<消えた『飛影』> 4
「飛影!」
声をかけられ、はっと眼を開けた。
目の前に蔵馬がいた。
がばっと起きあがる。
「何? うなされてたよ?」
「……蔵馬」
ぼーぜんとその顔を見つめる。
薄くない。
間違いない。
断片でも欠片でもない。
霊魂でも霊体でもない。
……蔵馬だった。
「ああ、もう。勝手に人の家に入って、勝手に寝るのは別にいいけど、土足でベッドに載らないでっていつも言ってるでしょう。またシーツ洗濯しないと……飛影?」
飛影が自分を凝視していることに気付き、振り返る蔵馬。
仕事から帰ったばかりなのだろう、中途半端にネクタイを外しながら、こちらを見ている。
「……変な夢でも見たのか?」
「ゆ、め……」
「また雪菜ちゃん探してた時の夢? それとも躯とケンカした時の? それとも三年前のトーナメントで幽助に負けた時の? まさか決勝戦であんな戦いになるとはね。準々決勝で貴方に負けた俺が言えた筋じゃないですけど」
「……」
クスクスと笑いながら、でも本気で嘲っているわけではない、からかいの笑顔で言う蔵馬。
蔵馬だった。
間違いなく。
この笑顔も、髪も、瞳も。
蔵馬でしかない……。
生きている。
夢だった。
全て。
だが、全然ほっとしていない自分がいる。
酷く現実的だった。
あの夢は。
とても。
怖かった。
目覚めた今尚、鮮明に蘇る。
眼前で、消滅する蔵馬。
戻ってこない命。
求めても手に入らない。
果てしない孤独。
生まれて初めての絶望…。
ただの夢で片づけられなかった。
まるで……予知夢のようで。
これから起こることを予見しているように……。
「……おい」
「はい?」
「……死ぬなよ」
「は?」
突然言われ、素っ頓狂な声を出す蔵馬。
無理もないだろう、自室で寝転けられていて、目覚めて第一声がそれでは……。
「何でまた急に…」
言葉を紡ごうとした蔵馬に、飛影がつかみかかる。
突然のことに、バランスがとれず、ひっくりかえってしまい、頭を壁に打ち付けた。
とっさに受け身をとったため、怪我などはなかったが、多少痛かった。
「いたた…飛影、何を」
「言え。死なんと」
蔵馬の胸ぐらをつかんだまま、馬乗りの状態で、三つの眼で睨み付ける飛影。
その眼が本気であることに、蔵馬も冗談を言っている状態でないことはすぐに理解した。
だが……だからといって、嘘は言えない。
「……約束はしかねますよ。もうすぐトーナメントだし」
「……」
蔵馬の眼も本気だった。
嘘はついていない……だからこそ、この答えだったのだろうが。
魔界において、絶対に死なないとは決して言えない。
もちろん人間界でもだろうが。
魔界ではそれが更に増長されている。
「……でもまあ、努力はしますよ。理由がある以上は」
やんわりと飛影の手を解きながら、起きあがりつつ言う蔵馬。
立ち上がった彼を、じっと見つめる飛影。
蔵馬の嘘のない笑顔は、見ていて悪くない。
失いたくない。
この笑顔だけは……。
生きて欲しい。
そう思わずにはいられない……。
どんな理由であっても。
しかし……蔵馬の生きる理由は……、
「先に死ぬと……後がすごく心配ですよ、貴方は」
「……フン」
終
〜作者の戯れ言〜
これは「消えた『蔵馬』」と対の話ですね。
あっちは記憶喪失とは違いましたけど……。
というか、4話構成なのに、記憶喪失だったのって、2話目までじゃ…(汗)
蔵馬さん死んだら…飛影くん、絶対ショックのあまり記憶喪失にもなると思うんで。
彼らはお互いがいるのが当たり前で、いないのは想像すらしていないと思います。
いつ死ぬか分からない世界でも。
予期せぬことって、何よりもショックだと思うから(経験済みです…仕事が仕事なんで…)
ラスト、夢オチですが……どうしても、蔵馬さんが死ぬ話は書けないんです…(読むのは、かろうじて……号泣しまくってますが)
書いてると、途中でめまいがしてきて、「駄目だ! ラストでは生きてないと!」と。
どれだけ大怪我したって、どんだけ酷いことになったって、最後は絶対に助かってくれないと駄目なんです。
蔵馬さんの時間がそこで止まるって、すごく怖くて……。
というわけで、今後蔵馬さんが死ぬ話は最後夢オチか何かだと思ってください。少なくとも、そこでは終わりません(ちょっと待て)
もうちょっと上達したら、もしかしたら…かもしれませんが(当分はないかと)
ちなみに蔵馬さん以外のキャラはまだ挑戦したことないんで、どうなるか分かりません(どうなるんだろ、本当に…)