Battle Diary> 2

 

 

 

「……うっ」
「あぁ?」

ほぼ同時に目を覚ました幽助&桑原。
一体どれくらい眠っていたのだろうか?
身体のあちこちが痛い……よほど寝過ぎて、身体がかちかちに固まっているのだろうか?

いや、多分寝過ぎのせいだけではないだろう。
軽く腕を動かしただけで、幽助にとっては霊光波動拳継承の試練並の、桑原にとっては静流の買い置きしていた煙草1カートンを間違えて捨てたのがバレた後のような、かなーりの激痛が走った。

 

「って〜」
「いで〜」

「ああ。幽助、桑原くん。起きた?」
「く、蔵馬???」(×2)

 

……しばしの沈黙。そして……

 

 

「あーはははは!!!」
「ぎゃははははは!!!」

 

「……」

あまりに予想通りの反応に、逆に蔵馬は冷静だった。
というか、呆れていた。
それでも尚、二人の笑いは止まらない。

身体の痛みも忘れて、笑いに笑った。
そう、飛影に対してそのようにして、あの世へ逝きかけるという事態を招いた直後でありながら……。

 

 

「……」

幸いにも、蔵馬は飛影よりも大人で……というのもあるだろうが、この姿となった直後に笑われたわけではないせいか、特に手を出すことなく、平然としたものだった。
それが逆に興ざめとなったのだろうか?
飛影よりは、数分早く笑いの嵐は去っていった。
まあ、あくまでも「数分」だが…。

 

「……何だ? 冷めてんな」

まずは「怒ってねえか?」くらいは聞くべきだろうに。
しかし、蔵馬は深くため息をついただけで、

「別に。笑われると思っていたし。こう何度も変身すると、笑う気も失せるんですよ」
「本当。思いっきり笑けたのって、初めのうちだけだよ。慣れちゃうと、逆に笑えないもんだねー」
「ぼたん、いたのか」
「さっきからいるよ」

そう言ったぼたんも、蔵馬と似たような恰好をしていたが、流石にあれだけ笑った後では、笑う気になれない。
まして、ぼたんは仮装が好きで、しょっちゅう変な服を着ているのだ。
違和感があまりなくとも無理はない。

 

 

「それはそうと。二人とも、さっさと変身してください。ブルーチャージとイエローチャージでできるから」
「は? 何で!?」(×2)

蔵馬のあまりにあっさりとした言葉に、ぎょっとする二人。
言葉の意味が分からなければ、ここまで焦りもしないが……。

飛影が『レッドチャージ』と言った後、ああいう姿になったのだから……結果は見えている。

 

 

「……」
「……」

当たり前だが、黙り込む二人。
これだけ散々笑っておいて、そういう恰好に自分もなるのだと思うと、普通は尻込みするだろう。
しかし、目前にいる面々は冷たく、そして正しかった。

「何してるんだい? 早くしなって」
「帰るにはそれしかないですよ。ほら、早く」
「帰る?」
「何処に?」

「各々、家に……ああ、もしかして君たち、ここがどこだか分かってないんですか?」

 

「へ??」(×2)

 

……見慣れているとはいえ、あまりにマヌケ面とかした幽助と桑原に、蔵馬は呆気にとられるべきかからかうべきか考え、しかしどちらも選ばず苦笑した。
まあ、さっきまで寝ていたのだから、無理はない。
順を追って説明するしかないだろう。

 

 

「どうやらこれは、一種のRPGみたいでね」
「あーるぴーじー?」
「って、何だ?」
「幽助も桑原くんもゲームしないのか?」
「俺、格ゲー中心だからよ」
「俺も。格ゲーだけじゃねえのって、ゲームバトラーくらいしかやったことねえし」

とすれば、RPGを知らなくても無理はないだろう。
ゲームバトラーは格闘やパズル、クイズ、シューティングなど、とにかく多彩なゲームの詰め合わせではあったが、しかしRPGだけは盛り込まれていない。
主体がRPGで、本編にあまり関わりのないオマケで、ゲームバトラーのようになっているゲームもあるが、そういったものを幽助たちが好んで買うとは思えなかった。

 

「簡潔に言うと、プレイヤーがゲームの世界の中で、ある目的を持って、強くなっていく……まあ、色んな経験をしていくゲームかな。プレイヤーは勇者だったり、王子だったり、様々。目的も魔王退治とか姫奪還とかそんなところかな」
「へ〜、変わったゲームもあるもんだな」
「……結構有名どころだけどね。それはそうと、今の状況だけど、どうやら俺たちはその『プレイヤー』になっているらしいんだ。そしてゲームを行うための場所…異界へ連れてこられたらしい」

「はあ??」

まだよく分かっていないらしい幽助&桑原。
その様子を見て、蔵馬は立ち上がると、シャッと勢いよくカーテンを開けた。

その光景にぎょっとする二人。

 

「な、何だここ??」
「だから、ゲームが行われるための場所……俺たち全員が腕輪をつけると、ここへ転送される仕組みだったらしい。幽助たちが寝てる間に、テロップが流れたけど、惑星カルバリっていうらしいですよ」

一体何処にテロップが流れる場所があったのか…というツッコミすら、起きないらしい幽助たち。
無理もない。
目の前にあるのは、見たこともないような風景。

煉瓦の壁、石畳の町並み。
植えられている草木も見たこともないものばかり。
とことこ歩いているのは、野良猫かと思ったが、よく見てみれば、魔界の妖怪よりも、へんてこりんな生き物だった。

コンクリート剥き出しのマンションやらが増え、植木は銀杏か桜くらい、野良猫も最近減ってきている東京とは大違い。
というか、こんな街、他県にもあるだろうか?

いいや、ない。

つまり……日本ではない、というか地球ではない。
……認めざるを得ないだろう。

 

 

 

「……で?」
「『で?』とは?」
「転送されたんだよな?」
「そうですね」
「どうやって帰るんだ?」
「……だから、変身してって言ったじゃないか」

「何の関係があるんだよ!!」

ようやく混乱から解放されたらしく、いつもの調子で怒鳴る幽助。
桑原も一瞬遅れて我に返り、

「変身したからって、何かなるってのかよ!!」

「なるって、多分」
「『多分』!?」(×2)
「仕方がないだろー。あんたたちが寝てる間に、街も散策しつくしたし、適当に街の外に出てみたけど、何の変化もないんだから」

蔵馬の後ろから覗き込むようにして言うぼたん。
蔵馬も同意見だったらしく、肩をすくめてみせた。

 

「どうやら、全員変身しないと、イベントが起きないようでね」
「いべんと?」
「つまり、クリアのための…ああ、この場合、帰るための糸口みたいなものかな。俺たち三人では、何も起こらなかった以上、君たちがやるしかないだろう?」

 

「……」
「……」

 

はっきり言って、かなり嫌な行為である。
この年でコスプレするなど…それも趣味がいいのか悪いのかもよく分からないような恰好をするなど、かなり嫌。

しかし、帰りたいか帰りたくないかと聞かれれば、もちろん帰りたい。
こんなワケの分からないところで一生を終えるのは、冗談抜きで、かなり嫌なこと……何より、二人の大事な人(一名は片想いにしろ)に、もう会えないというのは、かなりキツい。

 

 

 

「……ブルーチャージ」
「……イエローチャージ」

ほぼ同時に言った途端、二人は淡い光に包まれた……。