その13  <他国へ…>

 

「……開いたね」
「みてーだな」

目の前に広がる光景に、喜ぶよりも呆気にとられる幽助たち。
さっきまでただの袋小路となっていた壁……そこに巨大な穴が開いたのだ。
しかもその先には道が……。

「ここが昔、冒険者たちが旅立っていったという道ですか?」

同じく呆気にとられている鈴駒を振り返りながら、尋ねる蔵馬。
鈴駒もハッと我に帰り、

「あ、うん。道が出来たね。これで先に進めるや」
「んなこたー見りゃ分かる。じゃあな」

ひらひらと手を振りながら、ガレキの山をどかし、出現した通路に入っていく幽助たち。
しかし、あまりに呆気なさすぎたことと、数分間ムダに悩まされたことに苛立ち、あまり乗り気ではなかった。
もしその道へ入ってすぐ、蔵馬があるものを発見せず、そのまま進んでいったならば、おそらくはオチっぱなしだったろう……。

 

「あっ!」
「どうした蔵馬…」

蔵馬が発した声が「感激」の意味を含んでいたことにも気が付かず、うざったそうに振り返る幽助たち。
しかし、次の一言には全員の瞳の色が驚喜に一変した。

「宝箱」
「何!!!?(×3)」
「な、中身なんだ!?」
「まさか薬草とかじゃねえよな!?」
「武器がいい武器!」
「急かさないで。中身は……あ、地図」
「地図???(×3)」

今まで手に入れてきたどのアイテムにも当てはまらないものである。
装備することなど到底不可能だし、かといって回復や交換するものとも違うようだし……。

 

「まさか亜利亜半のじゃねえよな?ほとんど見てまわったのによ……」
「さあ。まだこの世界の大きさ把握出来てないから……あ、箱に何か描いてある」
「何だって?」
「えっと……ああ。この地図、世界地図みたいだ」
「世界地図!?」

と、思い切り驚いては見たものの、感激するべきなのか落胆するべきなのか、よく分からず、蔵馬除く三名は顔を見合わせた。
最も、飛影はすぐにそらしてしまったが。
しかし、蔵馬は1人、地図を見回しながら、その便利さに感嘆の息を漏らしていた。

「(なるほど、今ここか。基本的には進んでいって初めて記入されるみたいだけど、地形からでも充分何処に何があるか粗方予想がつきそう……いや、コエンマのゲームだからそこらへんいい加減かもしれないか……でもこういう余計なところに彼はこだわりそうだし…)」

「なあ、蔵馬!それいいものだったのかよ!」
「え?ああ。かなり重要なものだ」
「本当か!?」
「って、気付いてなかったのか?さっき驚いたのは、何を驚いていたんだい?」
「うっ…」

まさか単に驚いてみたかっただけとも言えず、

「よ、よし!行こうぜ!!」
「そ、そうだな!!」
「ちょっと、慣れないところで別行動は危険…」

誤魔化して無理に張り切り、さっさと階段を下りていってしまった幽助たち…。
彼らなりに、必死になって分かっていなかったのを隠していたつもりだったのだろうが…。
しかし……伝説の極悪盗賊と謳われ、魔界最強の知将であろう彼が、そのくらい気が付かないわけがない。

「……まあいいけど」

からかおうかとも思ったが、まあいいかと、先に階段を下りていった幽助たちを追う蔵馬。が、階段の下で既に乱闘が起こっていることには、それ以上に呆れかえった。

 

 

「……本当に好きですね」
「見てねえで、手伝えよ!!こいつら何か攻撃してこねーけど、とりあえず!!」
「ああ。多分、いきなり幽助たちが来たから、驚いてるんでしょ」
「あ、そう。って、手伝えってば!!」

本来ならば、敵が現れようものなら、先を争ってターゲットを狙うのだが……。
RPGの原則「攻撃は1ターンに1回のみ」により、味方の戦力を頼らざるを得ない状況なのだ。
蔵馬のようにグループ全体に攻撃出来るようなものならば、まだいいだろうが、幽助の持っているのは相変わらず銅の剣だけ。
ショットガンも、普通にパンチを乱れうちにすることも出来ないのだ。

本当にゲームというものは……とりわけ敵数が多い時などに思うのだが、本当にRPGというものは、不便極まりないものだと、つくづく実感する幽助であった……。

 

 

……が、そんな気持ちも、

タタタンタタターーン!!

…の音が、聞こえてきた途端、何処かへ吹っ飛んでしまった。

「誰だ!?誰があがったんだ!?」
「幽助。レベル4になってるよ」
「本当か!?よっしゃー!!」
「後、俺と飛影も」

ガクッ…

また自分と同時に誰かが上がり、落ち込む幽助。
これでは全然差が縮まらない……。

「まあ、そんなに落ち込まないで。あ、ほら、呪文覚えてるよ」
「呪文ってどんな?」
「保衣深(ホイミ)。回復呪文だ」
「回復って、俺あんまりそっちの方は……」
「ま、そうでしょうね。貴方は後先も考えず、攻撃ばかり単純に突っ込んでやっていくのが、性にあってると思いますよ」
「……そこまで言うかよ」

はあ〜っと深く深くため息をつく幽助。
ここまで普通にさらりと言われては、桑原に対するように殴る気にもなれないし、螢子に対する時のように怒鳴る気にもなれない。
まして、飛影のように本気で喧嘩をする気にも……。
敵の逆鱗に触れず、普通に悪口(?)を言える蔵馬。
もしかすると、ある意味世界中で最強なのかもしれない……。

 

 

その後も、幾度かモンスターと対峙し、卑怯にもいきなり攻撃をしかけてこられれば会心の一撃などでぶっとばし、宝箱を見つけては浮かれ、中身が単なる毒消草であれば落ち込み、珍しく聖なるナイフなど見つけては誰が持つかでモメ(結局、飛影のものになった)、床に開いた穴に落ちては、最初の階段にUターンし……。

本当に色々とあったのだが、ようやく出口らしいところへと辿り着くことが出来た。
だが……、

「……どれだ?」
「さあ…」

目の前に立ちはだかるは、3つの道。
特に区別があるわけではなく、ただ3つに分かれていたのだ。

「どれにいけばいいんだ?」
「さあ、知りません」
「おい蔵馬!お前盗賊だろ!道くらい分かんねえのか!?」
「あのね、幽助……盗賊だからって、万能じゃないよ。第一、方角の確認はマッパーの仕事で盗賊の役目じゃない。まあ、このゲームにマッパーがあるかどうかは謎だけど」

「……マッパーって何だ?」
「そのまんま。マップを見る人のこと」
「…マップって何だ?」
「……」

ここまで言って分からないとなると、もう言う気になれない蔵馬。
いくら中退したとはいえ、彼は仮にも中学三年生までは進級出来た男である。
それくらい知っているはず……。
そうでなくても、マップという言葉は日常でも使われたりするのに……。

「なあ、蔵馬!マップって何だよ!」
「…桑原くんに聞いて」
「ヤダ!桑原にだけは!!」
「あ?俺がどうかしたか?」

しばらく飛影と些細なことで(雪菜がらみ)もめていた桑原が、いきなり自分の名前が出てきたことに気付き振り返った。
しかし、それに幽助が答えるわけもない。

「何でもねえよ」
「教えろよ!気になるだろ!」
「うっせー!何でもねえって言ってるだろ!」
「何もねえんだったら、そこまでムキになるわきゃねえだろ!教えろ!!」
「ヤダ!!」
「あ、やっぱり何かあるんだろ!?」
「ねえよ!!」

 

……この小学生の喧嘩のような、いかにもアホらしい言い合いは、この後数十分続いていた。

ようやっと、双方疲れ果て、喧嘩が終わる頃……。
既に蔵馬と飛影は道を向かって右だと見抜き、いつまでもぎゃあぎゃあ言っている勇者と遊び人をほったらかし、先に行ってしまっていた。
しかも、その袋小路にあった小さく奇妙な青い泉から、ここでない別の場所にまで先に行ってしまっていたりもする……。

洞窟内で別行動は危険だとさっき自分で言った蔵馬だったが……。
まあ単独行動ではないからいいということなのだろうか?

 

第一章、終わり

 

 

〜作者の戯れ言〜

とりあえず第一章終わりました!
まだ最初の大陸から出てもいませんけど……ようやく、出たというところかな?
前途多難、先の全っっく見えない冒険の旅。
果たして何とかなってくれるんでしょうか…?