<食い倒れ> 3 (璃尾)

 

〜二軒目〜

 

「おい……ま、待てよ……」
「つうより、待ってくれ……」
「何してるんですか、2人とも!次行きますよ!!」
「フン、そんな足手まとい、ほっとけ」
「う、うるせ――……誰のせいで、腹ペコのままだと思ってるんだ…」

本当は怒鳴りたい所なのだが、幽助も桑原もそんな元気は残っていない。

先ほどのラーメン、やっときて食べられると思ったのに、食べたのはほんの僅か……。
飛影が横から手を出して、食べ尽くしてしまったのだ。
もちろん、桑原の分も……。

つまりは、腹ペコのまま…。

蔵馬は流石に人の分まで盗るような事はなかったが、人の分を盗っている飛影を止める事もなかった。

「ほら!次、あそこ入りますよ!!」
「何処だ〜〜〜??……って、ここは…?」
「ここは?」

「ここは……う、『美しい喫茶店』!?」
「誰が経営しているのか、入らなくても分かりますね…」
「ウィンドウに飾ってある見本も……」

「見た目はいいだが、名前が……
『美しいコーヒー』『美しい紅茶』『美しいパフェ』『美しいホットケーキ』『美しいトースト』
『美しいアイスティ』『美しいアイスクリーム』『美しいサンドイッチ』『美しいアップルパイ』『美しい……」

「ゆ、幽助…」
「何だ?」
「周りがじろじろ見てますよ」

確かに何度も『美しい』と連呼したのだから……。
周囲の通行人が幽助を見せ物のように、眺めている。
一緒にいる2人も恥ずかしそうだ。

…2人?
そう、飛影は先に入ってしまっていたのだ。
人の事を待つほど、飛影は気が長くない。
まして、何度も『美しい』と繰り返している奴など……。

「…さ、入ろうか!」
「そ、そうだな!」

そそくさと入っていく3人。

先に入った飛影はテーブルに足を投げ出し、何故か注文もしていない。

「どうしたんですか、飛影?貴方なら、先に頼んでいると思っていたのに……」
「こんなメニューで、注文ができるか!」

ばんっと、桑原の顔にメニューを投げつける。
桑原の顔から、メニューを剥がして、見てみる幽助と蔵馬。
鼻の頭を抑えながら、桑原も覗き込んだ。

「……」
「……何だ、これは……?」
「メニュー……ですよね?」
「……多分な……」
「……」

「……で」
「……で?」
「……誰が頼むんだ?」
「お、おれはヤダゼ!!」
「おれだって、いやに決まってんだろ!!」
「おれもいやですよ!」

確かにこれをカウンターに届くほどの大声で言うのは、かなりの度胸と神経を要する上、
何よりこの恥ずかしさに耐えなければならない。

何せ、メニューがウィンドウで書かれてあったものよりも、長くなっていたのだから……。

『美しくて、かっこよく、力強くて、更にとてもすばらしいコーヒー』
『美しくて、かっこよく、力強くて、更にとてもすばらしい紅茶』
『美しくて、かっこよく、力強くて、更にとてもすばらしいパフェ』……(以下略)

こんなものを平気で口にできるのは、カウンターにいる鈴木だけだろう……。

「幽助……おまえ、さっき、外で言えたんだから、中でも言えるだろ」
「何が言いたいんだ。飛影」

「おまえがやれって言ってるんだ!」
「じょ、冗談じゃねえぜ!!恥ずかしさにおいては、桑原!おめーが1番だろうが!!」
「な、な、何を!!飛影だって、敵の口車にあっさり乗って、魂盗られて、恥かいたじゃねえか!おめーがやれ!!」

「おまえだって、結局盗られただろうが!!しかも、続けて言ったのに、気付かずに!」
「おれは、盗られてね―もんな」
「おめーはその前に一番早く捕まっただろうが!!やっぱりおめーがやれ!!」

「あんだと!桑原!おめーだって、鈴駒との試合で!!」
「そうだ!それなら、まだある!準決勝で2回も罠にハマッた上に、2回目は自分から罠に入った!!」
「な、なにおう!!それだったら、自分から敵に剣さし出して、死にかけたのは誰だよ!?」

「フン!ダサくて、イメージの悪い技を使うはめになったがな!そうしなくとも、勝つ方法はあったぜ!第一、それを言うなら、一回戦でいきなり必殺技を敵を教えた幽助はなんだ!?」
「あれは、パフォーマンスだろ!おめーだって、未完成の黒龍波打ちやがったし!桑原だって、霊剣で手裏剣なんて、無茶な事したじゃねえか!」
「連射したおめーに言われたかねえ!!」

「あのさ〜〜」
「何だ!!」
「もう来てますけど?」
「え゛……」

蔵馬の言葉に一同、あ然……。
確かに目の前に、いつの間にか、料理が並んでいる。が、半分近くが食べられた後だった……。

「く、蔵馬……まさか、おまえが……」
「言ったのか!?あのメニューを言ったのか!?」
「言ってませんよ。気付きませんでした?ウェイトレスにオーダーしてもらうという手があるでしょう?それなら、メニューの写真か文字を指差すだけでいいんですから」
「あ゛……」

そうなのだ。1番、簡単な方法があったのだ。ウェイトレスに頼む。
わざわざ、カウンターの鈴木に聞こえるように言わなくても、オーダーできるのだ。

「どうしたんです?食べないんですか?じゃあ、おれが全部、貰いますけど?」
「ちょ、ちょっとまて!」
「おれも喰う!!」
「どけ!これはおれ様のだ!!」
「すっこんでろ!!」

バキッ(幽助と飛影に桑原が殴られた音)

結局、ほとんど、蔵馬が食べてしまった『美しい料理店』。

幽助はともかく、桑原の腹が満たされる日は、来るのだろうか?