「黒鵺・・・・・」
「ま。もうちょっと手入れしやすい植物がよかったなってのも本心だけど?」
にっと笑って言った黒鵺。
それは今の蔵馬の心を癒すのに充分なものだった―――――――――
「ところで、何故お前がここにいると思う?」
ちょっと楽しそうに言う黒鵺に、一瞬きょとんっとする蔵馬。
そして少し考えてから、
「・・・そうだな。俺は魔界に来た覚えはないし・・・・・お前が呼んだのか?この竹を見せるために」
と言った。
それに対して黒鵺は、
「半分当たりで、半分はずれ。確かにその2つもそうだけど・・・もうひとつある」
「なんだ?」
「今日は、俺とお前が出会って初めて一緒に盗賊をやった日なんだぜ」
「今日・・・?」
「そ。へへっ、どうだ?驚いたか?」
さっき変にからかわれた分、やり返しが出来たような感覚で嬉しいのだろう。
今の黒鵺は、心底楽しそうだった。
「なんで今年だけなんだ?もっと前には呼べなかったのか?」
「今年?あぁ、人間界には四季があるんだったな。なんでかって・・・そりゃあこのすげぇ量の竹を見せたかったからに決まってるだろ?」
「・・・・・」
そうか。
この植物のおかげで、俺は・・・・・・・・・・
黒鵺との絆を確かめる事ができたんだ―――――
「あと、もっと効率の良い手入れの仕方を教えてくれ」
突然、大げさに疲れたような口調で言う黒鵺を見て、蔵馬は
「ははっ。竹に踊らされるなんて、随分と体が鈍ったんじゃないか?黒鵺さん?」
それを聞いて、うっ・・と言葉に詰まる黒鵺。
・・・・・結局、口では敵わない、か――――――――――
「・・・ま、いっか」
口で敵わない相手でも。
そのおかげでこうやって楽しめているから。
「何が?」
不思議そうに尋ねる蔵馬に、黒鵺は何でもねーと言ってから立ち上がる。
「そういえば、お前の言いたいことって何だ?」
蔵馬も立ちあがって、ふと思い出したように聞く。
そういえば、今日会って最初の方に、蔵馬に言いたいことがある、と発言していた。
「あぁ、それな・・・・・」
お前は、俺がわざわざ言わなくてもわかってるだろうな。
「?」
「・・・っと。そろそろ時間だな」
「えっ?」
「お前はそろそろ帰らねーと。ここでの出来事は、夢みたいなもんだから。早くしねーと、人間界は朝だぜ」
「ちょ、ちょっと待て。お前の言いたいことは―――――」
「俺も今日の遊び時間は終わりだ。・・・・・・・じゃあな」
そう言って、黒鵺は空へ浮かんだ。
・・・少し、色が薄いのは霊体だからだろう。
蔵馬も、何か上に引っ張られているような感覚に捕われた。
「黒鵺!待ってくれ!俺はまだ、お前の言いたい事を聞いていない!」
蔵馬の体も、薄い黄色に光り出した。
「人間界は夜明けだ。目を覚まさねーと大変なことになるぜ?」
苦笑しながら、言う黒鵺。
別れが辛いのは、どちらも同じだった・・・・・
視界がはっきりしなくなってくる・・・・・それでも蔵馬は必死に声を出した。
「黒鵺!俺はここにいたって構わない!お前の言いたい事は何なんだ!?」
まだ・・・話していたい。
せっかく会えたのに―――――――――
お前と話していられるなら、俺はいつまでもここにいる・・・・・――――――――――
「・・・・・馬鹿言うんじゃねーよ」
「なっ・・・・・」
「俺が言いたかったのはな。”仲間を大切にしろ”ってことだよ。いるだろ?お前には。俺じゃない、大切な仲間が。守るべきものが」
「黒鵺・・・・・!!」
もう、ほとんど周りは光っていて見えない。
ただ、うっすらと友の声が聞こえる――――――――――
「・・・忘れんなよ。俺はいつだってお前が見えてんだからな」
「黒鵺っ・・・・・!!俺は・・・・・・・・」
意識が遠のくのが自分でもわかる。
「仲間を悲しませてみろ?俺が霊界まで連れていってやるぜ。覚悟しとけよ」
「黒鵺っ・・・・・・・・・!!」
「・・・・・・・・大切にしろよ。お前は一人じゃねぇ」
もう、立っていられなかった。
「っ・・・・・・・!!」
「・・・・・じゃあな、蔵馬」
蔵馬の体はそのまま、人間界へと戻された・・・・・
nekt...