<GOLDEN LEGEND> 1

 

 

「どうしたものか……」

時は10月半ば、ところは霊界の審判の門。
その一室で、霊界の次期長であり、エンマ大王の息子であるコエンマは、とある箱を前に何やら考え込んでいた。
これが霊界や人間界の危機といったような非常事態であれば、話は別だが、そうでない以上、彼が考え込むことなど、それほど大したことではない。
饅頭と肉まんのどちらをお三時に食べるかとか、夕飯をカニすきにするか松茸御飯にするかとか、その程度である。
そして100%、両方を取るのが、彼の日常……。

なので、部下の誰一人として、彼の悩みについて聞こうとしなかった。
というのも、ここ最近台風やら地震やらで、予定よりも死亡に至る人物が多すぎるのだ。
またもやエンマ大王が出張へ行ってしまい、霊界は死ぬほど忙しく、本当ならばコエンマにも小さなことで悩まずに手伝ってほしいところを、多分言っても無駄だろうと、諦めているのである…。

 

数時間もの間、うなり続けている彼の前に置かれた箱。
その中には卵が三つ、入っていた。
普通よりも少しだけ小さな卵…しかし、食べるつもりではないらしい。
そうであれば、目玉焼きか卵焼きかとか、声に出して悩んでいるだろう。

「処分するのももったいない……いや、だが下手に誰かに渡しても……」

彼がさっきから発していたのは、こんな感じの内容である。
食する予定とは程遠い……しかし、処分という割りには、腐っている様子もないが。

つんつんっと時折突っついたり、転がしてみたり。
だが、卵は箱の中で転がるだけで、割れることもなく、ヒビも入らなかった。
ただの卵にしては、かなり丈夫……いや、うっすらと金色に輝いてる時点で、それはただの卵ではないだろうが。

更に数時間悩み続けた後、彼はいいことを思いついたらしく、ぽんっと膝を打った。

「そうだ! いいこと思いついた!!」

 

 

 

コエンマがいいことを思いついた、数時間後。
幻海師範と雪菜が住まう寺に、四人の男たちが訪れていた。

一人は、毎週のように来ており、本人はくどいているつもりだが、全く効果なしの桑原和真。
一人は、魔界へパトロールのバイトへ行った帰り、薬草を届けに寺へ立ち寄った妖狐・蔵馬。
一人は、その妖狐に強引に引っ張られ、強制的に連れてこられた邪眼師・飛影。

そして最後は、三人が丁度そろっていることに驚喜しているらしいコエンマである。
本当にこの三人が寺にそろったのは、たまたま……。
もちろん飛影は蔵馬によって連れてこられたのだから、たまたまとは言えないかも知れないが、その二人と桑原が偶然にも同じ日の同じ時間帯に来たのは、偶然としか言いようがない。
それが彼らにとっての悲劇でもあったのだが……。

 

「元気そうだな、お前ら」

三人を呼び出す手間がはぶけたと、嬉しそうに雪菜が用意してくれた座布団へ腰を下ろすコエンマ。
もちろん、そんなことは一言も口にはしていない。
だが、そのにやけた顔で、蔵馬は何となく奇妙な感覚を覚えていたが……。
特に何も起こっていないので、とりあえず黙っていることにした。

「コエンマも相変わらずだな」
「そんなに霊界離れていていいんですか? 霊界の次期長なのに」
「ああ、かまわんかまわん。どうせ今は暇だ」

いや、全然暇とは程遠い状況なのだが……。
もしここにぼたんがいれば、上司であろうと、オールでひっぱたいていたことであろう。
それでもその後に彼女が首になることもないだろうし、謹慎や減給になることもないだろう。
いちおう秘書とはいえ、コエンマに対してそういうことをして平気な霊界案内人も珍しいかもしれない……。

 

 

「そうだ。お前等、これやる」

雪菜がお茶を煎れに席を外し、幻海が何となくいなくなったのを見計らって、コエンマは例の箱を出した。
中にはもちろんあの卵が……。

いきなり差し出された箱に、戸惑いを隠せない桑原。
コエンマが何かくれるなど、滅多にないこと。
どれだけ死にかけようが、苦労をしようが、報酬など一度もらったことはないのだから……。

「卵…だよな?」
「これがニワトリに見えるか、バカめ」
「あんだとー!」
「まあまあ。それで、何に使うものなんですか。これは」
「食べんのか?」

しげしげと一つずつ手にとって、眺めてみる蔵馬たち。
ふってみても、音はしない。
割ってみようとしたが、かなり硬いらしく、畳に落としてみても割れなかった(むろんそれをやったのは、飛影と桑原だけである)。
有精卵か無精卵かもよく分からない。
電球に透かしてみても、何も見えなかった。

その様子を見ながら、コエンマはこほんと咳払いをして、

「違う。持っていてくれればいい。ただし幽助には見せるなよ。三つしかないんだ」
「持っていれば、どうなるってんだよ?」
「安心しろ。お前らに危害を加えるものじゃない。お前らにとって、都合の悪いことはないはずだ」
「どういうことだ?」
「それは……霊界の使い羽の卵。ようするに、まあ使い魔みたいなもんだな」
「フン、確かに損はないな」

くるくる卵を指の先で回しながら言う飛影。
割合高等の妖怪ならば、大概使い魔を持っているが、飛影は以前幽助と戦い、霊界へ連行された際に、全ての使い魔を失った。
それ以降、結構不便をしている。
情報収集を全て自分の邪眼だけでするのは、面倒なところもあるのだし…。

 

「なあ、使い魔なんて持ってて、何か得すんのか?」
「情報収集には役立つだろうね」
「そんだけかよ」
「魔界の使い魔は奇っ怪なのが多いだろう。霊界のは割合見た目はいいのが多いからな。特に雪菜の好きそうな…」
「雪菜さんの!!?」

ぱっと桑原の顔が紅潮し、同時に飛影が卵を取り落とした。
浮かれている桑原は、そのことには気づけなかったらしいが……。

「孵してみせるぜ!! 雪菜さんの気に入るような使い魔をー!!」
「使い羽だと言っているだろう」
「似たようなもんだろ!!」

有頂天の桑原、少し引き気味ながらも孵す気らしい飛影。
まあそれはそうだろう。
使い羽がどんな姿になるのかは分からないが、全てが同じ姿とは考えにくい。
となれば、出来れば桑原よりも雪菜の気に入りそうなモノを孵したいところ……。
自分の意志には関係があるわけがないし、形は選べないだろうが、とにかく孵すだけ孵してみることにした。

 

 

しかし……。
一人だけ、蔵馬だけは妙に嫌な予感を覚えていた。

コエンマが持ってきたもので、今まで得をしたものが、果たしてあっただろうか?
貰う貰わないというわけではなく、指令にしても何にしても、とかく彼が関わって結果的によくなったことなどない気がする。
結果オーライということはあっても、だからといってそれが忘れがたい好感のみだったことなどない。
ろくでもないことならば、多々あったと思うが、いいことは一つもなかったような……。

だが、孵さないのも、何である。
いちおう彼もポケットに入れておくことにした。
捨てたところで、余計に悪くなるような気もしていたので……それは後に正しかったと思うことになるのだが……。

 

 

 

 

そして、数日後。
再び一同は幻海の寺へ集まった。
今度は偶然ではなく、コエンマが三人を呼び出したのである。

ぼたんではなく、コエンマの使い羽で……それについても、蔵馬は妙な感覚であった。
日曜である以上、学校があるからとの誤魔化しは出来ないし、どうせパスしたところで、強引に押しかけてくるだけ…。
また、家族の前で堂々と『蔵馬』と呼ばれても、面倒なので、行くことにした。

「よお。卵、どうなった?」
「随分でかくなったぜ。持ち歩くのも、難しかったけどよ」

そう言いながら、肩に提げていた鞄を開き、中から卵を取りだしてみせる桑原。
確かに卵は大きくなっていた。
片手でも持てるが、両手で持った方がいいであろうくらい…。
むろん彼だけでなく、蔵馬や飛影の卵も大きくなっていた。
飛影のが桑原よりも一回り小さく、蔵馬の卵がその中間といったところだろう。

 

「丁度いいな。そろそろ孵る頃だ」
「本当か!? よっしゃー! 雪菜さんに可愛い使い羽を…」

「よー、久しぶりだなー」

ふいに全員に聞き覚えのある声……いや、聞き覚えどころか、無茶苦茶知っている声が聞こえてきた。
ひらひらと手を振りながら、境内へ足を踏み入れたのは、この間は姿を見せていなかった浦飯幽助。
それに後ろからは、彼女(?)である雪村螢子と、何故か桑原の姉である桑原静流、更にはぼたんまで一緒だった。

いつから一緒に来たのかは謎だが、おそらくは美しく可愛らしい女性達に囲まれ、所謂ハーレム状態になっている幽助は、数多くの男性群の嫉妬の目に刺され捲っていたことだろう。
もちろん本人は全く気にしないだろうが。

 

「浦飯! 何で姉貴と一緒なんだよ!?」
「来る途中に会ったんだよ。久々にバーさんとゲームやるっつったら、全員くるって……おい、桑原! それ霊界獣の卵じゃねえか!?」
「あ! 本当だ! プーちゃんが生まれる前の卵そっくり!!」
「……」
「……」
「……え゛」

凍り付く桑原・飛影・蔵馬。
とりわけ、桑原は手にしていた卵を落っことしそうになるくらい硬直していた。
が、その硬直が逆に卵を僅かながら手にへばりつかせてくれていたのだが……。

 

 

霊界獣。
それくらい、それほど霊界に詳しくない桑原とて知っている。
詳しい生態など知らなくとも、実物が今、この寺でグースカ寝息を立てているのだから。

彼が知らない部分を簡単に説明しておくと、霊界獣とは人の心のエネルギーを喰って生長する生き物であり、その心次第で天使にも悪魔にもなりうるのだ。
もし邪悪な心の持ち主であれば、霊界獣はおぞましい怪物となり、自分自身を身体も魂も喰らってしまうという…。

幽助の場合、彼が邪悪ではなかったため、悪魔にはならなかった。
が、生まれた時……あれは、ある意味悪魔が生まれてくるのと似たようなくらい、イライラしたものである。
当然だろう、プーの可愛さに蔵馬と飛影以外の全員が大笑いに笑いまくったのだ。

 

そして一番笑ったのはおそらく……今、正にその時の幽助になろうとしている桑原であろう。

 

 

「あっちゃー。幽助、言ってどうする」

かりかりと頭をかきながら、ため息をつくコエンマ。
はっとし、大慌てで彼につかみかかる桑原。
その顔には怒りと焦りが同居し、無茶苦茶なものになっていた。

「コ、コ、コエンマ、てめえ!! 何が使い羽だ!! だましやがって!!」
「ぐ、ぐるじい……い、言っておくが、半分は嘘じゃないぞ! プーは結局幽助の役に立っただろうが!」
「そういう問題じゃねー!!」
「く、桑ちゃん落ち着いて!!」
「落ち着けるかー!!」

まあ、確かにプーは後々、霊界特防隊の攻撃から幽助を守ったし、背中に乗せて飛んで貰った身としては、役に立ったことは否定出来ない。
だが、彼にとって自分の霊界獣はそういう問題ではないのだ。
かといって割る気にはなれないのか、コエンマの胸ぐらをつかんでいるのと逆の手では、しっかり持っていたりもする(悪役になれないタイプである…)。

桑原がぎゃんぎゃんと怒鳴りまくりながら、片手でコエンマを絞め殺そうとしていた、その時…、

 

 

ピシッ…

ピシシッ…

 

 

卵にヒビの入る音……。
どこからともなく聞こえてきたその音に、桑原の手が止まった。
おそるおそる見上げてみると……。

自分が手にしていた卵。
今正に、その卵に亀裂が走ろうとしていたのだ!!

「……コエンマ」
「げほげほっ…あー、死ぬかと思った」
「コエンマ!!」
「何だ、五月蠅いな」
「……こいつ、どんな格好で生まれるんだ」
「さあな。最終形態がどうなるかは分からんが。少なくとも、悪魔でなければ、最初のはプーみたいに……」

「じょ、冗談じゃねえぜ!! 生まれんなー!!」

そういって、生まれてくれないほど、桑原の霊界獣は素直ではなかった。
彼の性格を考えれば、まず悪魔が生まれてくるようなことはないだろう。
しかし、とすればおそらくはプーのような、本体に似合わない、100%からかわれるであろう物体が誕生するということになる。

 

必死でおさえているが、卵のヒビはどんどん深く広がっていく。
空に暗雲が立ちこめようが、雷が鳴り響こうが、今の桑原には関係なかった。
流石にその稲妻が卵に落ちた時には、多少なりとも驚いたが……。

しかし、その稲妻がきっかけだった。
寺に落雷した二本の稲光……。
卵へと直撃したそれは、物の見事に卵を孵してしまったのである……。

 

 

 

「ぎゃははははは!!!」
「笑うなー!!」
「無理だ!! ぜってー、笑う!! それは笑う!! ぎゃははっはは!!」
「あはははは!!」
「ぼたん、おめえも笑うな!!」
「む、無理だよ、桑ちゃん!! きゃははは!!」

 

寺中に木霊する笑い声。
むろん、それは幽助やぼたんのものだけではない。
二人が大きすぎて、他の声が聞こえないだけである。
螢子も笑っているし、もちろん静流や雪菜も大笑いしている。
コエンマは地面にひっくり返るほど、笑い転げているし……。

しかし、笑うしかなかった。

桑原の卵から孵った、桑原の霊界獣。
それは決して悪魔ではなかった。
だが……天使とも程遠い。

言葉ではとても言い表せないような存在だった。
何とか例えるとすれば、ペルシャネコとピクシーボブとウェルシュ・コーギー・ペンブロークとキング・チャールズ・スパニエルとタツノオトシゴとマンタとオカメインコとブルドッグとハリネズミとカモノハシとキーウィとヨーロッパバイソンとゴリアテガエルとオオサンショウウオと食事中のクリオネを足したような感じである。

プーのような可愛らしさはないが、何処か愛嬌があり、憎めない雰囲気であることは間違いないが……。
誰も触ろうとしないあたり、やはり触れたくないような格好なのだろうか??
まあ、一番の要因はハリネズミのような部分のせいだろうが(ちくちくしてて、触れないらしい)。
他の部分は粘液のようなもので、ぬるぬるしているのだし…。

 

 

「おい、飛影のは?」

ふいに振り返って見る幽助。
大笑いしていた他の誰も気付いていなかったが(桑原もだが)、寺には二本の稲妻が走ったのである。
もちろん一本は桑原の手に落ちたが……もう一つ筋、それが何処に落ちたかは幽助にはしっかりと見えていた。
そう、飛影が手にしていた卵である!

見られていたのかと、慌てて背後へ隠す飛影。
しかし、その行動が幽助の他全員に飛影の卵も割れたということを認識されてしまった。

「隠すなって!!」
「く、来るな!!」
「てめえ、にげようってのか! 俺だって、恥かいたんだ! てめえもかけ!」
「貴様と一緒にするな!」
「見せろよ、ほら!」
「殺すぞ、貴様等!!」

幽助と桑原につかみかかられ、それでも必死に隠す飛影。
動きが素早い彼でも、服の裾をがっちりとつかまれていては、逃げようもない。
桑原に全員の視線が集中している間に逃げればよかったと思いつつも、今は後悔している場合ではない。
ちなみに何故逃げなかったのかといえば、放心していただけなのだが……。

 

 

「よし、とったー!! ……っつ、いってー!!!」

ようやく飛影の手から、何かもぎ取った幽助。
しかし、同時に叫声をあげたのには、桑原もぎょっとし、一瞬たじろいだ。
ぼたんや螢子たちも、少し離れたところで、ぽかんっとしている。
だが、幽助は彼らが唖然としているのにも気がつかず、傷む右手をブンブン振り回しまくっていた。

「いてー! いてーって!! おい、こらてめえ、やめろ!! 噛みつくな!!」
「か、噛みつく??」
「幽助何言って……あっ!!」

ぼたんが何かを発見し、勢いよく指さした。
その方向に全員の視線が向かう。
彼女が見、そして皆が見たもの……それは幽助の右手中指に噛みついた、黒い物体だった。

こちらも何に例えればいいかよく分からないが……とりあえず、翼はコウモリのようなものらしい。
頭にあたる部分にはツンツンとした棘が無数に生えている。
ハリネズミというよりは、ヤマアラシだろうか?
しかし、目つきの悪さを見れば、これが飛影の霊界獣であることは一目瞭然だった。

 

「ぎゃはははは!!!」
「あはははは!!」
「かーわいい!!!」
「本当、かわいい〜!」
「わっはははは!!!」
「いてーってんだ!!」

「……殺すぞ、貴様等…」

飛影は不満らしいが、しかし桑原のように笑われるだけでなく、可愛いと言われた分、マシではないだろうか?
そのうち霊界獣は幽助の指から離れ、パタパタと宙を飛び回りだした。
当然、近くには桑原の霊界獣もいるが、どうもそちらは飛べないらしい。
オカメインコと表記したが、それは翼ではないので(何処かと言えば、例えにくい場所だが)。

 

しかし、上空と地面。
それほど離れていないこの場所では、それほど遠くはなかった。
お互いを発見しあうと……迷わず、飛影の霊界獣は急降下!!
思いっきり、桑原の霊界獣にケリを入れ(つまり、足にあたる部分もある)、更には先程と同じように噛みつきだした。

だが、桑原の霊界獣も負けてばかりではない。
ぬるぬるとした手に相当する部分で、コウモリのような翼をつかみあげ、必死に引きはがそうとする。
その感覚が気に入らなかったのか、速攻で離れる飛影の霊界獣。
それでも尚、隙をついてはつかみかかり、噛みつき……本体たちとは全く違う形だが、とにかく本体同様、ケンカしていることに違いはないだろう。

 

「キーキー!」
「ドギャース! ドギャース!!」
「ちょっとちょっと、あんたたち、やめなよ! キーちゃんにドギャース。離れなさい!」
「おい、勝手に名前つけんな!!」

飛影の霊界獣を抱き上げて、桑原の霊界獣から引っ張りはがすぼたん。
やはり桑原の方には触りたくないのか……まあ、怪我をしないためにも賢明かもしれない。

「いいじゃない。プーちゃんはプーって鳴くから、プーちゃんなんだもん。飛影のは、キーって鳴くからキーちゃん。あんたのはドギャースって鳴くから、ドギャースでいいじゃん」
「何で俺のは呼び捨てなんだ!!」
「和真さん。ドギャースさんじゃ、ダメですか?」
「あ、はい! ドギャースでいいですっ!!」

雪菜に言われては、どうしようもない桑原……。
しかし、別に鳴き声でつけなければいけない理由など、特にないと思うが。
だが、もう変わりそうにない。
桑原の霊界獣はドギャース、飛影の霊界獣はキーで決定してしまったようである。

 

 

 

 

「なあ、蔵馬は?」

ひとしきり全員で大笑いした後、ふいに蔵馬を見る幽助。
しかし、彼の手にある卵はまだ孵っていなかった。
落雷しなかった以上、まだだろうとは思っていたが……。

「孵ってませんよ」
「みてえだな。おめえは遅かったのか?」
「……いえ。嫌な予感がしていたんでね。これはレプリカ。本物はここには持ってきていない」
「何だよ、つまんねー」
「それより、コエンマは?」

はっと気づき、辺りを見回す桑原。
ドギャースが孵り、大笑いされた以上、落とし前はつけたいところ……だが、コエンマはいつの間にかその場から姿を消していた。

「あ、逃げやがったなー!!」