<黒鵺> 3

 

 

 

「なあ…蔵馬」

ふいに幽助が呟くように言った。
顔を起こし、視線を幽助へ向ける蔵馬。

 

「ん?」
「傀麒…だっけ? そいつ、他の過去が読み取れてても……黒鵺の姿で来たと思うぜ」

きょとんっとする蔵馬。
しかし、幽助は珍しく真面目そうに……そして、少し悔しそうに言った。

 

「お前、今本当に楽しそうだぜ」
「……そう?」

「ああ…マジで、大事なダチなんだな、黒鵺って」
「……ああ」

 

嬉しそうに、少しだけ頬を赤く染める蔵馬。
そういえば……過去に浸って、楽しかったのは久しぶりだった。
いつも思い出すのは、血にまみれた魔界の記憶で……楽しい想い出は一つもなかった。

いや、なくて当たり前だった。
黒鵺のことは、あまり思い出したくなくて……心の底に封印していたから。
誰かに心の扉をこじ開けてもらわないと……見られなかった。

 

辛いと同時に、一番楽しい想い出を……。

 

 

 

 

 

「でも、幽助。俺にとっての友達は黒鵺だけじゃないよ」
「ああ?」
「幽助や飛影や桑原くんもだよ」

「……そういうこと、真顔で言うなよ…はずいだろ」
「そう?」

少し赤面しながら言う幽助。
面と向かって、こういうことを言われては、流石の彼にも照れが出てくる。
もちろん言ってくれて、嬉しくないはずはない。
黒鵺を大切にしている蔵馬を見て、すごく黒鵺が羨ましく思えたのだから……。

 

 

「ところで幽助。何でいきなり? あれからもう数年経ってるのに」
「あ、いや……あれ見てさ」
「……ああ。そうか」

桑原家の庭。
これから色々なものが飾られる、大きな植物。
今はまだ何もなく、ただ薄い緑色だけ……しかし、それはそれでとても美しかった。

血色に染められるには、あまりに惜しいほど……。

 

 

 

「ただいまー!」

「……おっ、帰ってきたな」
「そうみたいだね。行こうか」
「おう」

一緒に立ち上がり、玄関へと迎えに出る幽助と蔵馬。
七夕の飾りを買いに行ったにしては、随分と時間がかかっていた気がするが、多分他にも色々買い込んでいたのだろう。
桑原がぶっ倒れる寸前なのは、容易に想像がつくことである……。

 

と、ふいに一度蔵馬が庭を振り返った。

「どうした?」
「いや、何でもない…行こう」

 

庭でサワサワと揺れる緑の植物。
あの日から…最後に武器として使ったあの日から、もう二度と見たくなかった。
今年の七夕祭りに参加したのも、ほんの気紛れから。
それでもあまり庭には目をやりたくなかった。

 

だが、今は違う。

目に焼き付けておきたい。
血に染まらぬ、美しい緑色は、あの日の思い出だけでなく、今を感じさせてくれるから……。

 

 

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

リクエストは、「なぜ、映画の妖怪は、黒鵺と蔵馬の事を知っていたのか」だったのですが、『冥界死闘編 炎の絆』のアニメコミックスに「相手の過去を読み取る」って書いてあったので、多分元々そういう能力があったんだろうな〜と。
勝手な解釈ですが、こういう感じになってしまいました(おい)

後、黒鵺さんが冥界出身だったというのは、これまた勝手な解釈です。
普通に考えて、魔界の人が冥界復活になんか協力しないだろうし、けど偽黒鵺が「オレたちの夢を砕こうと…」とか言ってたのを、蔵馬さんは否定しなかったし。
あの時点で偽物だと気付いていたかどうかは定かでないですが、気付いていなかったとすれば、絶対変に思うはずだし…。
じゃあ、元々冥界の人だったのかな〜と。

前回のリクエストでは、飛影くんと蔵馬さんが仲良かった(←!?)ので、今度は幽助くんと。
桑原くんでもいいかなと想ったんですが、魔界に精通してるのは、魔族の彼かなと思いまして。

にしても、ちょっと暗いかな〜。
というか、季節違うし!!