かうんた1. 春日和
1. かくれんぼ
春日和。
新学年に上がって、まだ間もない。 ………筈なのだが。 碧はそう、いかなかった。 3年になって1ヶ月くらい経つ。 まだ季節は春の気候で、頭上の木の葉の隙間から、あたたかい陽光(ひかり)が自分にあたる。 (ねむ…) ひとつ欠伸がこぼれる。
「…あいつは」 廊下際4番目の自分の席から左に5番目の席を見るなり、寵は溜め息をついた。 (しょうがないなぁ、碧は…) 全ての授業が終わり、自分の帰り支度を整える。 「浦飯」 前扉から別クラスの蛍明(けいあ)が顔を出してきた。 「どうした?」 自分のてさげを肩に下げ、碧の席に足を運びながら蛍明に訊く。 「…いやぁ、な」 少し困ったような蛍明に、寵は首を傾げる。 (……まさ、か…?) キーホルダーがいくつか付いた碧のてさげを手に持ち、不安な面持ちで前扉に向かう。 「ちょっと、いい?」 扉にたかりはじめたクラスメイトに退いてもらおうと、声をかける。 「浦飯、あいつと知り合いか?」 訊かれて不安は的中だと、確信した途端。 「うっせーなっ! てめぇ等、斬られたいのかっ?!」 魔界にいるはずの蛍明の姉の声が、聞こえた。 (あぁ…、もう) 不安の要素である、蓮(れん)だ。 「蓮」 そんな姉を、蛍明は一声で宥(なだ)める。 「…ふん」 クラスメイトたちが寵に顔を向ける。 「…なんだ? あいつ」 心配そうな声に、寵は苦笑気味に言う。 「とりあえず、…外行かない?」 寵の提案に蛍明がつかさず頷く。 「?」 なんでそうなるのか理解できないらしく、蓮は首を傾げた。 (…いや、やばいから) 無意識に蓮の心を感じ取って、内心寵はツッコんだ。
・・・・☆
「あお――っ」 まだ、3歳くらいの寵が碧を呼ぶ。 「うらめし」 少し困ったような顔して、寵は振り向く。 「みつからないのか?」 訊かれて寵は首を横に振る。 「そうか」 叔母ゆずりの蛍明の薄い水色の瞳が、頭上の木の葉の合間から見える青空を映す。 「をいっ」 離れたところから、これまた3歳くらいの蓮が走ってくる。 「いたか? あお」 自分らのとこまでくると、蓮も訊いてきた。 「ううん」 それに蓮はキレる。 「そろそろ、るなおねぇちゃんがかえってくる…」 空模様を見て、寵は大体の時間の見当をつける。 「くーにいも…だな」 言われて寵はうなずく。 「そうなのか?」 あまり中心世界のことは興味がないので、蓮は首をかしげた。 「………」 なんとなく、寵は不安になる。
もう碧は、何時間もひとりでいる。 どこ…? どこにいる……?
(どこに、隠れてる―――――?)
・・・・・・
|