今年最大の別れが、すぐそこまで近づいている。
春。
…別れの季節。

 

サヨナラ。

 

今年は、それでも特別。

今年の私は、別れが多い。
まず、今まで通っていた学校との別れ。
まぁ、これは卒業なんだから仕方ない。

そして、卒業に伴って、学校の友人との別れ。
でもまぁ、これも仕方ないかもしれない。

 

さらに。

多分これが一番大きく、一番普通じゃない別れ。

それは、人間としての生活との別れ。

今までずっと、私は自分を人間だと思ってきた。
そりゃ、ちょっと人より違う部分もあるかもしれない。
だけど、それも「人間としての個性」の範囲内に収まるとおもっていたの。

 

でも、どうやらそれは違っていたらしい。
私は妖狐で。
妖怪で。

人間の身体に憑依していたというのだ。
じゃぁ、というのは、私ではないの?

 

 

そう思って、絶望に染まりかけた私に、、と名乗ったあの人は笑いかけた。

「キミはキミだよ」

そう言って。

「ようやく見つけた。…キミを、…を探しに来たんだ」

そう言って笑うは、正直言って、今までみたどんな男の人よりも素敵で、私の頬は赤く染まった。

 

それから、が全てやってくれた。
私がぼんやりしている間に。

私はどうやら、人間界と魔界の二重生活を送ることになるらしい。

…いきなり妖怪だといわれても。
ちっとも自覚のない私。

二重生活になったら、春から大変だろうなぁ。
そう思った私だけれど、は軽く笑った。

 

 

「大変なんかじゃないよ。…オレも妖怪で、と同じ妖狐なんだ。だけど、今までばれたこともないしね」

そう言って私にウインクした
だけど、どう見ても、は頭がよさそうだ。
それに引き換え、私は普通。…贔屓目に見たって、ずば抜けた天才ではありえない。
それに、ちょっとどじなところもあって。

もし、妖怪だってばれたらどうするんだろう。
そう、疑問を口にすると。
は楽しそうに笑った。

 

「大丈夫。が妖怪だとばれることはありえない。…一生、オレがキミに付き合うからね」

それって、一体どういう意味?
どきん、とした私のうでを、は軽く引っ張った。

 

「今から少し、魔界を見に行ってみないか?春になったら、魔界はの世界になるんだから。…そして、が選んでくれれば、これから先、オレ達の永住の地になるかもしれないんだから」

永住って?
オレ達の永住の地ってどういうことだろう。
目を丸くした私に。
は笑った。

 

 

「ゴメン、今言うつもりはなかったんだけど」

聞きたい?と優しく覗き込む瞳。
しかし、どこか楽しそうで。

「なに?」

尋ねた私に、はこの上ないほど、優しい笑顔をくれた。

 

は、昔…人間に憑依する前に、オレと言い交わしていたんだよ」

「…言い交わす?」
「ああ。…末永く、共に在ろうと」

…それは、結婚よりも深い関係。
恋よりも鮮やかな絆。
愛よりも強い思い。

 

「もし、が。…現世でもそれを望んでくれるのであれば。オレの気持ちは変わっていない」

強い瞳で見つめられ、顔を染めた私に。
は視線を緩めた。

「ごめん、…勿論、最初は友達から始めよう。はオレのことを思い出していないんだろう?思い出すまでの時間を無駄にすることはない。…オレのこと、魔界のことをよく知ってもらわないとね」

そう言って、は親しみやすい笑みを浮かべ、私の手を取った。

 

 

「行こう、魔界へ」

「…どんなところ?魔界って…」

「そうだな…最近は随分と魔界も進歩してきている。だから、昔と違って、一緒に盗賊をすることはできないかも知れない」

…盗賊をやっていたの?この私が。
それに、って。…こんなに冷静沈着でハンサムなのに、盗賊だったの。

驚いたけれど、楽しそう。

 

「なんか、楽しそうだね、盗賊。…残念」

そう言うと、はくすっと笑った。

 

「そう?は…お宝を盗むのは上手だったけれど、売りさばくのは下手だったよ」

思い出したように笑う

 

「すぐに相手に値切られちゃうんだ」

その言葉に、私は…なんとなく自分の事ながら想像がついて、赤くなった。

「楽しみだな、春が。…と過ごせるようになる、春が…ね」

春は、別れの季節。
サヨナラの季節。

 

 

…私は通いなれた学校と、仲のいい友人と。
そして、人間としての生活に別れを告げる。

 

しかし、その代わりに…楽しくなりそうな、新しい生活が待っている。

新しい生活に入るための別れ。…ちょっと、今年は別れの季節が楽しみになった私だった。