<ゆうゆう冒険物語> 外伝

 

 

 

……彼の噂を聞いたのは、二度目の旅に出て、しばらくした後だった。


一度目の旅は、金と修行が第一目的だったため、大きな国や街を訪れることなく、深い山奥やモンスターが徘徊する山林、あるいはさびれた遺跡などを訪ねていたため、そういう機会がなかったせいだろう。


今回二度目の旅……といっても、一度目の旅から戻ってきて、そのまま出発したから、二度と勘定していいのかは不明だが。

戻った途端、妹がモンスターに攫われたと聞き、トンボがえりで飛び出してしまったのだし。

その時、自分の娘の代わりにと、妹をモンスターに差し出した村長だの村の男ども十数人半殺しにしてきたので(本当に死んだかもしれないが、はっきり見ている暇などなかった)、二人揃ってもう二度と村へは戻れないだろう。


未練はない。
母の墓はあるが、それくらい。
妹のことを聞く前に、いちおう墓前には行ったのだし、もう十分だ。





妹を攫ったモンスターは、特徴からして、人里からそう離れてはいないところに住んでいるはずである。
人語を解し、嫁にと取引するようなやつは、そうさびれた地にはいない。
それなりに人が多く集まる場所、あるいはその近くにいるものである。

そう思って、ほとんどあてもなく彷徨っていた。
オリジナルのように、邪眼があればどれだけ便利だろうと思っても思わなくても、ないものは仕方がない。





そして、とある大きな国を訪れた時のことだ。

銀髪のキツネ?」
「ああ。この国に来てるらしいぜ。噂だけどな」

酒場であまりアテにはできずとも、情報収集していた時だった。
それぞれ一人旅をしている連中が固まって酒を飲んでいる席でのこと。
最もそういうところが得意でないため、少し離れた席で耳を澄ましていたのだが。

「妖怪のか?」
「あの有名な大盗賊が?」
「この近辺で姿が目撃されてる。入国したって姿じゃなく、森の中をうろついていたってだけだけどな」
「何だ。じゃあ、国に入ってる保障はねえじゃねえか」
「だが、この国は近くに遺跡があっから、お宝の宝庫じゃねえか。例の博物館が、近いうちにオープンするしよ。見逃すはずねえぜ?」
「なるほどな。女どもが浮き立ってるはずだぜ。なんせ美形だって話だからな。妖怪じゃあ、どんなもんか知れねえが」



……



金を払って店を出る。
近くの街角掲示板を見ると、近日中にオープン予定の博物館の情報が載っていた。
どうやら最近の美術品ではなく、遺跡で発掘された貴重な財宝を展示することになっているらしい。
盗賊であれば、一度は襲ってみたくなる場所だろう。


「開場は3日後か

博物館の場所、開く時間帯。
銀髪のキツネの噂のためか、警備は厳重にすると書かれてある。
それらのことを頭に入れて、ホテルへの帰路についた。

妖怪で街中に出るとなれば、一度は当たっておく必要がある。

最も美形とあっては、外れの可能性の方が高いが。
妖怪といえど、美男子であれば、わざわざ村に取引を持ちかける必要などないだろう。

だが、それは抜きにしても……一度会ってみたかったのは、事実だ。




初めて噂を聞いたのは、少し前。
村を出て、初めて大きな国へ入国した時のことだ。

以来、彼の噂は頻繁に聞くようになった。

銀色の長髪をなびかせ、冷酷な金色の瞳を輝かせ、髪と同じ色の長い尾をひるがえし。
天使のような美貌と、悪魔のような所業。鮮やかな手口。

これほどまでに顔が知られているにも関わらず、なぜか誰一人として彼を捕まえることができない、不可解さ。

彼の「仕事」以外では、誰一人、その姿を目撃した例がないという。

おそらく最近、森で姿を見かけたというのも、彼自身が流したデマなのだろう。
でなければ、今頃兵隊が森へ押し掛けているはず。
だが、その様子がまるでない。



……
まさにプロ。
彼の「仕事」は、神業としか言いようがなかった。





「っつ」

ぼんやり銀髪のキツネのことを考えながら歩いていると、角を曲ったところで、何かにぶつかった。
よろけることはなかったが、文句の一つでも言ってやろうとすると、

「あ、どうもすみません」

先に謝られた。
といっても、ぶつかったのは別のモノらしいが。

「何で謝んだよ! 向こうがぶつかってきたんだぞ!」
「喧嘩しながら飛ぶからだよ、幽助。桑原くんもその辺でね」
「わーったよ」

……

どうやらぶつかったのは、小鳥のように小さなこのたぶん、モンスターだろうと思われるモノらしい。
話からして、後ろから来たロバと喧嘩していて、前を見ていなかった、と。

そして、自分に謝ったのは……見るも美しい、赤い髪をなびかせる美青年だった。



「(男、か)」

少し考えてから、そう結論付けた。
女に見えないこともないが。
顔立ちは中性的で綺麗だし、身体のラインは細い。
が、やや小さいが喉仏はちゃんとある。
初夏とはいえ、かなり暑いせいだろう、袖をまくっている下の腕はスレンダーでこそあれ、しっかり筋肉がついていた。


「あの?」

自分がなにも言わないのを不審に思ったのだろう。
向こうの方が背が高いため、ややかがみこんで問いかけてきた。
そのちょっとした動作に、カチンときて(背が低いことを気にしている表れでもあると、本人は気付いていない)、

「関係ない!」

と、言い捨てて、さっさと歩きだした。


後から考えると、その場の言葉として、不適切だった気もするが、そんなことを考える余裕などなかった。

ちらりと振り返った先で、青年はますます首をかしげているように見えたが。
それすら、何となく腹が立って仕方がなかった。

こんなに何かに本当に素直に腹を立てたのは、いつぶりだっただろうか?
それもこんなにくだらないことに。
妹が行方しれずになって以来もしかして、始めてだったかもしれない。





……
それが彼との初めての出会い。

3日後。
博物館は当たり前のように、銀髪のキツネに襲われ

その少し後。
赤い髪に戻った彼と自分は、再び対面することになったのだった……




 

 

〜作者の戯れ言〜

「ゆうゆう冒険物語」の外伝です。
一人称ではありませんが、飛影視点で蔵馬さんとの出会い直前を。
何か、オリジナルとはだいぶ違う出会いになりました

叶姉さま、見てますかー?
気に入って、続編希望されていたので、とりあえず短編ですが。
よかったら、受け取ってくださいねー。