第七部 孤高の戦士…じゃなく盗賊。

 

 

主人:クラマ は寝ています。
   次のレベルまであと 944 の経験値が必要です。

バタン

幽:やーっと終わったかー
蔵:では酒場にもどりま……?

コ:どうした?
蔵:飛影が……いない!

駒:あーそういえば。
幽:オレらと合流した時は確かいたぜ。

桑:心配することねーんじゃねーのか?いつもと違って居場所がわかんなくなるってことはねーだろうし。
蔵:違う!しまった速く探さないと……!

 

 

 

(こちらは現実世界)

雪:あら?あのーぼたんさん、ぱそこんの画面が勝手に変わったんですけれど
ぼ:あ、きっとヤツラがまた迷宮に入ったんだね。
雪:それが……表示されたお名前が飛影さん一人だけなんです。

 

ぼ:

 

 

 

 

 

 

                                                  え!?

 

 

 

 

(ゲーム世界、町外れの迷宮の入り口に一人たたずんでいる人影)

一人の盗賊が買ってきたばかりの装備を身につけ今迷宮に入ろうとしている。
迷宮に入る前、盗賊は街のほうを振り向く。

飛:(尾行はされてないようだな。)

再び迷宮に眼を向ける。
レベル1の盗賊。
本来このレベルで迷宮に入るには多くの仲間の手助けが必要とされる。
時には仲間の力があっても命を落とす事は少なくない。
ましてや一人だけ入るのは自殺行為以外の何者でもない。

そんなことを知ってかしらずか、盗賊は暗闇の中へと進んでいく。
命を惜しむような仕草はまるで見せずに、大胆に、そして静かに。

 

 

(その頃酒場周辺では)

凍:だめだ、こっちにもいない。
酎:訓練場の方にはよらなかったみたいだぜ。
蔵:そうか。
駒:考えすぎなんじゃないの?いっくら飛影だってわざわざそんな死に急ぐようなことはしないでしょ。
凍:飛影の性格を考えてみろ。横で死闘を繰り広げられて、じっとしていられるようなタマか?

幽:おーーーい!
桑:手がかり見つかったぞー!
蔵:幽助!
陣:どんな手がかりだっただ!?
幽:ぜーぜー…の前に、マスター一杯!
蔵:真面目に話してください!

(一杯飲んで落ち着いた後で)

全員:商店街?
桑:ああ、店員に聞いたらよ―――

 

(その時の状況)

桑:おーいオヤジー(奇妙なポーズを顔つきをして)こーんな顔したチビ見なかったかー?
店主:……………?
幽:く…(桑原の顔を見て必死で笑いをこらえている)
  あ!そこのニーチャン!ここに目つきの悪ィ、無愛想な盗賊こなかったか?
桑:おい幽助、無駄だぜ。今のオレの完璧なジェスチャーですら無反応だったんだからよ。
幽:ドコの化けもンかと勘違いされそうなアノポーズがか?
店員:見ました。
二人:マジか!?

―――――――――

 

幽:でーその盗賊、店員に聞いて自分が装備できるもんを買い込んでったんだと。
蔵:装備品を買い込んでいった…
桑:おおよ、オレの完璧なジェスチャーのお陰で店員から聞き出す事ができたってわけよ。

駒.ο0(いったいどっからその途轍もない自信が沸いてくんだ?)
陣.ο0(オラだってここまでヘンな元気は出てこねーだ)
凍.ο0(陣、比べる時点で間違いだ)
死.o0(勘違いの度合いで鈴木に勝るヤツがいるとはいないと、こいつに会うまでは確信してたんだがな)
鈴.o0(それは一体どういう意味かな死々若君)

コ:! まさか飛影のやつ……。
蔵:おそらくそのまさかですよ。

 

 

 

(こちらは迷宮)

音も、光もない、闇と静寂が支配する迷宮へと続く階段を降り立つ。
直後、わずかに離れた所でうごめく幾つかの人影を見つける。

飛:(さっそくお出ましか)

盗賊は音も無く人影に近づき、そのひとつに後ろから短剣で素早く斬りつける。

 

ギャァァァァァァァァァァ

迷宮内に得体の知れない化け物がだしたような悲鳴が響き渡る。

飛:(かなりスキだらけだ!)

驚く人影の仲間。
近くで見ると家畜の豚のような顔をしている。
不意に襲われたのがよほど応えたのか、
化け物は仲間を傷つけた敵がすぐそこにいるにもかかわらず塵じりに逃げてゆく。

 

飛:(チッ、雑魚が)

つばをはき捨て辺りを見回す盗賊。
ふと、近くで奇妙な物体が這いずってくるのが見える。
人方の生き物にしては小さい、それどころか動物であったとしても余りにも背が低すぎる。
盗賊独特の注意力と神経が無ければ見つけられないであろう。

突如、盗賊の目の前で這いずってきた物体が伸び上がり威嚇の姿勢をみせた。

飛:(ほう、やる気か)

短剣を逆手に握りなおし伸び上がってきた物体めがけて一気に切りかかる。

スバッ!

切りかかられた物体は声にならない悲鳴を上げ、溶けるようにして崩れていく。

 

飛:(フン、さっきのより歯ごたえのないやつだな)

つまらなそうに剣を構えなおす盗賊。
同胞を斬られたその生き物は素早く盗賊の後ろに回りこみ盗賊めがけて突進してくる。

飛:(だが豚よりはまだやる気のある雑魚だな)

盗賊は薄笑いを浮かべ、まとわり付こうとする生き物めがけて剣を繰り出す。

ザシュ!

二匹目、狙い違わず一筋に斬られ崩れ去っていく。

 

その瞬間、盗賊の腕に痛みが走る。

飛:(チッ、後ろに回りこまれたか)

 

ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

煮えたぎった油をかけたかのようにただれる腕。
だか盗賊は痛みを感じさせる素振りも見せず、腕にまとわり付いた生き物を
引き剥がし、床に叩きつける。

グシャ!

叩きつけられた生き物は同胞の後を追い、溶けるようにして消え去る。

飛:(少しは楽しめそうだな)

ただれた自分の腕を見てもなお笑いを見せる盗賊は、叩きつけた後の生き物などは気にも留めず、残党めがけて剣を振り続ける。

 

 

 

(現実世界にて)

ぼ:あーーーー!ホントに一人でいっちゃったよ〜!なにやってんだよ飛影〜〜速くお家にかえんなさい〜〜!
ジ:んな近所の子供じゃないんだから。
静:そんなやばいことなの?
ぼ:やばすぎるんだよ〜。
螢:(説明書に眼を通して)
  『一人で迷宮に入る事はたいていの場合死期を早める結果になるでしょう』だって。
ぼ:あ〜も〜速く帰って〜〜〜!

 

 

 

(そのころ酒場で)

一人で迷宮にもぐったぁぁ?!

蔵:おそらく。
コ:全く、なに考えとるんじゃあの…
陣:く〜〜〜うらやましい〜〜〜。
酎:んにゃろー抜け駆けしやがって!
幽:ちくしょ〜一人だけ楽しい思いをしやがって!
桑:アイツが行けんだったらオレにもいけるはず!

コ:どういう思考回路しとるんじゃコイツラ……。
駒:オイラ前にも言ったじゃん、バトルマニアどころかクレイジーだって。
蔵:とにかく探しに行きましょう。

 

 

(迷宮のなか)

これまで何匹倒しただろう。
立て続けにあの這いずる生き物襲われ、ややダメージを負っているにもかかわらず、盗賊はまだ、探索を止めようとしない。
むしろ自分の命が危機に追いやられている事を楽しんでいるかにも見える。

 

飛:(!)

盗賊はすぐ異変に気づいた。
今までの敵とは明らかに何かが違う。

飛:(少しは期待できそうだな)

敵はそこにいた。
今までの敵―――
這いずる物体、最初に出会った人影―――

どれとも違う。
注意深くこちらを観察する眼。
獲物を捕らえる寸前のハンターのような息遣い。

 

 

突然『それ』は襲い掛かってきた。

シャ!  カキン!

飛:(ク!)

辛うじて一撃を受け止める。
だかそれも“辛うじて”だ。
すぐに二の撃がとんでくる。

ガキ!

これもまた“辛うじて”受けた盗賊は、体勢を立て直し
次の攻撃に備え短剣を防御の構えへと持ち替える。

 

 

しばらく時が止まったかのように思えた。
敵も盗賊も、一切動かない。

ふと盗賊は、自分が防御の構えをしているのに気づく。

飛:(……フン)

盗賊は一瞬笑顔を見せると、防御から攻撃の構えへと短剣を持ち替えた。

 

 

敵が動く。
盗賊が突進する。
渾身の一撃。

敵が一瞬ひるんだ。
だが、他の仲間がすぐさま体制を崩している盗賊めがけ斬りかかってくる。

盗賊が笑う。

 

剣が振り下ろされる。