Which Do You Like?> 2

 

 

「じゃあ負け」

「……へ??」

いきなり突きつけられた、敗北の言葉。
一瞬何を言われたのか、分からなかった。
数秒、体中の全機能が停止したような錯覚を覚えるほど……。

が、次の瞬間!
猛烈な勢いで蔵馬に詰め寄ると、がばっと彼の胸ぐらをつかみあげ、耳元で怒鳴りまくった。

 

「な、何でだよ!!理由がわりーってのか!?べ、別に螢子のことがなくても、青は元々好きなんだぞ!!空とか海とか、結構好きだし!螢子のことは関係ねえー!」

ものすごい形相で叫ぶが、蔵馬は全く動じていない。
まあ、元々ガンをとばすつもりだったわけではないし、蔵馬にそんなものが効かないのは、百も承知だが。
しかし、幽助の慌てようを見れば、誰だって「螢子のことがあるから、好き」としか思えないだろうに……。

先ほどよりも更に嬉しそうな顔で黙ったままの蔵馬に、幽助は間髪入れずに怒鳴った。
服をつかむ腕に力を入れ、

 

「だっ、第一、どういう理由で好きかなんて、おめえ聞かなかったじゃねえか!!他の時も、言ってねえし!何でいきなり螢子の話題が出てきた途端に、『負け』なんだよ!第一、おめえゲームのルール一個も言わなかったじゃねえか!最初に『何でって言うな』って言っただけで……あ゛っ」

 

 

……

…………

 

 

「言ったね♪」

硬直している幽助の手を、ゆっくりと外しながら言う蔵馬。

 

そう……幽助は、確かに言った。

『何で』と……。

蔵馬が負けを通達した直後、確かに言った。
彼の胸ぐらをつかみあげながら、確かに言った……。

 

 

あまりのことに、呆然とする幽助。
しかし、すぐに正気に戻り、立ち上がりながら服を直している蔵馬に向かって、

「お、おいちょっと待てよ!!」
「あ〜、晴れてきたよ」
「話そらすな!!」

ぎゃんぎゃん噛みつく勢いで叫ぶ幽助に、蔵馬はくすっと笑って、

「そういうゲームなんだよ。どういうことを聞かれても言われても『何で』と言ってはいけない。このゲームのルールはそれだけ。『負け』と言われたら終わりだなんて、一言も言ってないよ♪」
「あ、あのな〜!!」

もはや何を言っても無駄……しかし、これほど悔しいことがあるだろうか!?
確かに蔵馬は『負けが終わり』とは一言も言っていない。
『何でって言ってはいけないよ』と言っただけである。
だが、あんなにさりげなく、まるでゲームの前に幽助を落ち着かす程度に言った言葉が、ゲームの鍵だったとは……。

 

 

空は晴れたが、幽助の頭上には暗雲がたれこめ、かなり機嫌が悪そうだった。
この調子で家に帰したら、後々また面倒なことが起こるかもしれない……。
蔵馬はため息をつきながら、気晴らし程度に、

「幽助、9回か……ちょっと慎重にやりすぎたかな。桑原くんは7回だったし」
「(何だ、桑原にもやったのか。ま、桑原よりマシなら、まだいいか……)」
「でも最短記録は飛影だけどね」
「は?あいつ何回言ったんだ?」
「0回」
「……はい?」

蔵馬の発した言葉に、きょとんっとする幽助。
蔵馬は窓の外へ視線を向けたまま、しかし声は少し笑いを含んで、

「だから、『何でって言ってはいけないよ』と言った直後に『何でだ』って」
「あっははは!!ばっかでー!!」

 

 

 

「はっくしゅん!」
「どうした、飛影?風邪か?」
「知るか…」

魔界の移動要塞百足の屋上。
ふくれっ面の飛影が、足を投げ出した状態で、ひっくり返っていた。
隣には躯も座っていたのだが……何の前触れもなく、飛影がくしゃみをしたので、不思議そうに彼の顔をのぞき込んだ。
まさか人間界で幽助が大笑いしたせいだとは、誰も思うまい……。

しかし、飛影としては、数日前に蔵馬にからかわれて以来、ずっと機嫌が悪く、くしゃみ1つくらいどうでもよかった。
むろんからかわれた内容は、例のゲームのせい……。
それを思い出した時、ふと飛影はいいことを思いついた。

 

「……躯。今、ヒマか?」
「は?まあヒマといえばヒマだが…」
「1つ言語の遊戯をしてみるか?」
「別にいいが…」

飛影が言葉の戦いを持ちかけてくるのは珍しい。
躯は本当に熱でもあるんじゃないかと、心底心配したが……。
飛影は彼女に見えぬように、にやりと笑って言った。

 

「何故と言うなよ…」

 

その数日後。

魔界中で、『何でと言ってはいけないゲーム』が流行ったのだった……。

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

意外とひっかかりますよ、このゲーム。
管理人も昔友人にやられて、見事にはめられました(笑)
その後悔しさバネに、家族にもしたら、全員ひっかかりました〜。
で、飛影くんの最短記録ですが、姉の結果です。本当にやってくれました(笑)
皆様も是非一度、お友達やご家族にやってみてください♪

もちろんこれは色でなくても、動物や芸能人など、別のお題でも出来ます。
相手に効きそうな内容で、やってみてくださいね♪