「本当に、これで決定していいんだね」
担任の先生が、いつもよりも随分真面目な顔でそう言った。
それにつられるようにして、私も頷く。
迷って、悩んで決めた進路。
もう迷いがないっていったら、嘘になる。
まだ、迷ってる。
決められないよ。
だって、将来のことなんかわからないんだもん。
でも、決めないといけない時期が迫ってるから。
<迷った時は側にいて>
「ねぇ、。私、進路どうしよう・・・」
昨夜、私はにも相談した。
「は将来何がしたいの?」
「・・・またその質問〜?」
聞かれ飽きた、その質問。
将来なんてわからない。
何度そう言っただろう。
でも周りはみんな、困ったような顔をする。
「だって、進路ってそういうもんだろ」
「そんなこといっても分からないってば。何になりたいかなんて・・・」
「別にそんなことを聞いてるわけじゃないよ」
はちょっと苦笑した。
「の好きなことは何?がやってみたいと思うことは何?が憧れる職業は何?10年後、どんな風になっていたい?」
そこで、少し言葉を区切る。
「が今選んだその選択は、今オレが言ったどれかに当てはまる?」
私は、少し考えてから首をかしげた。
「今は。今は当てはまってるよ。興味があることだし、・・・でも、向いていなかったらどうしようって思うと・・・迷っちゃうんだ」
は軽く吹き出す。
「もう、こっちは真面目な話してるのに!」
私はを睨んだ。
そりゃ、はいいよ。
頭はいいし、勉強は出来るし。
きっとどこの学校でも受けたら確実に受かるだろうし。
どの職業についたって絶対に「向いてない」なんてことはない。
体力もあるし、人並みはずれた運動神経だってあるし。
・・・まぁ、はS級妖怪だから、私と比べたってしょうがないんだけど。
何でも出来る人はいいなあ。
・・・死にかけて、それを乗り越えるために、が私より何倍も努力したことは知ってるけど、ついそう思ってしまう。
をうらやむ私って・・・心が狭いのかな。
根性悪いかな・・・。
ちょっと沈んだ私の内心も知らず、は微笑んだ。
「向いてない、なんて考える必要はないんじゃないかな」
私が顔を上げる。
「何で?向いていないってことはない、とか?」
には、私が迷っていることを話してる。
なら、私のことをよく知っててくれる。
「向いてる、とか、向いてない、とかってことは、自分が決めることだよ。向いていなくたって、頑張り通してモノにしちゃう人だっているし。向いていたって途中で投げ出すような人間は、それを極めることは出来ないし、ね」
そうね。
私は頷く。
は優しく微笑んだ。
「それにね、将来、考えが変わったっていいじゃないか。今見えていないことや分かっていないことを、何年か後に理解したとする。それに従って将来を修正したって、別にそれは逃げたことにはならないよ。
頑張って頑張って、それでも無理なことがあったとしても、今何もやらないであきらめるより、やり通したほうが、自分で納得がいくよ。
どんなことでも、頑張ったってことは無駄にはならない。
は悩んで悩んで、自分なりによく考えて進路を決めたんだろう?それが今の自分に考え付く、ベストだと思ったんだろ?
だったら、その選択は、間違っているなんてことはありえないよ。
選択について、思い悩むよりも、こうと決めたからにはそれに向かって頑張ればいいだけ。違うかい?」
の優しい、染み入るような声を聞いていたら、ちょっと心が軽くなった。
「また、迷うことがあったらオレに愚痴ればいいよ。・・・10年後だって、オレはのそばにいるんだから・・・」
そっと抱かれた肩に、のぬくもりを感じる。
このぬくもりがある限り、頑張っていける。
10年後。
のくれる優しさに応えて、すばらしいオンナになっていますように・・・。
ううん、きっと。
なるからね、。