かうんた1. 春日和

 

2. 見つけた

 

かくれんぼ。

 

おひるたべおわってから、やりはじめて…。
もう、どれくらいたったんだろう……?

ながい、…ながいあいだ。
もうずっと、ひとりだ。

めぐむたちはもう、かえっちゃったのかな…?
ぼくのこと、わすれちゃったのかな?

 

まだ、さがしてくれてるのかな………?

 

 

・・・・☆

 

皿屋敷第2公園。

これがまた、広い。
この公園全体が、かくれんぼの範囲にしたのはまずかった。
まだ小さい寵たちではさがせるところがありきたりで、何度も同じ場所を見にいくだけだ。

けれど。
3歳の頭では、そんなことまでまわらない。切羽詰ったのなら、なおさらだ。

 

今日は、いい天気だ。
これを春日和だというのだろう。
桜は満開。
5つ上の琉那と紅光は、小学1年から2年に上がった。
風が吹くと、咲き誇った桜が雪のように散っていく。

「………」

そんな少し遠くにある桜並木を見て、寵はふっと思う。
そういえば。

「…さくら」
「え?」

急に桜といわれて、蓮と蛍明は同時に疑問符がとんだ。
かまわず寵は、ふたりに訊く。

「けいあ、れん。さくらのしたって…さがした?」

訊かれてふたりは顔を見合わせて、蛍明が先に口を開いた。

「いや…」
「かくればしょにならないだろ? きのしたなんて」

言葉足らずの蛍明をつけたすように、蓮は言う。

「うー…うん。そう、だよ…ね?」

自分もそう思って、木の下は探しにもいかなかったのだ。
けれど。

「いる…かも」

言い終わるかどうかで、寵は桜並木にむかって走りだしていた。

「え? ちょっ、…めぐむ!」

慌てて、蓮は寵を追いかける。蛍明もそれに続く。

「いるのか?!」

前を走る寵に、蓮は訊く。

「たぶん」

あまりアテにならないような返事をしといて、寵はなんとなく確信はしていた。
舗装されていない桜並木の坂道に入り、上へと足を走らす。
並んでる桜の下を、蓮と蛍明はいくつか見る。けれど、寵は見ない。

上にいる。

この桜並木の、坂の上に。
坂の上には、大きな木がある。
並木の桜とは比べものにならないほどの、大きな桜の木。

そこに、碧はいる。

 

坂の上の、大きな桜の木。
たどりつくと、見なれた灰色の髪の毛が。
大きな幹を支えるにふさわしい、太い根のうしろに。
すこし、…見えた。
ひざを抱えて座ってる。
見つけてくれるのを、まってる。不安の中。

傍までいって、寵はうしろから碧の頭に触れる。
碧が振り向くと、わらって寵は言った。

 

 

「 あお! みつけた! 」
「 碧っ! 見つけた! 」

 

 

(…え☆)

一瞬、3歳と今の寵が重なった。
寝そべってる自分を、寵が見下ろす。

「やっぱ、ここにいた」

そんな事をぼやいて、寵は碧の隣にかがむ。
ご丁寧に、おれのてさげも持ってきて。

「やっぱ…?」

さもあたり前かのように言うそれに、疑問符がとぶ。
上体を起き上がらして寵を見ると、後ろに蓮と蛍明がいた。

「碧。暇だから、勝負しに来てやった」

女らしからぬ口調で、不敵に蓮が笑う。
……なんか。その態度って、ムカつく。
ムカつくから、蓮を睨(にら)む。それでも蓮は変わらず、えらそうに笑った顔して碧を見る。

「…無言のケンカか」
「蛍明…」

今の状況を正確に言う蛍明に、寵が苦笑する。ぼそ…、と蛍明がもう一言。

「ケンカするほど、仲がいい…と」
「なんでそうなる」

そんなつもりは碧にはない。

「おれは構わないが?」

そう思われても、蓮は別に悪い気はしないらしい。
それはそれとして、蓮の態度はやっぱり気に入らない。
キレはじめた碧の頭を、寵は軽く叩く。

「碧、落ち着け」
「――……」

なんかその感じが、3歳の頃のあの時と…重なる。

「ん?」

ぽかん、と・碧に凝視されて寵は首を傾げた。
でもあまり気にせず、碧に自分のてさげを持たせて立ち上がる。

「けど別に、蓮が嫌いなわけじゃないだろ?」

そんな事を寵は言ってきた。
いや…。

「…確かにそうだけど」

嫌いではない。
女の癖して男っぽくて。
態度はなんかえらそうで、何様なんだか。
だからムカついて。
それでもそれが、本気で嫌(いや)だとは思わない。

立ち上がる碧に、寵は少しいじわるそうに。

「妥当に…、悪友ってトコか?」

…友。……というかはよく、わからないが。

「そうだな。そんなトコにしとく」

それが近いだろう。
そんな事をふたりで無意識に小さな声で話してて、蓮には聞こえにくい。

「なに、ぼそぼそ話してるんだ?」
「や。別に」

何もないように、寵は蓮に振り返る。

「腹…、減ったな」

独り言みたいに蛍明が呟く。
…言われてみれば。

「4時近いもんな…」

空模様を見て、寵がぼやく。
バスに乗って家まで30分。それでも、夕飯まで時間がある。
期待の目で蓮が寵を見る。

「何か、食うもんあるのか?」
「なんでそこで、おれを見る」

寵の肩に碧が手を置く。

「何か作れよ」
「浦飯、料理。上手いもんな」

続けて蛍明も寵を見る。

(だから、なんで、……)

そこまで思って、寵はあきらめた。
何言っても、どうせ作らされるのだ。あきらめた方がいい。

「…わかったよ」

溜め息ひとつついて、肩を下ろす。
まだ保育園の妹を迎えに行ったら、そのまま碧の家に行くことになった。

少し前を行く蓮と蛍明の後を、碧と寵が続く。
隣を歩く、自分よりちょっと背の高い寵を見上げて。

「……なぁ、寵」

くだらない事だとは、わかっているが。何となく…碧は訊く。

「なんで…おれがここにいる…って、思ったんだ?」
「だってお前。春、好きじゃん」

さらりと、そんな答えが返ってきた。
風が吹いて、寵の黒がかった茶色い髪を揺らす。

「あの時も、特に春の風が感じられるトコにいたもんな」
「……」

確かに…、そうなんだ。
あの…3歳の頃の、かくれんぼ。
どうせ、隠れるなら。あの、桜の木の下がいい、と思ったんだ。
自分がいちばん好きな、春の風が感じられて。
すぐ、見つかってもいいと思って。

結果。
逆に、なかなか見つけてもらえなかったんだけど…な。

緑の葉が、何枚か落ちてくる。

「『神桜(かみざくら)』だったら、桜吹雪だな」

落ちてくる葉を眺めて、寵が言う。
『神桜』―――皿屋敷第2公園の、あの桜並木の坂の上の。大きな桜の木のことだ。
………しかし。……?

(あれ……?)

ふっと、疑問がとんで碧は首を傾げる。

 

(春が好きなこと。寵に言ったっけ………?)

 

 

先刻(さっき)まで頭上にあった木は、もう後ろの方にある。

 

 

 

 

かうんた1. 完/ 2003,11.25−