その12 <抜け道へ…>

 

 

アホらしい気持ちのまま、歩琉都牙を後にした一行は、とりあえず予定通り熱沙羅ー夢まで戻ってきた。
この近くにホビットの乃流土がいるはず……しかしすぐ探す気になど、到底なれず、そのまま宿で思いっきりくつろいでいた。

「でよ〜。その手紙かなり短いんだろ?そんなで大丈夫なのか?」
「多分ね。ああいう王を慕っている以上、こんな手紙を書く王だってことは、知っているだろうし…」

そうは言ったものの、蔵馬自身かなり不安だった。
こんな短絡した文章…しかも自分の言いたいことだけ書いて、相手の安否の確認などは何も書いていない。
普通の者が受け取ったら、かなり怒るのではないだろうか?

 

「(まあRPGで無駄に長い文章は、裏がある場合がほとんどだから……文面ではなく手紙自体に意味がある場合は、短絡していてもおかしくはない……とはいえ、こんな手紙でいいのか?)」

1人頭を抱えている蔵馬。
しかし、他3名はそれに全く気づいていなかった。

「(蔵馬が言うんだから、平気だろうな)」
「(まあ蔵馬が言うんだし…)」
「(手紙が通じんのなら、腕ずくで…)」

約一名、全く違うことを考えているらしいが、まあそれは置いておくとしよう。
明日は東へ向けて出発する(予定である)。
今まで以上に凄まじい闘いが待っている可能性もあるのだから、今夜はぐっすりと休まねば。
最も、まだ午後3時で、ぐっすり寝るにしてもまだ速すぎるような気もするが……しかし彼らの常識の言葉は通用せず、翌日の朝までぐっすりと眠りこけていたのだった。

 

 

 

「何だ、すぐそこだったんだな」

熱沙羅ー夢より、東へ数q。
森を少し分け入った所の山腹に、その洞窟はあった。
確実な情報があったわけではないが、ここがホビットの乃流土がいるイベントの中間地点であると、誰もが信じて疑わなかった。
これで罠であれば、次に出会った時、コエンマの顔は二度と拝めないようなものになっていただろうが……。

しかし、その心配はなかったようである。
まもなく、洞窟の奥に灯りが見えてきたのだ。

「井戸だ。何かバケツ吊してあるし……誰か住んでるみてえだな」
「おっ、あっちに誰かいるぜ!」
「本当か!?」

桑原が指さしながら走っていく方、一段と灯りが強くなっているところに、うっすらと人影が見えた。
誰だか分からないが、間違いなくホビットの乃流土であろう。
これで、東へ行ける=胡椒が買える=船で何処へでも行ける、という計算式が成り立っていたため、幽助たちは意気揚々と彼の元へ走っていった。

だが……。

 

「出て行け!ここは貴様らのような俗物の来るところではない!!」

話しかける前にいきなり怒鳴られた。
しかし、それに対して幽助たちは怒りをあらわにしなかった。
どちらかというと……例によって呆気にとられていたのである。

「何で…」
「こいつがここに……」
「深く追求するのはやめよう……」
「?」

三人は呆れかえっているが、1人はよく分かっていないらしい。
なのに怒らなかったのは、彼が物色に熱中していて、乃流土の台詞を聞いていなかったためだろう。
それは何も知らない乃流土にとって、幸運以外の何物でもなかったはずである……。

しかし、その約一名がホビットの乃流土の正体を知らなかったのも、無理はない。
彼はその男と対峙したことがないばかりか、直接顔を拝んだことがないのだ。
他の三人はちゃんと面識あり、一名は一瞬だけ対峙して、一瞬にして顔面に素足で蹴りを入れた覚えがあった。

そう、ホビットの乃流土の正体……それは、元・霊界特別防衛隊の大竹だったのだ。
幽助を抹殺するために、入魔洞窟へやってきた霊界特防隊の元隊長。
魔族となった幽助はもはや彼の手には負えず、結局指令は失敗して、辞任したと聞いたが……。

 

 

「こいつがな〜」
「別にいいけどよ。その後ムカつくこともなかったし」
「いつまでここにとどまる気だ!とっとと…」
「あ〜、ちょっと待て待て」

大竹があまりに怒鳴るので、うざったくなった幽助たち。
もう面倒なので、いきなり本題に入ることにし、袋の中から手紙を引っ張り出した。
三つ折りにされた手紙を広げると、本当に文字数は少なく、流石の幽助たちも呆れを隠せなかった。

「マジで少ねえな……」
「コエンマらしいっちゃ、コエンマらしいけどな……えっとな〜、大竹のおっさん…じゃねえ、乃流土。これな、歩琉都牙の王から、てめえに宛てた手紙なんだよ」
「歩琉都牙の!?」

その名前(?)を聞いた途端、乃流土の顔つきが変わった。
驚きの反面、何処か柔らかくなったよう……王と知り合いだと察したのか、少しばかり警戒心も和らいだらしい。
この調子で話を進めれば、OKだろうと、幽助は手紙を読むことにした。

「読むぜ。『親愛なる乃流土へ。この手紙を持つ旅人を…』って旅人!!?」

ぎょっとする幽助。
横で聞いていた桑原も同じような顔をしながら、手紙をのぞき込んだ。
しばらく手紙とにらめっこをしていたが……。
やがて2人の顔は同時に持ち上がった。
その面には、明らかに怒りが……。

 

 

「おい、ちょっと待て!!俺たち旅人じゃねえだろ!?」
「勇者一行じゃねえのか!?」
「まあいちおうはね」
「じゃ、何で旅人なんだよ!!?」
「コエンマも苛ついてたんだよ、きっと」

何故か当られている蔵馬。
当の本人であるコエンマがいない以上、他の誰かに当るしかないだろうが……しかし、蔵馬いえど、やはりそれは気にくわなかったらしく、

「というよりも、君たち手紙広げた時に読まなかったの?」

と、少しキツイ…しかし正しいツッコミを入れた。

 

「うっ……(×2)」

押し黙る幽助たち。
どうやら図星だったらしい……文字数しか見ていなかったらしく、手紙の内容は眼中になったようである。
ツッコミを入れつつも、本当だとなれば、呆れるほかない。
深い深いため息をつきながら、蔵馬は幽助の手から手紙を取った。

「じゃあ続き読みますね。『蛮の抜け道へ案内してやってくれ。歩琉都牙の王より』だそうですよ」
「なるほど…東へ行きたいというわけか」
「ええ、まあ…」

乃流土の態度の変わりよう……まあRPGならば珍しいことでもないが、現実の大竹を見ている者としては、少々苛つく面もあった。
幽助本人は気にとめていないらしいが、彼は幽助を一度殺そうとした男である。
蔵馬が嫌いでないはずがない……。

しかし、ここで余計なことを言っては、ゲームが進まない。
しゃくに障るが、我慢せねば……。

「なるほど。歩琉都牙の王の頼みとあらば……ついてこい」

そう言うと、乃流土はさっさと歩きだした。
早いところ終わらせて、追い出したい……そんな気持ちなのだろう。
蔵馬はそれを察していたが、何も言わず、まだ物色していた飛影に声をかけ、彼の後についていく。

 

 

だが、肝心の勇者たちは……。

「コエンマのやろ〜。」
「ぜって〜、許さねえ……あんだけ、人のことコキつかっておきながら旅人だ〜。次に会ったら、ぜって〜ボコボコにしてやる……」

怒りの闘志を燃やし続ける幽助と桑原。
いくらなんでも自分たちの周囲から三人もいなくなれば、気づきそうなものを……だが2人は、自分たちから本当に立ち上った炎が、辺りにものを燃やしだしていたことにすら気づいていなかった。

2人がようやく、蔵馬と飛影がいなくなっていることに気づいたのは、辺りが完全に炎をつつまれ、ほとんど逃げ場がなくなり、自分たちもまたコンガリと焼け焦げた頃だった……。

偶然にも、慌てて走り出していった方が、抜け道の出口だったのだが……。
その後数十分、蔵馬たちに怒鳴りまくっていたことは必然であり、それを2人は適当に聞き流し、あるいは言い返しようのない反論を口にしていたのもまた自明の理。
(そもそも幽助たちに声をかけなかったのは、さっき八つ当たりされた仕返しだったのだし)

最も、一番怒っていたのは、洞窟を焼かれ、住処を失った乃流土だが……彼の話を聞いてくれるような心の広い者は、残念ながらこの場にはいなかった……。

 

 

第3章 終わり

 

 

〜作者の戯れ言 中間編 その6〜

第三章終わりました〜。
やっと主人公パーティが強くなり始めた頃ですね!
最もそれはプレイヤーが上手だったらの話ですけど……(いっこうに強くなれません…)
ちなみに管理人の小説は、主にアニメを元にしてありますので(漫画だと師範が死んじゃうから)、大竹が宗教集団として審判の門を占拠した話は、なかったことになってます。
ついでですけど、本当のゲームでは、洞窟が焼け落ちるなんてことないですから〜!