Battle Diary

 

 

 

 

……そして数時間後。

自分たちの姿に、大いに笑い、笑いまくった後、ようやく作戦会議となった。
まあ、作戦というか、これからどうするか、ということであるが…。

 

 

ここで彼らが悩みに悩み、笑いに笑った恰好について、説明したい。
最も某漫画を持っている方に関しては、表記せずとも分かるだろうから、すっとばしてくれても構わないが。

基本的には皆同じようなスタイルである。
全身を覆うのは、タイツのように身体にフィットする衣装。
少しばかり線がひいてあるが、飾り気らしいものはあまりなく、逆に身体のラインがはっきりと浮き出ている方が目立つ要因だろう。

まあ身長差はともかく、ぼたん除く四人は鍛えられた体つきのため、見苦しくはなかったが……足の長さの違いだけは、隠しようもなく、また違いもはっきり出てしまい、結果一番長身の桑原ではなく、蔵馬の足が一番長かったことが明らかになっていた。
更に悪いことに、身長差30p近くあるはずの、桑原と飛影の足の長さが大差ないという事実まで、明確になったからには、桑原が不機嫌になるのも否めない。
ちなみにぼたんは今までも、ぴったりとした衣装を着たことが何度かあったため、それほど気にしていないらしい。

 

手袋と皮ブーツ、ベルトはおそろい。
ベルトの位置に差が現れていることは、あえて触れないでおこう。

ヘルメットは5つとも全くバラバラ。
幽助は尖る波のようで、桑原は円形の耳飾りに角が生えたよう。
蔵馬は棘が何本も生えている、一種毒々しくも見える雰囲気が漂い、飛影は燃える炎が何重にもなっているように見え、ぼたんは柔らかいがしっかりとした質感のヒレのようだった。

そして、全てに共通するのが、その色。
それぞれ腕輪に叫んだ色。
幽助は青、桑原は黄、蔵馬は黒、ぼたんは白、飛影は赤が、服やヘルメットを彩るカラーとなっていた。

 

 

これこそがカラーレンジャー……といっても、幽助と桑原はそんなことは知らない。
彼らが寝ている間に流れたテロップを見た者たちのみ、知ることだった。

 

 

 

「それはそうと。問題はこれだよね」

ぴらっとぼたんが拾い上げたのは、幽助と桑原が変身した直後、突然どこからか降ってきた紙である。
何処から…というのも、誤りがある。
開いたままになっていた窓から、ひらひらと舞い込んできたのだ。
というのも、二人が変身した直後に、いきなり号外が起こったわけで……やはり彼らが変身することによって、ゲームが動き出す仕組みになっていたらしい。

 

「『神殿より聖者の書が魔王によって盗まれた。取り返した者には、賞金100億ドルと姫君の婚約…』。なるほどね。これがイベントか」
「どういうこった?」
「つまり、この聖者の書っていうのを取り返すのが、このゲームの目的らしい。街を散策中に地図を手に入れたけど、どうやらこの世界はかなり狭いね。多分、まだ作りかけ……試作品以前なんだろう。このイベントだけで、多分帰れるよ」

「……よく分からねえが、とりあえず聖者の書っての、取り返せばいいのか?」
「でもよ。賞金はともかく、姫君が何とかっていうのは」
「ありがちパターンだよ。ま、婚礼が終了する前にエンディングするのが、基本だから、無視して大丈夫だろう」

人権がどういういうのは、一切ないらしい。
まあ、何処までが作られたものかも分からず、強引に巻き込まれたのだから、無理もないが。

 

 

「ひとまずは、当面の問題を解決しないとね」
「問題?」
「君たちのレベル。ずっと寝ていたから、レベル1桁のままだろう」
「あたいたち、結構これでも上げたんだよ? 飛影なんて、まだやってるし」
「そういや、全然いなかったな、あいつ…」

というか、今の今まで何故気がつかなかったのだろうか……。

 

「何でわざわざ一人で行ってんだ? あいつらしいっちゃ、そうだけどよ」
「彼の場合、レベルアップというより、技の方がね……」
「技??」

きょとんっとする幽助たち。
無理もない、黒龍波を極めた彼に、今更技の特訓も何もないだろうに……そこまで考えた時、ふと思った。

確か彼の風貌に自分たちが大笑いしていた時、何故か飛影は黒龍波を使わなかった。
常識で考えれば、住宅街でそんなものを使う方が危なすぎるが、常識など飛影に通用するはずがない。
ということは、使わなかったのではなく……、

 

「まさか……使えねえのか? 霊力…」
「ああ」
「マジ!?」
「やってみたらいいよ。俺も無理だったけど」

無理と言われたところで、やらないわけにはいかない。
ばっと立ち上がると、二人して必殺技を叫んだ。

 

 

「れいがーん!!」

「れいけーん!!」

 

……し〜ん……

 

 

「……どうもこの服装だと、ゲームの技しか使えないらしくてね」
「天沼の時みてえだな…」
「似たようなものだろうね。とりあえず、はいこれ」

ぽんっと蔵馬が渡したのは、それぞれ青い本と黄色い本。
表紙には『全レベル対応、呪文全集』とデカデカ書かれてあった。

 

「……何だこれ?」
「だから、ここで使える技の本。あそこの本屋で売っていたから、買ってきた」
「金は?」
「モンスターを退治したら、自動的にもらえるみたいでね。それはそうと。このゲーム、レベルが上がる事に技を覚えるけど、どうも技名…呪文が言えないと使えないらしくてね。レベルを上げると同時に、呪文も覚えてもらえるかな」
「覚えるって……そんな難しいのか?」

言いながら、パラパラとページをめくっていく幽助たち。
が、しかしその顔色は明らかに奇妙なものに変わっていった。
というか、明らかに怒っている。

 

 

「……これ、呪文か?」
「つーか、技か?」

「……らしいね」

「んなのが、何の役に立つってんだー!!!」

バシッと本を床に叩き付ける彼らの気持ちも分からないでもない。
実際、飛影は物の見事にやってくれた。
自分もやるのは、あまりに大人げないだろうと、蔵馬もぼたんも辞めたのだが。

 

「バトルウォーターが何の役に立つってんだ!! ただの水じゃねーかー!!」
「バトルライトが何だってんだ!! まっ昼間から!!」
「バトルポカリって、ただのミネラルウォーターじゃねえか!!」
「バトルフラッシュが何だ! 眩しいだけじゃねえかー!!」
「バトルシャワーが…」

と、散々叫びまくる二人だが、笑い転げていた時間もあってか、それなりにレベルも上がっていたので、叫ぶたびに水が降ってきたり、眩しく光ったりと、周囲にいる者には結構迷惑なものであった。

 

 

 

「……落ち着いた?」
「おう…」
「ああ…」

散々叫びまくった結果、もはや声も枯れかけで、床に転がる二人を見下ろす蔵馬。
ため息をつきつつ、二人が投げだした本を拾い上げ、

「問題は後半……レベル100を越えてからなんだ。飛影はレベル110の呪文が言えないから、一人で練習に行ってるんだよ」
「後半?」
「読んでみる?」

すっと差し出された本を、怪訝そうに、しかし受け取る幽助たち。
前半のアホらしいページをすっ飛ばして、大体真ん中から後ろの方かと思われる部分を開く。
一体どんなに難しい、まか不思議な呪文かと思いきや……、

 

 

「言えるかー!! コエンマの野郎、ふざけてんのかー!!」
「言えないことはないだろう?」
「2.5秒以内だぞ!? 無理に決まってんだろ!!」

蔵馬に向かって、ギャーギャーと怒鳴りつける幽助。
が、次の瞬間はっとして、彼を見つめた。

「……おめーの、どんななんだ?」
「俺は百人一首の逆さ読み」
「……よく分からん」
「つまり、57577を逆に言うこと」

……だと管理人は解釈しているのだが、真実はどうなのでしょう?

 

 

一方、そのすぐ隣では…

「できるかー!! 大体、皿屋敷中の校歌も知らねえんだぞー!!」
「歌詞は載ってるじゃんか」
「熱唱だぞ、熱唱!!」
「熱唱の方がまだマシじゃんか! あたいなんて、オジャパメンをフルコーラスだよ!!」
「……何だ、オジャパメンって?」
「わかんない。歌詞と楽譜載ってるから、必死に覚えてるとこ」

ちなみに管理人にも、何のことかさっぱり分からなかったため、歌詞と楽譜を見せられて歌えるものなのかどうかは、定かでない…。

 

 

「んで、飛影は何だったんだ?」
「幽助と同じ。早口言葉なんだけどね……」
「蔵馬があっさり言っちゃうから、飛影余計に怒っちゃって」
「何てんだ?」

「バスガス爆発。レベルが10上がるごとに、一回ずつ増えていく」
「ほ〜」
「幽助のその早口言葉は、レベル200だろう? 飛影のレベル200は、バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発なんだ」

「バスガスガクハツバスガスバスバツガスバスガツバス…って、言えるかー!!!」

既に最初の一回すら言えていない幽助……しかし、飛影はレベル110の特訓中だというからには、多分一回は言えるのだろう。
最もその一回に一体何時間費やしたかは謎だが……。
それを横から蔵馬があっさり10回言ってしまっては、怒るのも無理はないかも知れない。