな顔をしていた。

「……?」
「飛影。君、歩きたい?」
「……」
「多分二人なら乗れると思うけど」
「……」

悩む飛影に、既に先を歩いていた幽助たちが振り返って叫んだ。

「蔵馬ー。それ、二人乗れても、歩いた方がぜってー速えぞ〜」
「つーか、大きさ的に無理だろー」
「こんな草ばっかりのところをスケボーなんて、『名探偵コ●ン』じゃないんだしさー」

……草ボーボーのところをスケボーで駆け抜けていったシーンがあったかどうかは定かでないが。
ほとんど街中だったような気もしないでもないが、しかしビルとビルの間だのを行くよりは現実的だろう。

 

「どうする? 飛影」
「……」

しばし悩む飛影。
蔵馬は何やら悪巧みを考えている時の笑みをしているが、しかし自分一人で乗れと言ってきているわけではない。
二人乗りというからには、つまり蔵馬も乗るのだろう。

しかし、幽助たちは無理だという……それもやや小馬鹿にしたような言い方(←に飛影は聞こえた)で。

 

 

「……乗る」
「そう。分かった」

「はああ??(×3)」

飛影の返答に、またかなり距離を開いていた三人が振り返った。
呆れと多少の驚きの含まれた声で。
無理もない、飛影が歩きたがらないなど、万に一つもないと思っていたのだから。
まさか自分たちの意見にムッとしたからなどとは、露ほども気付かず。

 

「意外だなー」
「でも、余計に距離開きそうだよ。待ってた方がよくないかい?」
「んなこと言っても、勝手言ってるのは向こうだし……え?」

ひゅっと何かが頭上を過ぎ去る気配がしたような……。

はっと顔を上げると、進行方向の空に……いた。

 

「く、く、蔵馬ー!!!」
「ちょ、ちょっとそんなのありー!?」
「ずりー!! こらー! 戻ってきやがれー!!」

ぎゃーぎゃー叫びながら、草をかき分けかき分け必死に進んでいく幽助たち。
途中現れる雑魚モンスターは、もはや躓きかけた石を蹴飛ばす勢いで倒していた。
それくらい腹を立てていた。
そう自分自身に。

 

視線の先。
地上10mくらいの何もない広々とした空中を、彼らは飛んでいた。

ただのスケボーかと思われていたそれ……名前は誰も知らないが、スカイボードと呼ばれる、そのまんまだがようするに空を飛べるスケボーだったのだ。
まさかそんなたいそうなものだとは思わず、あっさりと蹴って下りてしまった自分自身に歯がみする。

蔵馬はちらっとこちらを見たが、すぐに前を向き直り、スピードを上げた。
どうやら戻ってくるつもりはないらしい。

 

 

……スケボーなのに、車輪がなく、ついでに方角と速度を調整するコントローラーがついていた時点で、蔵馬にはただのスケボーでないと見抜いていた。
しばらく悩んだのは、本当にここで使えるのかどうかが分からなかったから。
アイテムの中には、後々になってようやく力を発揮するものも少なくない。
しかし、今回は別でここで使えるものだったらしい。

大きさからして一人乗りだろうとは思ったが、背中にしがみついてもらえば、もう一人くらい乗れる。
スケボーを知らずに残っていた飛影に声をかけたら、案の定二人乗りは可能だった。

 

 

「……何か叫んでるね、幽助たち」
「フン。大方、今更乗せろとでも言っているんだろう。さっさと行け」
「はいはい」

「あ〜、やっと追いついた!」
「ぼたん。見つけたんだ」
「うん! 蔵馬、ありがとね! さっき目配せしてくれたでしょ? あっちにもう一個あるって」
「あれで最後みたいだけどね」
「幽助たちに先越されたらって思ったけど、全然気付いてなかったみたいだね」

ニコニコ笑うぼたんは、蔵馬とほぼ目線の高さを合わせている。
つまり、彼女も飛んでいる……足元には同じようなスケボーをはいていた。
蔵馬のものより、若干小さく、おそらく二人乗りはまず無理だろうと思われるが、彼女一人なら楽なもの。

むろん、その光景を見て、幽助たちが更に怒り沸騰させたことは言うまでもない……。

 

クスクスと笑いながら、更にスピードを上げる蔵馬。
これにも、もちろん意図がないわけではない。
予想通り、さっきまでのろのろ進んでいた幽助と桑原が全力疾走している。

魔王の城までの時間短縮。
こうも簡単にいくとは思わなかったが…。

 

 

結局のところ、幽助も桑原も、蔵馬には一生勝てないようである……。