第1夜 守りたいもの・願ってるもの。

 

Act.2 暗示 (後編)

 

 

(何やってんだか)

 

溜め息が、こぼれる。

 

 

確かオレは。
『白虎の森』の、この元・長の城に、偵察しに来てた筈。
ここからだと、次の獲物がよく見えて。
どう、盗み出すか。考えやすかった。

けれど。

奴等から、あのちびを庇って、この様(ザマ)だ。
冗談じゃない。
だが、ヘンな事に、悪い気はしない。
何でだかは、自分でも判らない。

 

『また逢おうな』

約束じみた、唯の言葉。
世の中には『転生』なんてものが、あるという。
姿・形。そして生い立ち、事柄。
その全てが、死んでも尚且つ、今の自分とは違う『生』へと、もう一度成すという。

ならば、判る時がくるんだろうか?
理解出来ない、このおもいを。
もう一度、あえたのなら。判るのだろうか?
ちびに対する、形にならない形が。

一度だけしか、あったことはないのに。

(あぁ。今回で、二度目か…)

回数に入るかは、かなり微妙だが。

ちびの名前。
そういえば、知らない。

『興味、持ったのか?』

名前を唯に訊いたら、逆にそんな事を訊かれた。
その時は気づかなかったが、そうだったのかもしれない。

『自分であった時、訊けばいいじゃないか』

意外と唯は、冷たい。

 

(結局、訊けなかったな…)

知らないままだ。

 

 

 

『暗示』

 

使うつもりはなかったし、使うとは思わなかった。

 

きっと、ちびはショックだっただろう。自分を庇って、オレが死ぬなんて。
自分を責めるに違いない。

そうは、なるな。
なってほしくはない。

ただ、お前には。泣いてほしくないんだ。
自分の所為だなんて、泣くな。

いつものように、くだらない話しかなんかで、笑えばいい。
ちょっとした物事に、驚いて、気づいて。
ちいさい花なんかに、喜んで。
それがお前には、ちょうどいい。

 

お前から、無くそう。

( だから、泣くな )

自分を、責めなくていい。

 

 

 

お前の記憶から、オレという存在そのものを、消す。

 

 

 

Act.2 暗示/完