<Which Do You Like?>

 

「じゃあ、幽助。シャンデリアって10回言って」
「おーし、シャンデリアだな!シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア…」
「一回足りない」
「え?マジ?シャンデリア!」
「毒リンゴ食べたのは?」
「シンデレラ……っああ!!違った、白雪姫!!」
「はい、幽助の負けー」
「ちっきしょー!!」

……かなりワケの分からないスタートを切った、今回のストーリーだが……。
とりあえず、現在の状況を説明しておこう。

 

 

季節は梅雨。
連日連夜降り続ける雨に、幽助はかな〜〜〜〜りうんざりしていた。
外には出られない…いや、出られないこともないが、出たところでずぶ濡れになるだけである。
傘を差せばいいだろうと思われるかもしれないが、傘というものはほぼ真上から降ってくる雨にしか有効でない。
横から降り込んでくる雨はどうやっても防ぎようがないのだ。
そんなこんなでほとんど家から出ずに過ごしていたのだが……。

この日は珍しく、晴れ渡った青空が顔を覗かせたのだ。
雲一つない快晴。
千載一遇のチャンスを逃してなるものかと、起きて速攻出かけたのだが……せめて、新聞かテレビの天気予報くらい見ておくべきだったろう。

 

幽助が着替え、家を飛び出してから、僅か2分と47秒後(かなり中途半端だが…)。
一瞬にして空が曇り、そして大粒の雨が……。
一日晴れているだろうと勝手に勘違いしていた幽助が、傘など持っているはずがない。
あっという間に、全身びしょびしょ……。

「…っ天気予報の大嘘がー!!」

見てもいなかった者の台詞だろうか?
ちなみにこの日の降水確率は90%。
例え、朝晴れていても、すぐに降ってくるのは火を見るより明らかであるが…。
今更文句を言っても仕方がない。

 

結局、走って家に帰ることにしたのだが……気がつけば、自分の家よりも蔵馬の家の方が近いことが判明。
何も考えずに走るうちに、いつの間にか隣町まで来てしまっていたのだ。

「雨上がるまで、厄介になるか」

方向転換し、蔵馬の家へと一目散に走る幽助。
ほどなく蔵馬の家に到着し、インターホンを連打。
家には蔵馬以外にも両親や弟がいたが、幸い蔵馬本人が出てくれた。

「どうしたんだ、幽助?びしょ濡れじゃないか」
「わりー。しばらく雨宿りさせてくれ」

かくかくしかじかの事情を説明し(といっても、単に天気予報を見ずに、家を飛び出して、傘がないだけなのだが)、とりあえず雨が上がるまで家に上がらせて貰った幽助。
とりあえずシャワーを借りた後、蔵馬の部屋へ。
あまり身長の変わらない2人である、換えの服は蔵馬のもので充分だった。

 

が、一行に雨は止まず……次第にイライラしてきた幽助。
人様の家に上がらせて貰っておいて、イライラするのも失礼のような気もするが……そんな理屈が幽助に通用するはずもなく、また蔵馬も気にしていなかった。

「なあ、暇つぶしになることねえか?」
「暇つぶしねー。皆いるから派手なことは出来ないし、テレビゲームは秀一が友達に貸してるし……勉強でもする?」
「それはヤダ」
「贅沢だな」
「何処がだ!」
「……じゃあさ、言語のゲームでもする?」
「言語のゲーム?」

 

 

……ということで、一番最初に戻るのだ。
いや、実際はもっとたくさん言語のゲームをやった後だが。
しかし頭脳明晰で、海藤との言葉の戦いに勝った蔵馬が、元々あまり物事を深く考えない幽助に負けるはずがない。
つまりさっきから幽助は負けっ放しなのだが……。
だが、イヤだとは言わず、次々に別のゲームを要求し続けているのは、流石負けず嫌いというか……。

「他にねえのか?」
「他?そうだな、じゃあ……ピザって10回言って」
「ピザ?さっきよりも大分短いな。ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ!」

幽助が最後の『ピザ』を言った直後、蔵馬はすっと身体のとある関節を指さし、

「ここは?」
「ヒザ……って、ああー!!!」
「またひっかかった♪答えはヒジ、ね」

右手で左手の肘を突きながら笑う蔵馬。
これだけ引っかかってくれると、やる方も楽しい。
最も幽助としては、勝ちたい一心で真剣にやっているので、かなり口惜しいのだが。

 

「次!次、出せ!」
「じゃあ、今度は少し長くなるけどいい?」
「ああ、いいぜ!」
「それじゃ何でって言ってはいけないよ?」
「ああ!」

勢い勇んで、身を乗り出してくる幽助に、蔵馬はニコッと笑って言った。

「赤と白、どっちが好き?」
「は?」

幽助が「は?」と言ったのも、無理はない。
蔵馬がさっきまで出題してきたゲームは全て、「○○を10回言って」というものだったのだ。
それがいきなり、色の好みを聞くとは……今までとはかなり違うゲームらしい。
しかしあまり色に関して興味はない幽助。
少し考えてから、

「赤、かな」

別に深い理由はない。
割と明るい色の方が幽助は好きなのだ。
血色の赤は遠慮したいが……。

 

「じゃあ赤とオレンジだったら?」
「やっぱり赤」

オレンジは…嫌いではないが、赤よりは好きでない。
明るいといえば、赤よりもオレンジの方が明るいだろう。
だが、オレンジは明るさの分、濃さに欠ける。

 

「赤と黄色だったら?」
「…やっぱ、赤かな」

これはオレンジと同じ理由である。
黄色はオレンジよりも更に濃さに欠ける。
霊丸の色で見慣れているから、嫌いではないが。

 

「赤と黒だったら?」
「黒」

これは別に好きだったわけではない。
蔵馬が黒と言った途端、ぱっと飛影の顔が出てきたのだ。
何となくおもしろがって言ってみた。

 

「黒と緑だったら?」
「緑」

黒よりは緑の方が好きかもしれない。
飛影との関連で黒を選んでもよかったが、緑は元々結構好きなのだ。
構想違反して着ていた制服の色が、いい証拠だろう。

 

「緑と黄色だったら?」
「緑」

やはり黄色よりは緑の方が好きである。
ほぼ、即答だった。

 

「黄色と赤だったら?」
「は?緑はもういいのか?」
「ああ、それで答えは?」
「赤…って、さっきも言っただろ!」

まるで先が見えないゲームに、段々幽助は苛立ってきていた。
色の好みを知りたいだけとは思えないが、かといって他に目的があるとも思えない。
怪訝な顔で蔵馬を睨んだが、しかし蔵馬は笑顔を崩さずに、

 

「そうだったね。じゃあ、赤と灰色だったら?」
「灰色か。やっぱ、赤だな」

灰色はあまり好きではない。
暗いし、かといって黒のようにはっきりしていないし……。
蔵馬の銀髪までいけば、かえって綺麗なので、好きだが。

 

「赤と青だったら?」
「赤と青か……あ、青だな」

少し言葉に詰まってから言う幽助。
そらした顔が、少しばかり赤みを帯びていた。
それは本当に一瞬のことだったが、蔵馬は見逃さなかった。

「螢子ちゃんの好きな色だから?」
「べ、別にいいだろ!理由なんて!」

真っ赤になって怒鳴る幽助。
しかし、否定はしていない。
おそらく図星なのだろう。
トマトのようになった幽助を見て、蔵馬は今まで以上にニッコリと微笑んだ。

そして……、