序章

<ゲームの世界へ…>

 

……その日、幻海の寺はいつもに増して賑やかだった。

螢子の大学合格祝いと称して、みんなで酒盛りをしていたのだ。

幽助・桑原はもちろん、蔵馬と飛影も祝いに来てくれた(飛影は蔵馬に引っ張られてだが…)。
静流も酒を片手に乗り込み、霊界からはぼたんとコエンマまでがやってきてくれた。
元々、寺にいる幻海や雪菜を加えれば、合計11人。
プーもいれれば12人にもなる、大人数である。

 

「螢子ちゃんの合格を祝って、かんぱ――――い!」
「ちょっと!幽助!あんた未成年でしょ!ジュースにしなさい!ジュースに!」
「かてーこというなよ!おめーも飲めよ!」
「飲めるわけないでしょ!!」

皆でわいわい騒ぐのも久しぶりである。
ひたすら食べたり飲んだりしながら、数時間が経過した……。

 

 

 

「あ〜、喰った喰った」
「飲んだ飲んだの間違いでしょう…」

「あ?これ何だ?」

ふと桑原の瞳に飛び込んできたのは、ゲーム機にセットされたままのカセットだった。

「ばあさんのゲームだろ?」
「違うね。あたしのじゃないよ」
「じゃあ、誰のだ?蔵馬のか?」
「いや。おれのじゃないよ」

「ああ、それはわしのだ」

残っていた饅頭を食べながら言ったのは、コエンマだった。

「コエンマの?おめーのゲームやるのか?」
「失礼なやつだな。これでもわしは、霊界の格闘ゲーム大会で300年連続優勝した実力者だぞ!」
「300年って……」

霊界にもゲームがあること自体に驚いている幽助だが、それ以上にコエンマが300年も連勝し続けているということに彼は一番驚いていた。

 

「でもこのゲームはRPGじゃないですか?」

タイトル横の小さなマークを目敏く見つけた蔵馬が言った。
霊界文字だが、「RP」と書かれてあったのだ。

「鋭いな、蔵馬。実は最近、ゲームをするよりも創ることに凝っておってな。まあ、RPGはこれが初めてだ」
「…コエンマが創るからには、ただのゲームじゃないよな?」
「もちろんだ!ただのゲームを創っても面白くないからな!このゲームは……」

「言うよりもやらせろよ。百聞は一見にしかずって言うだろ。電源入れるぜ」
「わっ!馬鹿、幽助!」

コエンマの制止も聞かず、幽助はスイッチを入れてしまった……。
途端、コエンマの顔が蒼白になり、続いて大声で叫んだ。

 

 

「ああーー!!何ということをしてくれた!!」

「はあ?たかがゲームに何興奮して……なっ!」
「えっ!?」
「な、なんだこりゃーー!!」

突然、ゲーム機から黒い煙があふれ出してきた。
あまりに突然だったので、流石の幽助も逃げる暇はなく、そのまま口から鼻から、大量に煙を吸い込んでしまった。
当然、すぐ横にいた蔵馬・桑原・飛影・コエンマ・幻海の4人も巻き添えに……。

「コエンマ様!なんですか!?今の叫び声…」
「ば、馬鹿!!来るな!」
「えっ…な、何さこれ!?」
「ゴホゴホッ…けむた〜い」

コエンマの絶叫を聞きつけてきた螢子・静流・雪菜、挙げ句の果てにはプーまでに捕まってしまった。
つまり……この寺にいる全員が、この部屋に集結し、ゲーム機から出現した煙を吸ってしまったのだ……。

 

 

「コ、コエンマ!」
「これ一体どういうことだ!?」

「……このゲーム…電源をONにすると、プレイヤーの魂を身体から強制的に離脱させ、ゲームに引きずり込むものなのだ。しかも中で死ぬと、外でも死ぬ…」
「なっ…」
「しかも、主人公になった者が全てクリアしない限り、出ることは出来ん!」

かなり無茶苦茶なことを言ってくれるコエンマ。
天沼のゲームどおりにシナリオが進んでいくのも厄介だったが……コエンマの創ったものなのだ。
それ以上のものであることは、まず間違いないだろう……。

 

「じょ、冗談じゃねえぜ!!何で、そんなやべえゲーム創ったんだよ!?」
「ゲームごときで死ぬなんて、死んでもゴメンだぜ!!」
「桑原くん…日本語変だよ」

ぎゃんぎゃん叫ぶ幽助と桑原に、さらっと突っ込みを入れたのは、もちろん蔵馬だが…。
生憎、桑原は叫ぶのに必死で全然聞いていなかった。

しかし、コエンマも負けずと反論!

「これから安全装置つけようと思っていた所なんだ!死んだ場合の処置用のを!!その前にスイッチ入れたのは、何処の誰だ!!?」

「…浦飯〜」
「幽助〜」
「…や、やっちまったもん、しょうがねえだろ!全クリアすればいいだけじゃないか!!」

「あのな〜!!!(怒)」(×8)

 

そうこうしている間に…一人また一人と、肉体から魂が摘出されていく……。

「螢子!!ぼたん!!バーサン!!」
「雪菜さん!!姉貴!!」
「雪菜!!」

女性軍は皆、魂のない人形と化してしまった……。
となれば……次は男性たちである。

「くっ…コエンマ!とにかく主人公が全クリアすればOKなんですよね!誰が主人公になるんです!?」
「そ、そうだぜ!!螢子とか雪菜ちゃんがなったら、やべーじゃん!!」
「何を〜!!雪菜さんが主人公じゃなんで悪いんだ!!」
「一番RPGやったことなさそうじゃねえか!!別に悪いなんて言ってねえよ!!」

この期に及んでまだ喧嘩をしている幽助と桑原…。

コエンマは呆れつつも、とりあえず返答した。
もちろんちゃんと聞いている蔵馬に……。

「……はっきり言って分からん!!このゲームの中で、誰がどんな役割のキャラクターになるかは決まっておらんのだ!!それぞれの特性なんかが関連してくるとまでしかな!!」

……こんな無茶苦茶なゲーム、他にあるだろうか…やはり、ある程度選べる天沼の能力よりも数百倍厄介であった……。

「しかし、その役は嫌でもやり通してくれ!!生きて帰るためだと思って!!健闘を祈る……」

言いかけたコエンマの魂が摘出され、その直後、幽助や蔵馬たちもゲームに呑み込まれてしまった……。
もちろん、不満たらたら叫びながらだったが……。

 

 

……こうして、ゲームの中に引きずり込まれた幽助たち。

果たして、無事、元の世界へ戻ることが出来るのだろうか……。

 

序章終わり