<食い倒れ> 5 (璃尾)
〜四軒目〜
「はが…はが…」
「もう大丈夫だって言ってんだろ、桑原。蔵馬の薬草飲んだんだからよ」
ため息をつきながらも、いちおう心配している幽助。
しかし、桑原の飲んだ薬草のマズさを知れば、多分もっと同情しただろう……。
某漫画の乾○治の作った「改良型スペシャルゴールデンパワーリミックス乾汁ネオ」の100倍のマズさと言えば、分かりやすいかもしれない…。
多分、蔵馬は不○周助のごとく、平気で飲んでしまうのだろうが……。
「幽助、次何処に入ります?」
当の蔵馬は、暢気に飛影と先を歩いていた。
幽助は桑原の腕を引っ張り、彼らに追いつくと、とある一軒の店屋を指差した。
「あそこにしよーぜ!あそこなら、歯がなくても大丈夫だしよ!!」
「えっ…幽助、あそこは……」
「細かいことは気にしねーの!!」
少々、躊躇している蔵馬。
何せその店の看板に書かれた文字は……『酎』
「誰の店か分かりやすいな……」
「店名がそのまま名前だしな」
「でもここって……」
「よお!浦飯!!」
「酎!」
幽助たちが入らない間に、戸が開き、酎が出迎えた。
「飲みにきたんだ。いいだろ?」
「浦飯、おめーも悪い奴だな!未成年だろ?」
「いいじゃねーか、一日くらい!」
一日くらい……いつもの間違いではないのだろうか……。
とりあえず、中へ入り、カウンターに座る四人。
案の定、そこは酒しかおいていなかった。
ずらりと並ぶ酒の山。
日本酒から、ワイン、ウイスキー、シャンパン、果ては魔界の酒「鬼殺し」までおいてある。
「…本当に飲むつもりですか?」
「当然だろ〜?おめーだって、少しくらいなら飲むだろ?」
「まあ、少しなら……」
「はあ。ほれ、はへひへひへーは?(なあ。これ、ためしてみねーか?)」
「ああ?『飲み倒れ』?『全部飲んだらビール一年分』!!乗ったーーーー!!!酎!!飲み倒れ四人分な!!」
「ちょ、ちょっと!何処が少しなんですか!」
慌てる蔵馬をソッチノケで、幽助はあっさり注文。
そして、酎もあっさり承諾(中学生に飲ませるな!)
はあ〜っとため息をつきながら、幽助を見据える蔵馬。
「幽助……飲み過ぎると身体に悪いですよ」
「いいじゃねーか。さっきから、おめーと飛影ばっかりはしゃいでるんだぜ?おれたちだって、やりてーよな、桑原?」
「ひょ、ひょうらな(そ、そうだな)」
「やれやれ……ところでどんなルールなんです?その飲み倒れっていうのは…」
「さあ?どんどん酒がくるんじゃねーの?」
「おまちどお!!」
と、幽助たちの前に置かれた酒は……。
「は?猪口じゃねーか」
「これくらい、ガキでも飲めるじゃねーか」
そう言いながら、四人とも通過。そりゃ、お猪口なら当たり前だろう……。
「酎。これが飲み倒れかよ?」
「そう慌てるなって!まだ第1幕どころか、前座にもなってねーぜ!」
「前座の前って何だよ…」
「次行くぜ!」
次に来たのは、小ジョッキ。
ビールがたっぷりと入っている。
「ジョッキか……なるほどどんどん、器がでかくなっていくわけか!」
「よっしゃー!!全部、飲んでやる!」
ぐぐっとビールを一気飲みする幽助。蔵馬、桑原、飛影もあっさり飲んでしまった。
「次々いくぜーー!!!」
小ジョッキの次は、中ジョッキ、大ジョッキと続き、それから段々妖しくなっていった。
丼にたっぷり、酒瓶丸ごと、ボールいっぱい、洗面器いっぱい、バケツいっぱい……。
……そして、1時間後。いくら幽助たちでも、無事でいられるはずがない…。
「…幽助、飛影、桑原くん…大丈夫ですか?」
「ああ〜?こんくらい、へ〜きへ〜き、へっちゃらで〜い!」
「へ〜きじゃね〜よ〜。ひっく、こんなこと姉貴に知れたら…あ〜、明日の太陽がおがめね〜よ〜。ひ〜んひ〜ん」
かなり対照的な幽助と桑原。しかし、双方ともに酔っぱらっているのは、よく分かる。そして、残りの一名は……。
「飛影?どうしたんです?」
「何だと…おれさまを呼び捨てするか、貴様!」
「呼び捨てって…ずっとそうでしたけど」
「おれさまを呼び捨てするとはいい度胸だ!!」
「(目が据わってる…いつものことだけど…)」
とりあえず、近くにいては危険と判断した蔵馬。席を5つほど空け、別の椅子へ腰掛けた。
酔っている3人はそのことにさえ、気付いていない。
「はあ…三人とも完全に出来上がっちゃってますね」
「笑い上戸の浦飯に、泣き上戸の桑原に、怒り上戸の飛影かよ」
「いつもは、出来上がる前に、酔いつぶれちゃうんですけどね…」
「ああ。おれの酒は普通の酒じゃねーからな。絶対に寝れねーよーになってんだ!」
「……」
彼は、何というものを発明してしまったのだろうか……。(まあ、自分が飲むためだろうけど)
ここまでくれば、次にどうなるかは想像くらい出来そうなものを……。
「蔵馬。そういえば、おめーは何ともねーのか?」
「ええ。あんまり飲んだことはないんですけどね。まあ、妖狐の時にはこのくらいいつも飲んでましたけど」
このくらい……タライいっぱいの酒の何処がこのくらいなのか……。
流石の酎も、この状況にはかなりの危機感を覚えた。何せ、全部飲んでしまわれては……。
ビール一年分、蔵馬が飲まなくとも、幽助たちの分として持って帰るに違いない。
そろそろ脱落してもらわなければ……。
「ここまできて、普通だったのはおめーが初めてだぜ、蔵馬…」
「どうも」
「じゃあ、まだまだ行くぜ!!」
そして、更に1時間後……。
「ごちそうさま。それともまだあるの?」
「い、いや……まいった…」
そりゃ、参るだろう……。
恐ろしい男である。 風呂桶いっぱいお酒を飲んで、まだ平気でいるのだ。
全然酔っていない。いつも通り、ケロッとしている。
彼を酔わせるには、プールいっぱいくらい飲ませねばならないのだろうか……。
「じゃあ、幽助たちが落ち着くまで、しばらく本でも読んでますよ」
と、カウンター横の本棚から、文庫本を取り出し、周囲の机をかき集めて、バリケードつ作り、一人で暢気に読み出した。
「そうだ。酎、店の修理代は本人たちから請求して下さいね」
「修理代?何のことだ……うわっ!!!」
ドガガガッ!!
突然、酎の目の前を通過したのは……全身酒がまわって真っ赤になった飛影だった。
そのまま、壁に衝突!!
見事にめり込んでしまった。
当然のことだが、自分で飛んできたのではない。
では、どうしてかというと……。
「おらおら、飛影!!おれはまだやれるぞ〜!!」
「う、浦飯…おめー」
「あ〜?なんら、酎おめーもやんのか〜?」
ニッカと笑って、酎を見る幽助。尋常ではない。目が完全に宙を泳いでいる。
「待て…」
ガラガラと音を立てながら、壁から抜け出してくる飛影。しかもその反動で、壁が更に崩れてしまった。
「貴様の相手はおれだろうが……無視しようってのか!!!」
「あ〜?まだやってんなら、相手になるぜ〜?」
「上等だ〜!!」
「お、おい…」
酎の言い分も全く聞かず、店の中で大乱闘が開始された。
いつの間にか、泣いていた桑原まで巻き込んで……。
「お、おい!蔵馬!あいつら何とかしろよ!」
「嫌ですよ、巻き添え喰うのは。だいたい、中学生にお酒をすすめた貴方の責任でしょう?おれは知りません」
「あ、あのな〜!!店が無くなるだろ〜!!?」
「無くなる」ですめばいいのだが……この調子では、商店街まで破壊しかねない……。
「なあ。蔵馬〜。後生だから、頼むぜ〜」
「しょうがないですね〜。じゃあ、ビール1年分を2年分に変更してくださいね」
さらっとトンでもないことを言う蔵馬。しかし、酎にとっては大事の前の小事である。
「な、何でもいいから、さっさとしてくれ〜!」
「はいはい」
そう言いながら、3人に歩み寄っていく蔵馬。
すでに幽助たちは、店を半分以上破壊し、外にまで被害が出るほど暴れまくっている。
これを止めろと言われれば、誰でも悩んでしまいそうなものだが……。
案外、答えは簡単だった。
つまりは動きを止めればいいだけなのだから……。
サアアアァッ……
髪の毛から、何か花粉のようなものを取り出し、一面にまき散らした。
金色の粉が、幽助たちの頭上に落ちてきたかと思うと、3人ともいきなり寝てしまった。
「くかーくかー」
「すーすー」
「ぐ〜ぐ〜」
「蔵馬…それなんだ?」
「ただの睡眠薬ですよ」
あっさり言う蔵馬。
まあ、酔っぱらいは寝かせるのが一番効率がいいだろうが、しかし……。
こういうことが出来るなら、最初からやってもらいたいものだ……。

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